第三十二話 邂逅

俺たちは女を部屋に運び込み、布団で簀巻きにして床に転がしておいた

すのこ巻きとか初めてやったけど思った以上にギャグ漫画みたいな絵面になったな。


俺たちも夜中の哨戒任務でかなり眠かったので交代で眠りながら見張りをしていた

しかし、こうやって見るとコイツはかなりの美人さんだ。逞しい体つきをしているがまつ毛は長く、顔もシュッとしていて髪も美しい黒だ。前世とかだと美人な陸上部ってイメージだろうか?そうなれば、男が放っておかないだろう


日が出てきて夜もようやく開けようかと言うところで女がハッと目を覚まし、辺りを慌てて見回した。

「目、覚めたか?」

あぁ〜、しまった。こう言うセリフはふとにそっと寝かせて隣でコーヒーを入れながら言うのが夢だったのに。すのこで転がされた女と眠い目を擦る男児では法律の香りしかしないじゃねえか

そんなしょうもないことで後悔していると、自分のベッドで寝ていたルイスとベル君も起き俺の後ろの立っていた


「ここは、どこ」

「俺たちの宿舎だ」

女は俺たち3人に目を止めるとキッと睨みつける

「いつか、こんな日が来るとは思っていた。さっさとアタシを上官にでも突き出せばいいじゃない。この帝国の手先め」

すでに諦めているのか暗い表情を隠しもしないで俯いている


結構きつめに罵倒されたが、俺はそんなことよりも

(本物の『くっころ』だ…)と密かに感動していた。


まぁ、そんなことは置いておいて、どうやら誤解されているようなのでその誤解をひとまず解かないといけない。

「いや、俺たちはカナリア共和国出身の現地徴兵組なんだ、だから君の扱いをどうするか考えあぐねていてな」


ルイスが「えっ?」と言いたげな顔をして腰を上げるが片目を閉じて黙っているように指示する。それを見て彼も肩をすくめ、再び腰を落ち着けた。


「ハハ、どうとでもすればいいじゃない。自分の手柄にして給料でも上げて貰えば…?」


どうやら、かなり投げやりになっているようだ。どうしたもんかなぁ

と思っているとルイスが立ち上がり俺と女の間に割って入る


「なぁ、なんであんたは万引きみたいな小さな盗みを繰り返すんだ?挙句人まで殺して……」


ルイスが問いかけると女は彼の方を睨んでから呆れたように肩を動かして見せる

「あんたらみたいにお遊び気分で戦争に来ているような。おぼっちゃまには困っている人間の気持ちなんてわかるわけないか」


俺が「それは違う」と言おうとする間も無く女は続ける

「殺しをしたのだって、やらなきゃこっちがやられるからさ。誰が好き好んで殺しなんてするもんか」



「違う!」

俺がボンボンではないことを説明しようとすると今度はベル君が立ち上がって俺の前に入り込んだ

「ルーク君はそんなお遊び気分なんかでここにきてない!ルーク君はお父さんの立場を守るためにここに居る!その信念をお遊びだなんて、僕が絶対に言わせない!」


お、おう。ありがとうなベル君。

正直やりたいことが特になくて流されてここまで来てしまった身としては耳の痛い話ではあるが。

彼の気持ちは十分にわかった。


「ありがとうベル君。でも、今は取り調べだ。激昂するのは我慢してくれ」

そう言うと彼はバツの悪そうな顔を一瞬した後

「そうだよね。ごめん」と言って自分の席に戻って行った。

その背中があまりにも可愛くて、何か後で買ってあげたくなってしまう


が、そんな雑念は一旦振り払って。質問を続けようとすると女も項垂れていた

「悪かったよ、お遊びとか言って。でもお前らの雰囲気は戦場の空気感じゃない」


なるほど、戦場の空気を知ってると?と言うことは元軍属とかか?

あ、そうだ。あのハンドガンについても聞いておかないとな

「なぁ、お前の持ち物を調べさせてもらったんだが。このハンドガンの紋章はなんだ?」

そう言って後ろに積んでおいた押収品の山から彼女のリボルバーを見せる。

「それは…!返してくれ!たった一つの父に形見なんだ!」

さっきまでの無気力さが嘘のように慌てて身をよじる


「お前の素性を話してくれたら返すさ。事情がわかれば解放するつもりでいたしな」

そう言うと彼女は驚いたように目を丸くして訝しげな表情を顔に浮かべる

「本当か?」

「本当だ」

それを聞いた彼女は頷くとぽつりぽつりと事情を話し出した




「アタシの父もあんた達と同じカナリアの現地徴兵軍人だった。でも、父は帝国の手先として世界中を飛び回って軍功を重ねて中佐まで成り上がった。私の母は早々に死んでしまったからいつも父と戦場を点々としていた」


「中佐というと大隊の指揮官レベルか、それはすごい」

ルイスが感心すると彼女は少し嬉しそうな表情を浮かべた後、寂しそうな顔で唇を噛み締め話を続ける


「だけど、危ない戦場ばかりでいつも戦地に行く度父は体のどこかに傷を増やして帰ってきた。だけど無邪気な私は父が強いと信じて疑わなかった。この世界で1番強い父はいつだって私の所へ帰ってきてくれると思ってた」


そこで一呼吸おき彼女は何かを飲み込むように俯く

その目にはうっすらと涙が溜まっていた

「でも、パンドラとの戦場に行った日、父は帰ってこなかった。でも、アタシは父が死ぬはずなんてないと思ってた。父の副官が涙を堪えながらそのリボルバーをアタシに渡して。父の死を淡々と告げるまでは」


当時を思い出したのか彼女は肩を振るわせながらそれでも嗚咽混じりに話を続ける

「それからは酷いものさ、カナリア人にも関わらず中佐まで上り詰めた父を疎むものは多かった。ここぞとばかりにアタシを狙って襲いかかってくるようになった」


確かに彼女はいわゆる美人の部類に入るだろう。逞しい体つきをしているがまつ毛は長く、顔もシュッとしていて髪も美しい黒だ。前世とかだと美人な陸上部ってイメージだろうか?そうなれば、男が放っておかないだろうことも容易に想像がつく。

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