ep19 呆れと家族
体が動かない、視界もぼんやりしている。 音だけははっきりと聞こえてきて周りではキャッキャする声やシャッター音、お父さんもうやめてよ!という声など新学期に相応しい声が色々聞こえる。 そして俺のそばでは包装の袋のガサガサとした音が響いている。
「いつも言ってるが能力は無しだろ…… 」
「えぇ、ほうふぇふがふが 」
「せめて飲み込め 」
「能力使ったのは悪かったわ、でもいつものことじゃない 」
小学校の時だった。 ある日の登校時、コンビニから動かなくなったこいつを動かすためにたまたまポケットに入っていた飴を見せるとものすごい形相で奪おうとするので全速力で逃げた。 その時気づいたんだ、こいつを動かすには食べ物で釣ればいいと。 目には目を、空腹には食べ物を。
それからというもの度々動かなくなったらお菓子で釣ることにしていた。
その時視界に黒い影が移り、大きなため息が聞こえる。
「全くあんたたちは相変わらず初日から…… 」
「ははは!でもらしいじゃないか! 」
「そうですねぇあはは 」
聞き慣れた声、
「義父さんは?おいてきたのか? 」
「えぇ、仕事だしね 」
義父さんなら仕事を優先しそうだ。 俺がいなきゃ回らないからなって豪快に笑っている顔が浮かんだ。
「それより新品の制服に泥つけたこのことにあたしは許せないんだけど? 」
顔が暗い笑顔になる、背筋がひゅっとなる。
「いやそれはその、じゃ俺入学式あるから! 」
逃げるは恥だが役に立つ。 身にしみてわかった。 昔から義母さんには昔から頭が上がらない。 事故で家族を失った天涯孤独だった俺をここまで育ててくれたのもある。 しかし、あの笑顔が死ぬほど怖いのだ。
玄関に入ると健太郎が口に手を当ててプププと笑っていた。
「入学早々怒られてる人は僕初めて見たよ 」
「うっせ、あの三人は? 」
「あぁ、あの三人ならお父さんお母さんのとこに行ったよ。 実夕ちゃんが走って行っちゃったからね 」
あぁ、なぜか想像できた。 あの三人の親も見てみたい気持ちもあったが家族円満を邪魔するのは野暮だろう。
「お前のとこは来てないのか? 」
「僕かい? 来るわけがないな、親の反対を無視して入学したんだから 」
「おっと、すまない 」
「いや!僕はここに出会いを求めに来たんだ! 後悔はないね! 」
むひょひょと笑う。 少し感傷的になったが撤回する。 こいつ一回死んだほうがいいと思う。
「ところで君は何組何だい? 」
「あぁ、まだ見てないからちょっと見てくるわ 」
外に張り出されている大きな紙を見に玄関を出た。
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