第二十八話 任務と問題

俺たちは集会の後すぐに招待指令部という名の移動式天幕に呼び出された

3人で天幕に向かうとそこでは地図を広げて副長とあーでもないこーでもないと話し合う小隊長がいた


「ルーク・バックハウス伍長以下3名、指示により出頭いたしました!」

そう声をかけると小隊長は振り返り、大仰に咳をし副長に目で合図をする


目で促された副長は俺たちへの侮蔑の表情を隠しもせずに話し出す

「君たち第五分隊の三人には特別な任務を言い渡す。内容としては、最近、後方の補給拠点で少量の物資をくすねるネズミが出ているようでな、コイツを捕縛ないし撃退してほしいのだ」


その言葉の裏には有無を言わせぬ気迫が感じ取れる


まぁ、俺も前線勤務じゃない方が気が楽だ。しかし、初任務がネズミ退治とはなんとも締まらない話だな。


そう思ったものの、ふと考えてみるとそれはおかしいと気づく。

軍隊にとって補給線は命の次に重要であることは間違いない。そんな重要な補給基地の警護を信用していない植民地軍人などに任せるだろうか?何か裏があるのでは


そんなことを考えていると副長はイライラとした様子でこちらを見ながら顎で後ろを指し示す。あぁ、はいはいさっさと出ていけってか。了解ですよっと


「その任務謹んで承ります。それでは!小官らはすぐにでも件の補給基地に向かいますのでこれにて失礼致します!」

「あぁ、武運を期待しよう」

そう言うと副長は面倒そうに手をヒラヒラとさせながら地図の横に戻っていく

しかしネズミ退治に武運とはこれいかに


俺は己の疑問を解消するため天幕を離れ彼らの声が聞こえるか聞こえないかのぎりぎりのところで立ち止まり少し土が盛り上がっている場所に座り込んだ

「ルーク君?戻らないの?」

そんな俺の行動にベル君は純粋な目を向け首を傾げていた


「あぁ、ルークはネズミ退治の真相が知りたいのさ」

お?ルイスが説明してくれそうだから黙っておくか、俺は奴らの会話に耳をたてておこう。


「ネズミ退治の真相?そんなの害獣駆除業者の真似事をしろってことじゃないの?」

「まぁ、額面通り受け取るとそう言うことなんだろうけどねぇ。軍隊にとって補給ってすごく大切だからさ、それを俺たちに任せるのは納得がいってないんだろう?」

「まぁ、そう言うことだ」


そうして少しの間耳をそばだてていると天幕の方からまた声が聞こえてきた

「やはり、奴らのようなはみ出しものどもに補給拠点の護衛を任せるなど!小官は承服致しかねます!」

お、これは副官長の声だ


「そう言うな、後方に置いておけば奴らに手柄を立てさせることもない、飼い殺しが1番だ」

こっちは小隊長か


どうやら副長殿は俺たちに警護を任せることが不服なようだ。


「しかし、我らが前線で血を流している時に奴らが後方でぬくぬくとしているなど私は断じて許せません!」

「黙れ!これは決定事項だ!これ以上現地徴兵組の奴らに手柄を立てさせるわけにはいかんのだ!」


うんうん、わかるよ。自分達の国の権益のためとはいえ関係ない国と国の国境で戦って傷つくって言うのはいやだよなぁ。でも前線に出すと手柄を立てられちゃうかもしれないもんな。しかし、あの口ぶりだと以前に手柄を立てられたみたいな言いようだな。


「それは、フランツ・バックハウスのことですか?」

「そうだ!あのような植民地人に階級が負けているなど考えたくもない!先日だって総督府でバッタリ出くわしたばかりに下げたくもない頭を下げざるを得なかったのだぞ!」


あぁ、うちのフランツのことでしたか。まぁ確かにあの人は大佐でしかも大隊長、対してあの小隊長は少尉だもんな。そこには運だけでは埋められない明確な力の差がある。小隊長が歯噛みするのもわかるってものだ


納得して帰ろうとしたところで、ルイスに腕を掴まれた

「なんだよ?」

「まだ、ネズミが何か聞けてないだろう?」

あ、たしかにそうだ。

そそくさと先ほどの場所まで戻り再び聞き耳を澄ます


「しかし、例の噂は本当なんでしょうか?」

「補給基地に出るって噂の幽霊のことか」

「えぇ、曰く小さくてすばしこいとか、曰く気がつくと物が少しだけ無くなってるとか。まるでポルターガイストのようじゃありませんか」

「はぁ、そんなのネズミかレジスタンスの密偵か何かだろう。我ら帝国軍への嫌がらせだろうよ」


どうやらネズミというのはその幽霊のことみたいだ。俺たちの最初はゴー◯トバスターズになるってか?消防署買ってくるか

とかいうジョークは置いておきつつ覚悟をしておいた方がいいかもな


「え?幽霊が出るの?行きたくないなぁ」

「まぁ戦場だしそんなこともあるかもな」

あーあー、ほらほらベル君が怖がっちゃじゃないの。ルイスもそういう不安を煽るような言葉は慎んでくれたまえよ


しかし、幽霊か。なかなか愉快なことになりそうじゃないの

「ルイス・シーラッハ上等兵!補給基地までの列車の席取りを頼む俺たちもすぐに追いつくから」

「ハッ!了解しました!伍長」

「ベル・マクスウェル上等兵は俺と共に荷物を積み込むぞ!」

「はい!」


そう言った後3人で顔を見合わせて思わず笑ってしまった

「やっぱり柄じゃないな。お前らしかいない時は名前で呼ぶことにしよう」

「ハハハ、そうだね!」

「それがいい」

そして俺たちはそれぞれの仕事に移っていく


この後どうなるかなんてさっぱり見当がつかないが

まぁ、とりあえず気のいい仲間と仕事ができることに感謝しようか

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