第19話 密告

 厚い雲が空を覆い、夕暮れのように暗い日だった。


 兵士がウォルター王子の執務室に来て言った。

「ウォルター王子、ビルト王から使者が来ています」

「何? 父上から?」


 ウォルター王子は使者を謁見室に通すように言った。

 ビルト王の使者はウォルター王子に告げた。

「ウォルター王子、ビルト王はフェロウ国に戦を仕掛ける準備をしています。ウォルター王子も戦いに加勢するように、とのことです」

「……分かった」

 ウォルター王子は使者を帰すと、伝令のアドルフを呼んだ。


「至急フェロウ国のアラン王に、ビルト王が戦の準備をしていることを伝え、この手紙を渡してくれ。私はビルト王と共に兵を進めるが、隙を見てビルト王の首を取る」

「ウォルター王子……お父上を裏切るのですか?」

「これ以上、無駄な血を流したくない」

「……分かりました」


アドルフは手紙を胸にしまい、馬に乗ってフェロウ国へ向かった。


***

 

 私はウォルター王子に呼ばれ、王子の部屋に向かった。

「ルネ、私がいなくなったらペアデ国はお前に任せる」

「ウォルター王子、突然何を言い出すのですか?」

 ウォルター王子は真剣な目で私を見た。


「無邪気に君に憧れていたころが懐かしい……」

 ウォルター王子は私の額にキスをすると、背を向けた。

「私は、私の仕事をする。リネ、いやリネット。君は君の仕事をしてくれ」


 私はウォルター王子の言っている意味が分からなかった。


 数日後。


 ウォルター王子は兵士を集め、ビルト王の軍に合流した。

「ウォルター、ペアデ国はどうだ?」

「随分荒れていました」

「そうか」

 ビルト王は大して興味のない様子で前を向いた。


「父上……」

「なんだ? ウォルター?」

 振り返ったビルト王の首を狙い、ウォルター王子は剣を振った。


「ウォルター!? 気が狂ったか!?」

 叫ぶテリー第一王子に向かって、ウォルターは言った。

「狂っているのは、父上だ!」

「クソッ! 裏切ったな!!」


 テリー王子の剣がウォルター王子の首を貫いた。

 ウォルター王子は馬から落ち、地面に転がった。


「いったん引くぞ!」

 テリー王子はビルト王の馬に飛び乗り、ビルト王を抱えてフォルツァ国に戻ろうとした。


「そうはさせない! 皆、敵を討て!!」

 フェロウ国から駆け付けた兵士たちが、テリー王子の指揮する軍隊に向かって一斉に切りかかった。

「!?」

 テリー王子は捕えられ、ビルト王とウォルター王子の遺体もフェロウ国の兵士に回収された。


***


「リネット王女はいらっしゃいますか?」

「……誰?」

「私はフェロウ国の使者です。フェロウ国においでください。フェロウ国のアラン王がお呼びです」


「何故私を? ウォルター王子は?」

「ウォルター様は亡くなりました」

「え……?」

「詳しい話はフェロウ国で説明いたします」

 私はフェロウ国の使者の案内でフェロウ国に向かった。

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