第209話 動物園に連れて行ってあげられるだろうか

 宿泊訓練が無事に終わった。大きなトラブルやクラスの結束が乱れることもなかった。

 二日目は山道を歩いて自然観察し山頂の広場でネイチャーゲームいう内容だったので特に何事もなかったのだが、野田さんたち三人が俺に対して急によそよそしくなって久しぶりに多々良くん呼びに戻されたり、やたら陽菜のいる班と一緒に行動したがったりと少し違和感があったけど、陽菜としずくと小烏こがらすが一緒なのは楽しかったのでそれはそれでよかったんじゃないだろうか。


 帰りのバスの中で陽菜がスマホでタプタプと何かについて調べながらあの山にタヌキかキツネがいるのかもしれないと深刻な顔で俺に告げてくるので、そんな調べものをスマホでしてたら車酔いするぞってスマホを取り上げて椅子を倒して休ませておいた。

 あれだけ自然が豊富だったら、キツネとタヌキもいるかもしれないけどそんなにキツネとタヌキに興味があるとは知らなかった。

 今度動物園に連れて行ってあげようかな? タヌキって世界的には珍しい生き物らしいし。

 動物園で外国の世界三大珍獣のコビトカバとトレード出来たって聞いたことがある。


 ちなみにバスの席は行きは出席番号通りの50音順だったが、帰りは入れ替わり自由だったのでなぜか早川さんが俺と替わってくれて陽菜の隣に座ることができた。

 ひょっとして早川さんって俺の隣に座っていた田中のことが好きなんだろうか? それとも今回同じ班で気が合った? 早川さんは可愛いし性格もイイから田中の方も満更じゃなさそうだ。


 それはそれとして陽菜が寝たので、俺は自分のジャージの上を脱いで陽菜にかけてやる。休憩の道の駅に着いたところで運転手さんからバスに備え付けられていたブランケットを借りられたのでそれも陽菜にかけてやる。

 代わりに俺のジャージを取り返そうとしたらギュッと握って放さないのであきらめた。寒いわけでもないからジャージの下のTシャツでも問題ないし。


 陽菜が昨日みたいな寝言を言ったら大変と思っていたがどうやら学校まで問題なく帰れそうだと思った矢先、「それはきっと狐に化かされてるんだよ」という聞き取りにくい寝言を言ったので何かよっぽどキツネのことが気になっているようだ。

 来週の日曜日は動物園に連れて行ってあげられるだろうか?


 夕方の5時に学校に着いたから陽菜を揺すって起こす。陽菜は俺の目の前で眠っていたのがちょっと恥ずかしかったらしく真っ赤になっていた。赤面する陽菜も可愛い。

 校庭で一同解散したので今日は家に帰る陽菜を見送った。陽菜はバスで眠って元気になっていたのでしっかりした足取りで帰っていた。


 今回の宿泊研修中、俺と藤岡は光画部として旅行の写真係だったので二人で光画部の部室に寄る。今は平日の夕方だから三年生は授業があったはずで部室ではさんご先輩が待ってってくれていた。

「おかえり、二人とも。宿泊訓練はどうだった?」

「ただいま、さんご先輩。特に問題なかったですよ。どっかのスケベな女子が男湯を覗こうとしなければ何のトラブルもなかったんですけどね」

「そう言いながら、覗いてもらえるってことにまんざらでもないくせに」

「あ、他の場面でみおがヤバい写真撮ってないか確認しないとって思ってたんだった」

 ガシッと俺が藤岡を羽交い絞めしてさんご先輩が素早く藤岡のカメラを取り上げる。


「えっと、それじゃあ光画部部長兼卒アル委員長の権限でみおちゃんのカメラの画像確認させて貰うね」

「みっつーパイセン、それだけは勘弁を~」

 藤岡の叫び声が夕方の旧校舎に響き渡った。

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 7/22、23は土日のため1日5話特別公開

 6,9,12,15,18時の1日5話更新となります

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