キミが死ぬだけの異世界奇譚

兎蛍

プロローグ

 彼は始めて桜の森の満開の下にすわっていました。いつまでもそこに坐っていることができます。彼はもう帰るところがないのですから。

 桜の森の満開の下の秘密は誰にも今も分りません。


『桜の森の満開の下』坂口安吾




「桜の樹の下には死体が埋まっている」


 いつも朗らかな態度でいるくせに、そいつは急に真面目な顔して文豪みたいなことを言い出すから、こっちまで真剣に返しそうになった。


「急に何だよ」

「あいつは、いつか本性を現すよ」

「誰のこと?」


 僕の質問にひとつも答えず、学校の非常階段の手すりにもたれかかって、そいつは遠くにある白雪山しらゆきやまを見ていた。誰も入ったことがないらしいその山には、初夏だというのに桜が咲いている。理由は知らないが、あの山の周辺だけ異様に気温が低いから、というのが通説らしい。さっきの戯言は、あれを見て頭に浮かんだのをただ言っただけとは思えなかった。

 そいつはまた変なことを言う。


「お前は埋まるなよ」

「だから何の話だって」


 振り返ると、そこに立っていた唯一の友人はもういなくなっていた。昼休みが終わるチャイムが鳴る。自分が呼び出したくせに、と悪態を心の中でつきながら開きっぱなしのドアをくぐった。


 数ヶ月後、同じクラスで3人の死者が出た。


 さて、この物語に出てくる旅の仲間は僕以外、ずっと何かを演じていた。

 全て知った時、僕は本格的に人生に絶望した。

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