第33話 愛の鞭
「アッシーお待たせ」
直樹に笑いかけると、姫麗が千春をジト目で睨む。
「事情はアッシーから全部聞いてるし。浮気してデマばら撒くとかどう考えてもあんたが悪いっしょ。人として恥ずかしくないわけ?」
「ぁ、ぅ、ぁぅぁぅ……、ぉほっ!?」
内弁慶で人見知りの千春である。
姫麗みたいなギャル系女子は大の苦手だ。
涙目になって慌てると助けを求めるように直樹を見る。
おほっ!? については依然謎のままだが。
なんにしろ、直樹が千春に助け舟を出す事はない。
「直樹ぃ……」
情けない声を出すと、覚悟を決めたのか千春はキッと姫麗を睨んだ。
「あ、あなたには関係ありません!」
「あ~し相手に猫被んなくてもいいから。てかあ~しはアッシーの彼女だし。関係なくないっしょ」
「そ、それは……」
もにょもにょすると、千春は突然開き直った。
「あぁ~もう! 面倒くさい! 援交しまくりで男騙しまくってるヤリマンビッチに説教される筋合いないし! 直樹を弄んでるって意味ならあんただって同じでしょ!?」
「残念でした~。あ~しは本気だしぃ? ねぇアッシー?」
ベーっと舌を出すと、姫麗が直樹の腕に抱きついて頬釣りする。
「んなぁ!? 直樹から離れなさいよ!?」
千春は真っ赤になって怒った。
「やだぷ~。て~かちはビッチなに怒ってんの? まさか勝手にフッといて未練たらたらとか? ちょ~ウケるんですけど。キャハハハ」
「ち、違うわよ! 誰がこんな良いとこ無しのクソオタク! こっちの彼氏の方が全てにおいて勝ってるし? あたしのお古の中古男なんか喜んでくれてやるわよ!」
ビキ。
姫麗のこめかみからそんな音が聞こえた気がした。
「は? テメーもっぺん言ってみろや」
止める間もなく姫麗が千春の胸倉を引っ掴む。
「な、なによ! 本当の事でしょ!? 暴力反対! 誰か、助けてぇ~!?」
「姫麗。怒ってくれるのは嬉しいけど暴力は流石に……」
悔しいが直樹も止めに入った。
千春の妄言なんかこれっぽっちも響かないが、こんな女に手を出して姫麗が不利な立場になるのは嫌だ。
「だってこいつアッシーの事悪く言うんだよ!? こんなに優しくて楽しくて良い人なのに! ちはビッチの事だってずっと守ってあげてたんでしょ!? それなのにこんなのあんまりだよ!?」
姫麗の目には悔し涙が滲んでいた。
それだけで直樹は救われた気がした。
「……姫麗がそう言ってくれるだけで俺は十分だよ」
優しい笑みで直樹は姫麗を引き剥がそうとするのだが。
「それじゃあ~しの気が納まんないの!」
姫麗は意地でも千春から離れようとしない。
「いや~! 誰か~! 殺されるぅ~!」
「大袈裟だし! アッシーに謝れし!」
「もういいって! こんな女ほっとこうぜ!」
「あたしの事こんな女っていったなああああ!?」
「ごふっ!?」
千春の頭突きが鳩尾に入り、いよいよ三つ巴の様相を呈した頃。
「ストップだ。君達、喧嘩はいけないよ」
現れたのは浮気男の金城だった。
「金城さん!?」
ヤベっという顔をすると、千春は一瞬の隙を突いて姫麗の手から抜け出し、金城の胸の中に飛び込んだ。
「怖かったですぅ~! この人達が急に因縁をつけてきて!」
「そうなのかい?」
「ちげ~し! てかその女は――」
「聞かないで金城さん! この人私に大学生の素敵な彼氏がいる事を嫉妬していつも学校で意地悪してくるんです!」
「なるほど。そういう事」
納得した顔をすると、金城がこちらに笑顔を向ける。
「イジメは立派な犯罪だ。これ以上僕の恋人を傷つけるなら警察に相談するよ?」
「はぁ!? だから違うって――」
「もういいって姫麗。相手をするだけ時間の無駄だ。折角のファンタジーランドなのにこんな奴の相手をする事ないだろ」
自分の為に姫麗が本気で怒ってくれた。
それだけで直樹は十分だった。
それにだ。
「千春の奴嫉妬してるだろ? 作戦は大成功だ。俺達が普通に楽しむのが一番の仕返しになる」
耳元で囁くと姫麗はニヤリと悪い顔をした。
「だね。他にもあ~しらヤリたい事い~っぱいあるしぃ~?」
意味深な姫麗の発言に千春がギリギリと歯軋りをする。
だが、金城の手前これ以上は絡んで来なかった。
「そ~いうわけだから。ばいばいちはビ~ッチ。アッカンベロベロバー」
最後に思いきり挑発すると、二人で腕を組んでその場を離れようとする。
「そういえば千春ちゃん。夕方王都エリアでベストカップルコンテストってのをやるそうだよ。面白そうだから参加してみない?」
不意に金城がそんな事を言った。
千春の口元が邪悪に笑う。
「いいですねぇ。是非参加したいです。どうせ優勝するのは私達でしょうけど」
これ見よがしにそう言った。
そこで決着を付けようという事なのだろう。
「……アッシー」
やる気満々と言った顔で姫麗が呟く。
直樹としては乗り気ではない。
千春とドンパチする時間があるのなら姫麗との時間を大切にしたい。
だが、千春との戦争に姫麗を巻き込んだのは自分である。
だから直樹はこう言った。
「わかってる。あのクソビッチに目にもの見せてやろうぜ」
†
「……ありがとうございます。お陰で助かりました」
二人が見えなくなると、千春は清楚の仮面でそういった。
「恋人を助けるのは当然だろ?」
優しく笑う隆は珍しく格好よく見えた。
その顔が不意に下衆っぽく歪む。
「それにしても千春ちゃん。君も悪い女だねぇ」
「……え~と、なんのことですかぁ?」
「誤魔化さなくていいよ。影で全部見てたんだ」
言いながら、隆はリモコンのスイッチを入れた。
「ぉほっ!? お、ぉっ、それ、やめ、てぇ……」
押し寄せる刺激に膝が崩れて隆に縋りつく。
「悪い女は嫌いじゃない。君みたいに可愛い子なら特にね」
淡々と告げると、「あいつ、元彼なんだろ?」と隆が尋ねる。
誤魔化しきれないと見て千春はこくりと頷いた。
「やっぱりね。そうじゃないかと思ってたんだ。あっはっはっは!」
愉快そうに笑うと、隆はリモコンの数値を上げた。
「ぉ、ぉぉおおおっ!? か、かねじろざん!?」
「秘密にしてた罰。愛の鞭だよ」
下衆顔で言うと隆は耳元で囁いた。
「こう見えて僕、寝取り物が大好物なんだ。だから安心して。彼にはたっぷり、千春ちゃんの御主人様が誰なのか教えてあげるから」
(ご、ご主人様ぁあああ!? なに言ってんだこいつは!?)
千春は恐怖した。
隆がマジモンの変態だったからだ。
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