第四話  『初試合』

『試合開始です!』


 アナウンサーのそう言葉を発した瞬間、ビィィィっと短いブザー音が会場内に

 響き渡る。


「「「うぉぉぉぉ」」」


 直後、一斉にステージで待機していた選手たちがオブジェクト目掛けて

 飛び出す。十数人の男たちによるスタートダッシュ。


 当然彼らは互いに敵同士であることから左右のライバルたちの進路を妨害し

 足を引っ張り合う。


 そしてついにはそれが正々堂々の殴り合いへと発展する。


「くっ、出遅れた!」


 思った以上の会場の熱気と彼らの勢いに思わず気圧され、

 僅かに飛び出しのタイミングを逃す。


「おっと」


 すると突然、俺の前を先程こちらの様子を伺っていた三人の男たちが

 立ちはだかる。そして奴らは手慣れた様子で中央と左右に分かれ俺の

 進路を塞ぐ。


「何のつもりだ?」

「なんだお前、知らないのか。エスぺラルド恒例の新人潰しだよ」


 くひひと中央の男の名乗りに続いて背後の男たちが下劣な笑みを浮かべる。


「なるほどそういうのもあるのか」


 ポイントを取る為ではなく他社の邪魔をする為に参加する者。

 来る者を拒まないエスぺラルドらしい人種というワケか。


「(とはいえ面倒だな)」


 男たちの間からステージ中央の現状を確認する。

 試合開始の直後ということもありそちらの戦況はまだまだ拮抗している様子では

 あるが第一陣と距離も空いてしまったことから悠長にしている時間はあまり

 ない。


「ほらどうした掛かって来いよ」


 するとしばらくして、逡巡しながたなかなか動かない俺に対し、

 目の前の男たちが分かり易い挑発をかませ始める。


「じゃないと俺らが悪者みたいになるだろ。俺らはただ何も知らない新入生に

 この学園の恐ろしさを理解させてやろうってだけなんだからさ」

「そうそう無知な新入生が無闇にステージに立たないように注意喚起しな

 くっちゃーな」

「優しいよな、俺らは」


 ギャハハハとまたもや高笑いする男たち。

 その様子に流石の俺も我慢の限界で、拳を握りながら一歩前に出る。


「――――!?」


 瞬間、目の前の男の目つきが代わり、前蹴りを放なたれるも…………

 俺は咄嗟にその蹴りを腕でガードし受け止める。


「チッ、受け止めたか」

「なかなかやるじゃん」


『おっーと、今年もついに新人潰しが始まってしまった。上級生による

 下級生潰し。しかし卑劣と罵るなかれ、なぜならここはそう言う場所だ

 ――――勝者が正義、勝者が絶対! それがエスペラルドだぁ!』


 アナウンサーの声が響く中、男たちは交互に俺に攻撃を加えていく。


「おら!」

「そい!」

「ハハハ、どうしたどうした!」


 男たちはこちらに対し一切の容赦をすることなく拳を振るい続ける。

 その猛攻に俺はというと反撃することはなく、背中を丸め頭を腕全体で

 ガードしそれに耐えていた。


「なんだお前戦わないのか?」

「ビビって声も上げれないのか?!」

「ウケる、情けねぇな」


 俺は嘲笑う男たちを尻目に再度トロフィーの方へと視線を向ける。

 どうやらまだ一つも取られていないようだが、しかし人数的にそろそろ勝者が

 出る頃合いだ。


「――――もういいか」


 すると俺はゆっくりと頭のガードを下げる。

 そして前髪を掻き上げ、髪全体を後ろへと流す。


「お、なんだやる気になったのか?」

「ああ、ようやく温ったまってきたぜ」


 俺は髪を上げ切ると首と肩の関節を回す。

 男たちはその様子を横目に互いにやれやれといった感じで肩を竦める。


「いい度胸だな。ならすぐに血の気を引かせてやるぜ!」


 目の前の男は一目散に拳を握り振りかざす。

 それはさっきとは違い渾身の一撃ともいえる本気のパンチであった。


「ふぅ」


 しかし俺はその勢いに押されることなく呼吸を整え――――

 そして放たれたパンチを半身で躱し、相手の勢いに合わせ奴の左頬を

 殴りつける。


「ぐっぅ!」


 殴られた男はそのまま体を宙に浮かし吹き飛ぶ。

 それを見た他の奴らは一瞬戸惑いの声を漏らすがそれも束の間。


「なっ、こいつ!」


 奴らは怒りに身を任せこちらに向かってくる。

 きっとこいつらは自分達が勝つことを考えていない。


 恐らく新参をいたぶって、それを他の新入生に見せつけることで恐怖心を

 植え込むことが目的。どうしてそんなことをするのかは知らないが、

 そっちがその気なら手加減はしない。


「邪魔だ!」


 俺は躊躇することなく男たちを蹴り飛ばす。

 その勢いは凄まじく殴られた男同様一撃で相手の体を吹き飛ばす。


 その様子に観客席は凄まじい盛り上がりを見せた。


『ウォー、これはなんということだ。ここに来て新入生が新人がりを

 押し退けたー! すごいぞ新入生、これは期待の星だ!』


 アナウンサーと共に湧き上がる観客席を尻目に俺は先へと進み、

 三人の男を倒した勢いをそのままにトロフィーのある台座へと駆け寄る。


 周囲を見る限り何人もの出場選手が場に伏せっている。

 俺に警戒を示していなかった奴らは反応が遅れて俺を捕らえることはできない。


「(作戦通りだ)」


 そうしてトロフィーに手を伸ばす。


「!?」


 しかし瞬間、俺は背後に気配を感じ取ると同時に伸ばした腕を

 そいつによって弾かれる。


『あっーと、新入生が勝ったと思われた瞬間、それを止めたのは

 同じく新入生だー』


 その出来事に俺は手を弾かれつつ半歩後ろへと下がり、

 そいつの正面へと向き直る。


 と、そこにはどう猛な視線をこちらに向けた金髪の男が立っていた。

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