第148話 はぐれちゃったらいけないから
それじゃあ二人で夜桜を見よう、ということでレジャーシートから降りて靴を履く。
「お母さん、ちょっと恭介くんと出てくるね」
陽菜がさちえさんに一言言ってから出る。
「あ~ん、多々良~、多々良のお酌とおつまみが足りない~、ボークビッツ~食べさせて~」
「違うわよ、ちさと……前に私の部屋で触ったもん。あれはフランクフル~ト、アハハ~」
「恭介君、寂しくなったり我慢出来なかったらいつでも病院を訪ねて来てね」
失礼な担任教師だ、もっとでっかいし……そして女刑事はフルートを吹くふりをするな! あさかさんは天使でありがたいけど陽菜の視線が冷たくなるから止めて。
三人を無視して歩き出す。ツッコむと喜ぶので放置プレイの方向で。
道々ライトアップされて夜桜が綺麗。
自分のカメラをネックストラップで首から下げて来たので歩き歩き陽菜と桜の写真を撮ってみる。
夜だからシャッタースピードやISO感度を弄っていろいろやってみるがいまいち綺麗に撮れていない気がする。
「恭介くんってすっかりカメラが似合うようになったね。最初は構えてる姿に違和感が凄かったのに今はなんだか板についてるから」
「ありがとう、まだまだなんだけどね。さんご先輩とかみおと比べたら全然だよ。今日の奉納舞だってあの二人のおかげでいい写真と動画がいっぱい撮れてたし」
「ああ、本当に凄かったね。私から見ても綺麗でドキドキしちゃった。それと恭介くんもカッコよかったよ」
「アハハ、切られ役だけどね。何とか腰を抜かさずにすんだけど」
「本当にドキドキしちゃったよ。あんなギリギリに日本刀を突き付けられて怖くなかったの?」
「ああ、
「ふ~ん……」
陽菜が口ごもる。会話が途切れると通路の周りに広がっているシートの上で騒ぐ酔客たちの声が急に意識に上ぼる。通路も結構夜桜を眺めるお客さんが歩いている。
週末の花見日和、桜祭りの後、人出が多くてにぎわっている。
ぎゅぅ……陽菜がいきなり俺の手を握ってきた。
「えっ?」驚いた顔で陽菜を見ると
「と、友達、そう、友達だから……はぐれちゃったらいけないから友達だって手を繋ぐよね? それに私達幼馴染なんだし」
そう言いながら上目遣いで俺のことを見上げてくる。
可愛すぎるぅぅぅぅぅぅ! ちょっと頭と言語中枢がおかしくなりだったがどうにか踏みとどまる。
流石は超獣娘 陽菜……恐ろしい娘。
性欲過多な男子高生である俺では一撃で轟沈させられそうになったが、この貞操逆転世界の男子でも大破、最低でも中破で航行不可能に出来そうで怖い。
股間の獣のヤリが邪魔で普通に歩くことは出来まい。
流石はエロ師匠だけのことはある。相変わらず男の心を惑わせるのが上手すぎる。
今の流れって元の世界で考えるとイケメンの男子高生が女の子の手を握って優しくエスコートしながら「友達だけど君とはぐれたら寂しいから」とかはにかみながらいう感じか? 処女でも絶対堕ちるだろ、そんなの。
この女子が男子を誘惑するのが難易度MAXの貞操逆転世界で陽菜がどれだけの男を手玉に取って来たかが想像するに恐ろしい。
あ、今俺凹んでるかも。本当に自分の独占欲がイヤになる。自分の彼女でもない陽菜に独占欲なんて……でも、今陽菜の隣にいるのは俺なんだしこの時間はめいいっぱい楽しもう。
ギュっと手を握り返してつなぎ方を変える。いわゆる恋人繋ぎ。離れないように相手の体温を感じられるように二人で河川敷の方に向かって桜並木の下を歩いた。
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