第10話

 ご主人と珠美は何の問題もなく仲良くなってくれた。

 二人用の新しいチャンネルを作る準備も始まっているし、ちょこちょこ珠美はご主人の家へと遊びに来ている。


「……どこまで、どこまでやって良いのかしら?」

 

 今日もご主人の家へと遊びにやってきた珠美を歓待するため、近くのスーパーへとお菓子とジュースを買いに行ったご主人が不在のご主人の家。

 ご主人の母親も仕事で不在なので、家の中に残されているのは僕と珠美だけ……二人きりとなったタイミングで珠美がおずおずと僕に話しかけてくる。


『全部任せるけど?』

 

 珠美の言葉に対する僕の答えはシンプル。


『僕はあくまでご主人のペット……これまではご主人に様々なものを任せるにはちょっと不安だったから、全部僕が手綱を握っていたけど、珠美がいるのであれば別。全部任せて僕はペットらしく自堕落な生活を送ろうと思っているよ……僕に近づいてきたんだ。自分の人気のためならどんな手も使う覚悟はあるだろう?君になら任せられる』


「……え?」

 

 僕の言葉を受けて、珠美は困惑の声を上げる。

 全部任せるだなんて言われるとは思っていなかったのだろう。


「……」

 

 しばらく珠美は沈黙し、自分の考えを僕の前でまとめ始める。


「……貴方の、貴方の目的は何なの?」

 

 沈黙の後に彼女の口から出てきたのは僕の目的を問う言葉であった。


『大層な目的なんぞ僕にはないぞ?地上はダンジョンの中と違って様々な物に溢れ、娯楽に満ち溢れている。退屈なダンジョンよりも地上の方が遥かに良い。だが、傍から見ていて人間は愚かで可哀想だ』


「……愚かで可哀想?」


『うむ。自然を調伏させるほどに文明を発展させながら、金銭に己を調伏されている。生きるために必要なものを手に入れるための仕事であるはずが、その身を死するほどに追い詰める愚か者までいる始末。正気の沙汰ではない。三大欲求の一つである食欲を我慢して、食べぬもの。睡眠欲を我慢して、作業を行うもの。性欲を我慢して、本来生物が行うべき最大の義務であり、生きる意味であり価値である子を為すことなく死んでいく人々。人でない僕から見たらあまりにも謎すぎる生命体だ』


「な、なるほど?」


『僕は人間の文明が齎した様々な娯楽を堪能したい。しかし、生物性を放棄する人間のような生き方はしたくない。であるならば、だ。僕が目指すのは所謂ペットであろう。僕はご主人を豊かにさせ、僕はそのご主人のペットとして生を謳歌する。これが僕の目的である』

 

 僕は珠美を前にして堂々と自分の目的を口にした。

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