第六十六話 真相

俺たちはトレロを雁字搦めにして転がしておいた


ルイスに石を投げつけられた馬はヘレナが連れ戻し、手綱を近くの木に結びつけておいてくれた。ベル君はトレロの様子が気になるようで転がった彼の横に座っている

アレだけ、親しそうに話していたのだ。少々思うところもあるのだろう


そうして彼を遠目に見ているとルイスが近づいてきた

「さて、ひとまずお疲れ様……ゴホッ」

「あぁ、お疲れ様。背中は大丈夫か?」

「少し痛むが、そこまでの痛みじゃない。大丈夫だ」


投げ飛ばされたことで背中がズキズキと痛むが軽い打ち身のようなので手当てもせずに放置している。

まぁ、そもそも氷も何もないから水で冷やすぐらいしかできることがないのだが


「まったく、アンタらも無茶するよ」

馬を宥め終えたのかヘレナが戻ってきた


「あぁ。それにしてもウマの扱いもできるんだな」

「へへ、伊達に軍属を長年やってないからね」

ヘレナは嬉しそうに笑いながら肩をすくめた


「それで、どうする?適当なタイミングでトレロを叩き起こして真意を聞くか」

「あぁ、そうだな」

「ひとまず、休もう。アイツの後からまだ敵が来ないとも限らない」


そう言って俺たちは順番にトレロを見張りながら仮眠をとった



ーーーーーーーーーーー

「おい、おい!起きろ!」

ルイスが汲んできた水をトレロの顔にぶっかけるとゲホゲホと咳き込みながらトレロが目を覚ました


「起きたか。さて、トレロ。お前の主人は誰だ?」

「何を言っている!?突然襲われたと思えば主人だと!?そんなモノノイツェ様に決まっているだろう!何度も言わせるな!」


そう言って彼は必死に縄から抜け出そうと蠢くがそこにルイスがもう一度水をかける

「そんなわけあるか。フーザイトの人間は爵位から名前を呼ぶ。ノイツェの事を呼ぼうとすればディエ・ノイツェ様となるはずだ」


嘘である。アラスターから各国の作法は最低限教わったがフーザイトの作法にそんなものはない。ルイスは鎌をかけているのだろう


流石にこんな鎌にかかるわけ……。

「な、バカな!?そ、そんな事あるわけが」


え、明確に動揺してるんですけど。なにこの子ちょろすぎ?


ここは俺も追い打ちをかけておこう

「本当のことだ。あの部族への帰属意識が強い民族がそんな事を知らないとは思えない。お前、何者だ?」


俺がトレロを睨みつけながらその目を見据えると彼はガクリと肩を落としため息をついた


「俺はパンドラ陸軍のトレロ中尉だ」


なんと!?パンドラ側の人間だったか

パンドラ兵はノイツェの部下たちに皆殺しにされていたと思ったがまだ生き残りがいたのか


「まだ、パンドラ兵がいたのか。逃げていればよかったものを」

ルイスが腕を組みながらため息をつく


それを聞いたトレロは目を怒らせて縛られたまま立ちあがろうとする

しかし、うまく立ち上がれず尻餅をついた

「侵略する立場の貴様らに何が分かる!虐げられる者たちの気持ちなどわかるまい!」


なるほど、これがカナリア人が帝国の尖兵と言われる所以か……。同じ被侵略者側なのにこう言われる理由はよく分かる


「それで、1人でも帝国兵を減らそうと?」

俺がそう問うと彼は睨みつけるような目のまま肯定も否定もせずに黙りこくっている


「残念だが、俺たちも虐げられる側のカナリア人だ。立場はそう変わらない」


「あ?そんなの関係ねぇよ。俺たちは俺たちの守るべき人々に牙を向く連中を潰すだけだ。そこに出身は関係ない」


彼は断固とした様子で言い切った


まぁ、それはその通りだ。相手の事情なんて考慮していたらどれだけ命があっても足りない。


鎮痛な面持ちをした俺、ベル君、ヘレナ

一方で気まずそうにしているルイスの顔が対照的に映った




さて、彼の正体が分かったのはいいが縛られた人間を殺すと言うのは気分が良くないし無駄な殺生はしたくない。かと言ってここに転がしておくと後続のバラト隊に殺されてしまう。


「うーん、どうしたものか……。」


俺が頭を悩ませているとベル君がチョイチョイと俺の肩をつついてきた


「どうした?」

「ちょっとこっちきて」

ベル君に引っ張られるままにそちらへついていった。

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