第三十九話 向かう先は

「よぉ!きたか!はようこい」

そう言ってバラト大佐はこちらへ手招きするが少佐の徽章をつけた二人は訝しげな目をしてこちらを振り向き、何か言いたげな顔をしていた


しかしなんだ?こいつらの胡乱げな瞳は……?



あ、わかったぞコイツらの視線はあれだ「中学の頃の仲のいい奴の誕生会に呼ばれてルンルンで行ったらソイツの高校生の知り合いも誕生会に呼ばれてて空気が不味くなるアレ」だ!



ちがうか……。



今は誕生会でもなければバラト大佐とも仲良いつもりはないのでいささか例としては不適か

そんなことを考えながらバラト大佐の前までゆっくりと歩き床几に広げられた地図を挟んで向かい合った


「ここの門番の二人はどうだ?ウチの名物コンビなんだが、ドグとヤウンって言ってなぁ。あー見えても本国近衛師団の出だ」


あの凸凹コンビが近衛師団出身?あー見えてやり手なのか?

どう見ても芸人やってる方が向いてる気がするけどな

てか、走って行ったやつ”グスタフ”じゃないのか、ちょっと残念


「ははは、面白い方々でしたよ…」


俺が苦笑いを浮かべながら素直な感想を述べるとバラト大佐は嬉しそうに笑いながらパシリと膝を叩いた


「そうだろう?それで、こないだの提案は飲んでもらえるのかな?」

「ハッ、我々の分隊の総意としては先の窃盗騒動並びに憲兵殺害における容疑者ヘレナ・パトリチスに恩赦を与えていただく対価として大佐殿の補給大隊に道々することをお約束させていただきます!」



俺は敬礼をしつつバラト大佐の両の眼から一切視線を外さず一息で言い切った

その答えを聞いた大佐は膝をポンと叩き嬉しそうに笑った


「そうかそうか!そいつはありがたい!なら、これからの行先も知っておかねぇとな!」


そう言って大佐は地図を指し示し傍らに控える男の少佐に目配せをした


「では、先ほどの続きからお話しさせていただきます。

我々はいま帝国領カナリアと占拠したパンドラの国境付近の補給基地を管理しています。しかし、この度本国で戦争が始まったことで本国軍が撤兵したことで我々の部隊はその穴を埋めるべく前線近くに配備されることが決まりました。

そのためにこの先の深い森を抜けねばなりません」



この話、俺が聞いてもいいやつなんだろうか?かなりの軍事機密な気がするし一介の伍長の前で話してもいい事ではない気がする。

でも、大佐が聞かせるみたいなこと口走っていたからいてもいいのじゃなかろうか

そう自分を納得させ身を乗り出して地図を覗くと前線付近まで矢印が引かれ経路の様なものが示されていた。


途中には彼の言った様に森林地帯が広がっており、地図上ではそれなりの長さが続いている。

シミュレーションゲームだと森林地帯は行軍が遅くなる設定がされていることが多いけど、実際はどのくらいの遅延が発生するのか








ん?なんか説明の声が止まった気が……。

嫌な予感を覚えた俺が恐る恐る顔を上げると少佐二人が俺の方を向いて何か言いたげな目をしていた

しばらく男と女を交互に見つめていると男の方が咳払いをしながら俺に向き直った


「あー、伍長?いつまでいる気かね?話は済んだのだろう。さっさと出て行ったまえ。大佐殿もいい加減にしてください。この情報はあくまで軍事機密に該当しますので植民地人に聞かせていい者ではないのです」


そう言いながらバラト大佐の方に向き直り、嗜める様にため息を吐いてみせている


「いいじゃねえかコリン。そう、ピリピリすんなよ。どうせ数時間後には部下たちにも伝達することじゃねぇか」


「軍規は軍規です。組織を円滑に回すためには規則は守っていただかなくてはなりません」


「そうですよ〜、大佐殿。いくらお気に入り候補の兵士でも一人を特別扱いをするとジェラシー感じる部下も多いんですからね〜」


コリンと呼ばれた男の少佐にそう言われて肩をすくめるバラト大佐に対して、今度はおっとりしたメガネの女性少佐も両手を腰に手を当てて、プンスカと擬音語がつきそうな雰囲気で嗜める


「セリーヌまでそんなこというのかぁ?別にいいじゃねぇの。コイツがいたってよ。な?ルークもそう思うよな?」

と、完全にペットを飼いたい駄々をこねる子供の様な返しをし始めた


正直、お気に入りとか言われたのは嬉しいがペット扱いされるのはごめんだ

そういうわけで、俺は物言わずニッコリと微笑み敬礼をしてそそくさと天幕をでた。


「おぉーい!待ってくれよルーク!まだいていいんだぞ!」

「「大佐殿!」」


後ろからは俺を引き止める声とそれを叱責する二人の少佐の声が聞こえた気がしたがきっと気のせいだろう。


ウン、キットソウダ

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