第36話 これってプロポーズじゃないよね?

 ガララララ……

 俺と(もう諦めた、こいつを村上と呼び続けると脳が壊れそうだ)を中心にクラスが騒然としてるなか教室の戸が開いて一人の女子が入ってくる。


「お前たち、もうじき本鈴がなる時間だぞ。騒いでいないで席につくんだ」

 教室の中をぐるっと睥睨するように見回しながら皆に注意したのはこのクラスの担任ではない。


 風紀委員としてさっきまで校門に立って服装検査をしていて今戻って来たばかりの小烏こがらすひよりという少女だった。


 黒髪ロングのストレートで姫カットというんだろうか、ちょっとぱっつんとした感じで切りそろえられていて、顔は整っているがきりっとした印象が強い。

 女子にしては背が高くぱっと見に女剣士という感じだが実際に剣道場の一人娘で1年生にして剣道部のエースだったりする。


 入院中に見舞いに来なかった唯一の女子なので今日が初顔合わせだが、前の世界の情報と病院での岩清水から聞いた情報を総合して小烏こがらすで間違っていないと思う。


 ちなみに元の世界では俺の天敵みたいな関係だった女子で、黒ギャルで制服は着崩しアクセサリーなどもいくつも付けていたヒナのことを風紀を乱す不良扱いして目の敵にしてた。

 まあ、ルールを守っていないヒナが悪いんだが二人のいざこざを仲裁するうちにすっかり俺まで悪の手先のように見なされてあまり仲が良くなかった。


「ふむ……多々良か、久しぶりだな。実家の都合で見舞いに行けずすまなかったな」

 騒いでいたことを咎められることもなく深々と頭を下げられる。あれ? 喧嘩を売ってこない?

 ああ、そうか。こっちの世界の陽菜は私服こそお洒落さんだけど学校では制服もきっちり着こなして真面目に過ごしている上に、陽菜と多々良恭介の接点もほとんどなかったために小烏こがらすに目をつけられることもなかったってことか?


「ふむ……」

 俺の姿をまじまじと見つめるとスタスタと近づいてくる。

 ペタペタと胸や二の腕を触られる。なんだろうすごいデジャブ。


 えっと……こいつの場合は別かもしれないけどこれって元の世界で考えると男子高生が女子高生のおっぱいをいきなり揉みだしたくらいの案件だよな。

 その証拠に周りの女子がざわざわしている。

「まるも触る~」アホの子の丸川が参加しようとするが首根っこを捕まえて吊り上げておく。


「しばらく見ない間にしっかりとしなやかな筋肉をつけたようだな。

 立ち姿を見るだけでも体幹含めて見違えるようだぞ。剣道を始めて私と一緒に道場を継がないか?」

 俺の頬に右手を当てて俺の目を覗き込むようにしながら小烏こがらすが告げてくる。これってプロポーズじゃないよね?


「私の方が先にお見舞いに行って唾をつけておいたのにズルい~」

 岩清水が叫んでいるがややこしくなりそうなのでとりあえずスルーすることにした。

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