第二十九話 幽霊もしくはネズミ

俺たちは司令を受けて5時間後には数十キロ後ろに存在する後方基地の貨物駅に到着していた。

「相変わらず汽車っていうのは揺れるね。ウッ……」

そしてやはりベル君は酔ったみたいだ。とはいえ、俺にできることは何もないので慣れてもらうほかないだろう


そんなこんなでよろよろと歩くベル君を支えながら貨物駅を出ると一人の兵士が入口に立っていた

彼は俺たちを見ると軽い敬礼をしながらこちらに向かってきた

「ルーク・バックハウス伍長でお間違いございませんね?」

「ん?……あ、あぁ、そうだが。君は?」


なんだか、身体年齢より年上の人間に敬礼されるとむず痒いな


「これは失礼しました!第三補給基地司令官のトルトネン中尉のご命令で伍長の隊を案内するよう言われたのでお待ちしておりました。」

「つい数時間前に出たというのに用意がいいな、案内感謝する」

「すぐそこににトラックをつけてありますので、こちらへ」


トラックまで用意されているのか。

いささか伍長ごときに用意しすぎではなかろうか。

それだけ期待されていると見るべきか、はたまた何か裏があるのか


「それで、残りの隊員の方は何時ごろいらっしゃるのでしょうか?」

「残りの?いや、これで全員だけども…」


そういうと彼は一瞬表情をこわばらせたあと、明らかに落胆したような顔をして俯いた

「そうですか、ではこちらへどうぞ……」


あ、はい。これは明らかに期待してた感じですね。

悪かったな!3人しかいなくて!こっちだって好きで定員割れ起こしてるわけじゃないんだぞ!


そんな落胆した風を隠そうともしない彼と駐車場の方へ少し歩くと幌のついた小さなのトラックが止まっていた

「では、伍長は助手席へどうぞ。お二人は乗り心地は悪いかと思うのですが、荷台の方にお願いいたします。」

「いや、俺も荷台の方に乗ろう。少し話したいこともあるしな」

「そうですか、ではこちらへ」


そう言って彼は幌の入り口を捲り上げて入るよう促す

俺たちはそれに従い即席で備え付けてある板に腰を下ろす


「それでは出発いたします」

俺たちが乗ったのを見計らった彼は運転席に乗り込みエンジンをかけ走り出した

もっと揺れるかと思ったが、彼の運転は丁寧でで思いの外乗り心地は悪くない


まぁ、さっきまで酔っていたベル君は相変わらずグロッキーな顔をしているが、気にしたら負けだ。


それよりも現状の把握が必要だ

「さて、俺たちが何をしに来たのかもう一度確認するぞ」

「あぁ、たしかネズミ退治だっけか?」

「ねずみかぁ、やっぱりすばしっこいのかな」


俺からすればネズミの国を支配するハハッと笑って気づくと後ろに立ってるアイツじゃなきゃなんでもいい。



いや、普通のネズミも嫌だな。ハムスターとかの可愛い奴ならいいが大体ドブネズミっていうのはめちゃくちゃデカくてすばしっこい。

海外では日本で言うところのGと同じ扱いを受けているといえばその気味悪さが伝わってくると言うものだ


「それより、私はあの幽霊の方が気になるけどね。幽霊にあったら一生モンの武勇伝じゃないか」

そう言いながらルイスは腰から高そうなハンドガンを引き抜き白いハンカチで磨き始めた。

まさかコイツ幽霊と一戦交えようとか考えてるんじゃないだろうな……


「やめてよ幽霊なんて、そんな非科学的なものいるわけないよ……」

それに対してベル君は酔って既に青かった顔をさらに青くして不安そうに眦を下げている。


「幽霊か逆にそれでいいならそれでいいんだけどな。そういうのは大抵、実態のない幽霊なんかじゃなくてもっと厄介な何かだ」

「だろうね。人間は理解できないものを非科学的な超常現象に変換しがちだもの」

俺のひとりごとに対してルイスは頷きながらも辟易とした顔を浮かべている


前世でも俺はどちらかといえば幽霊は信じてはいない派の人間だった。しかし、幽霊は怖いものだとは思っていた。

だって関わると絶対面倒だもん


だがベル君は意味がわからなかったようで小首を傾げる

「厄介なことって?」

「あーっと、そうだな。例えば今回の場合、幽霊やネズミだと思っていたら隠れるのがうまい敵兵だったとか」

「え、えぇ!?だってここは前線から結構離れてるんだよ?敵なんてくるはず……」


ベル君が困惑した声を上げると運転席と荷台を繋ぐ小窓から声が聞こえてきた

「それがですね、上等兵殿、我々の基地の補給隊長殿も同じように考えておいでなのです」


おそらく今、運転してくれている一等兵の声だろう。

どうやら運転しながら俺たちの話を聞いていたようだ

「あらら、私たちの話に聞き耳立ててたんですか」

とルイスが抗議する


「すみません。なにぶん慣れた道を走るのは暇なものでして」

「安全運転で頼むよ」

「えぇ、そうさせていただきます」


そう言って彼はまた運転に集中したのか話しかけてくることはなかった


「とにかく、俺たちはただの害獣駆除に来たわけじゃないってことだな」

「えぇ、私もそう思いますよ。ただ、敵かどうかはまだわかりません。食いっぱぐれた脱走兵ってオチも十二分にありますから」


「まぁ、なんにせよ俺たちはここで問題を解決しないと本隊に復帰できなさそうだし。サクッと解決していこうか」


そんなことを話しているうちにトラックが止まり運転席のドアを開け閉めする音が聞こえた

「では、伍長、到着しました」

「あぁ」

そして俺たちは初任務に向かうためトラックを降りた

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