Ex01 少女
今日からお兄ちゃんが家を離れる日。 お義母さんがお義父さんと昨日の夜中すすり泣きながらお酒を飲んでいたのを見ていたけど、やっぱり寂しいものだろうか。
――――まあでも、分からないわけじゃないけど
もちろんあたしもついていく、まだ一年早いけど学校見学だ。 身なりだけでも制服をつけておこうかな。
制服をイメージして着替えを完了する。 誰にも見れないしなんか魔法少女の変身シーンみたいでちょっとカッコいい。
あたしは最後のこの街の探索にあるき出した。 最初この形になったとき飛べたりするのかなっておもったけど何も変わらない。 痛みも何も感じないしから楽しくはない。 疲れも感じないところはいいところだね。 すると前から見えてきた交差点に一人のおじさんが立っているのが見えた。
「こんにちは、
「お、まだ行ってなかったのか
「うん、今日が最後だから挨拶しに来たの 」
ヤンさん、30年前に地獄のようなブラック企業に努めててここでトラックに自ら飛び出したおじさん。 現在59歳彼女なし。
「うるせぇ、それに32年だばーか 」
「細かいから彼女出来なかったんだよ 」
「まあこんなバカ話も今日で終わりだな、寂しいな 」
「全く寂しそうに見えないけどね 」
ヤンさんと知り合って早10年、小さい頃からのあたしを知っている数少ない一人。 別れはやっぱり寂しいものだ。 私のお父さんみたいな人だから。
「餞別代わりだ、これを持っていけ 」
渡されたのは小さな古びた赤いお守り。
「これは? 」
「俺がブラック企業の面接に行ったときに買った合格祈願 」
「呪物だね 」
「いらないなら返せ 」
「危険だからあたしが預かっておきます。 」
彼がヒヒッと笑う。 あたしもヒヒッと笑い返す。 少し彼に似たところもあるのかもしれない。 その笑顔が恋しくなりヤンさんに抱きつく。
「色々ありがとねヤンさん 」
「なんだ、いきなり。 こちらこそ、いい娘に育ってくれてよかった 」
「じゃあね、また来るから 」
「もう来んな 」
帰るときにいつもヤンさんが言っていた言葉。 涙が零れそうになる。 最後にハイタッチをし、あたしは帰路に着く。 出会いがあれば、必ず別れもある。学校に行ったことのないあたしが初めて体験した別れだ。 涙がこぼれないように上を向いて帰ろう。
今日の帰り道は春を感じさせない寒い風が吹き付けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます