第2話 富士の樹海で遭難なんて、ついてない! 

「あー! 幸せになりたい! カネ! カネ! 金があれば幸せになれるのに!」

 俺は富士山を登りながらそう叫んだ。

俺は神木ジンゴロウ(16歳)。高校生だ。

俺は昔っからついていない。家は貧乏だ。中学生になるまで、いわしのかば焼きをどんぶりに乗せたものをうな丼だと信じ込まされていた。

小・中・高といじめられていた。なぜか俺のクラスにはいじめっ子がいた。

好きな女の子に告白をしても、フラれ続けた。

「どうせついていないから」

「俺には運がないから」

 これが俺の口グセ。

 何をやってもダメなんだ。トランプのババ抜きではいつも負ける。

俺には運がないのだ。

 だから俺は、運気を上げるために、夏休みを利用し、日本一のパワースポットとも呼ばれる富士山へ登山に出かけたのだ。


富士山の五合目で長距離バスを降りた。

周りの人々は重装備だ。ジャージ姿の人間なんて、俺一人だ。富士山ってそんな重装備で登るもんなのか?

自慢じゃないが、登山の経験はない。

「まあ、こんだけ有名な山なんだから、まさか遭難はしないだろう」

 俺は軽快に第一歩を踏み出した。

 空が青く、まさに日本一の富士山登山にふさわしい日よりだ!

「おお! 運気が上昇しそうだ!」


 三時間後、気が付けば俺は一人、富士の樹海をさまよっていた……。

「なんで? どうして富士山を登っていたはずなのに、樹海にいるわけ?」

 あたりを見回すと、うっそうとした木々しかない。人影は見えない。

 道らしい道もない。

「これって、まさか、遭難したのか?」

 そうなんです!

 などと脳内でボケている場合ではない!

まずい! まずいぞ! このままでは死んでしまうかもしれない!

「はっ、そうだ。食料! 食べものはないか?」

 俺は服のポケットをまさぐる。 指先に何かが当たった。

「これは……さっきコンビニで買った、チョコレートバーか。一本しかない」

 このチョコレートバーは大切に食べることにしよう。俺はポケットにしまい込んだ。

「それにしても、行けども行けども、木ばっかりだな。こんなんでこの俺の運気があがるのかしらん」

 俺はぶつくさと文句を言いながらも、足を進めていく。

 まったく、遭難するなんて、ついてない!

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