07.嘘八百

クレアはザインの団員と稽古しているところへ足を踏み入れていた。

ザインたちの稽古に混ぜてもらっている。

いつもは一人で素振りなどをしているが、人と交わって訓練するのはいつもと勝手が違い、戸惑う反面、思った以上に楽しい。

傭兵団員たちは、細身でありながら自分たちと同じ訓練に表情一つ変えずについてくるクレアを興味深々で見ている。

が、ザインの視線を感じ慌てて目をそらす。


「クレア、道具の手入れや整備も見て行くか」

ザインの声に、是非に、とクレアは答えた。


傭兵団員たちは、一瞬、ぎょっとする。

ザインとクレア本人たちにその気がなくても、武具や防具の整備という色気のないことであっても、男女が二人だけで部屋にいるのはまずいのではなかろうか。


副団長二人が同行を申し出た事を、クレアはきょとんとした顔をしながらも頷いていた。


祭り期間と言えど、所持している鎧や盾の手入れは怠らない。

一連の動作を黙々とこなすザインたちの手元をクレアは見ていた。

使用している道具や、部位の名称などについては何も尋ねず、ただ黙って見ている。

無言の時間が緩やかに過ぎていった。


ザインはクレアを横目で見る。

そこには、相変わらず冷たい頬があった。

しかし、本当にわずかではあるが、その目には興味津々な色を浮かべていることがわかる。


ふと、クレアの目が動き、ザインが見ていたことに気付いた。


「何か?」

「いや別に」


何でもない、と言うザインであったが、クレアはザインが視線をよこしてきた理由を知っていた。

自分の表情も言葉も乏しいためだ。

無言のクレアが何を考えているのか、気になったのだろう。


別に表情を消しているつもりはない。

仮に理由を尋ねられたとしても答えようが無い。

強いて言えば、自分には必要のないものの一つだ、と思っているからだろう。


表情豊かであれば、それに越したことは無い。

しかし、そういったことは女であることを捨てた時に、一緒にどこかへ置いてきたように思う。


例えば、にっこりと微笑みながら話をふれる様な性格であれば得なことも多かろう。

だが、一人の時が多く、このように特定の人間と親しくなることなど滅多に無い自分には無縁なものだった。


「…これで全部だ」


手入れも終わり所定の場所へ戻していく。


「ありがとうございます」


クレアの声はやはり無表情だ。

しかし、ザインは、こんなものを見るのが楽しいのか?とは尋ねなかった。

クレアは、それに気が付かない。


表情が無いということはない。

そのわずかな表情の表れに気が付く人物もいるということを、彼女はまだ知らない。


◇◇◇◇◇◇


副団長二人は、とにかく二人の空気に割り込んでいるのがいたたまれなかった、軽口や世間話をするのもはばかられた…と後ほど団員たちにこぼしていたらしい。



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