第二十六話 都会と田舎

「俺達が田舎者ってどういうことだぁ?あぁ?」


男はそう叫び優男の方に近づいていく


「君たち、本国の農家の次男坊や三男坊だろ?」

「ウッ、それでも植民地人よりはマシだよなぁ?」

男は一瞬虚をつかれたような顔をしたがすぐに切り返す


すると優男は俺たちの方を顎で促して続ける

「変わらないさ、それどころか彼らの顔つきを見ればわかるがおそらく彼らの出身は総督府がある植民地首都ワルツだろ?だとすれば君たちよりよっぽど生まれはいいはずさ」



それを聞いた男は額に青筋を浮かべ拳を握りしめる


しかし、男が何か言おうとしたところで車両の連結部のドアが開き、見るからに高級そうな軍服に身を包んだ女性将校が入ってきた

「先ほどから騒がしいぞ!軍人なら規律を守るくらいできんのか!?」


それを背中で聞いた男は舌打ちをし優男を指差し叫んぶ

「あぁ、そうかよ立派なことだなぁ!そんな都会の金持ちなら二度と俺らに迷惑かけないようにてめぇで見張っとけ!」


そのまま男は肩を怒らせたまま自分の席に戻っていった

そして、女性将校はというとため息を一つ吐き将校用の高級車両に戻っていった




優男は俺たちの方に向き直ると困り眉で肩をすくめた

「悪いね、ガラの悪い奴らばかりで。」


あまりの急展開に話についていけないが、助けてもらったみたいだから礼を言っておかないとな

「いえいえ、助けてくださってありがとうございます」

「おぉ、きちんと礼が言えるとは珍しい。まだうちの弟たちとそう変わらないように見えるがな。あいつらにもにも見習ってほしいくらいだ」


ほぉ、弟がいるのか。年は俺よりも10個は上に見えるが俺と同じくらいの弟か

歳の離れた兄弟が入り家は裕福だと聞いたことがあるがこいつの家もそうなのだろうか

「ご出身はどちらなんですか?」

「出身かい?一応、シャロン出身と名乗れるけどそこまでの上流階級じゃないよ」


シャロンだって!?シャロンといえば帝国本国の首都じゃないか!

アラスターによれば、あそこにはスラムなどはなく、貴族家の出身者や政府高官だけが暮らしているそうだ。使用人や出入り商人なども地方の高官達の子息だそうで、あの都市に住んでいるだけで進学、婚活、就職、果ては趣味嗜好まで思いのままだというから、その凄さも知れるというものだろう。


やはりコイツはとんでもない金持ちの出だな。しかし、そんな何不自由ない奴がどうしてこんな植民地の戦争に好き好んで出てきているのか。


「なんで、ボンボンが戦争に来てるのかって顔してるね」

「え、いやいやいや、まさかそんなこと思ってませんよ」

やべぇ、顔に出てたか


「隠さなくてもいいよ。まぁ、色々あってね本家が政治闘争なんかに巻き込まれるからこのザマだ」


なるほど、どうやら帝国という国家の体制は必ずしも盤石というわけではないようだ。


そんなことを考えていると優男はベル君の方に顔を向けていた


「君も災難だったね、僕ら新兵は本国のプロパガンダの影響で戦地に行くことにとてつもない希望を抱いてるんだ。そんな高揚感に巻き込まれたのは災難としか言いようがないよ」


「いえ、いいんです。事実、世間知らずな僕の方が悪かったですし。」


やっぱりベル君は落ち込み気味だ

少しフォローを入れておこう

「まぁ、これから色々知っていったらいいんだ。気にするな」


そう声をかけるとベル君は俯きながらこくりと頷いた

10歳にしては本当にしっかりした子だと思うがやっぱりまだ子供だよな。


そんなやりとりをしていると優男は微笑ましいものを見るような顔を一瞬見せすぐさま切り替えたように俺たちに問いかけてくる


「ところで、もう分隊は組めたかい?」


うん?なんの話だろうか

分隊を組む?そんなもの上が勝手に決めた名簿の通りに組むんじゃないのか?


「あー、その感じだと知らなそうだね。実は我が国の軍、特に植民地軍はそうなんだけど中隊もしくは大隊単位での人数把握、人員確認はしてるんだけど、その中での分隊の組ませ方は各小隊長に委任されてるんだ」


ん?じゃあ何かい?

小学校とかの体育で「2人組作ってくださーい」って言われるあれと同じやつかい?

まぁ、今回は一個分隊10人だから難易度が跳ね上がってるわけだが


「その中で僕らの所属する小隊は60人で六班作らないといけないはずなんだが、欠員が多くてね40人しかいないんだ」

「45人!?それじゃあ四つの班と5人しかないじゃないですか!」


それを聞いて彼は深く頷いた後にこうつづけた

「まぁ、君らの充当が決まったのが数日前なんだ。知らずとも無理はない。

それでまぁ、僕らの小隊長殿は各兵達の出身地ごとに分けようってことになったわけ」


なるほどな、確かに出身地が同じなら顔見知り同士で連携も取りやすいって考えか

いや、でも待てよ

この小隊の中で俺と同郷の出はベル君しかいない。


困った、流石にツーマンセルでなんとかなると思っているほど俺は強くないし思い上がってもいない


「うんうん、悩むよね、わかるわかる」

なんだコイツ、マルチ商法の販売員みたいな口調になって


「そこでなんだけど、僕を入れてくれないか?かくいう僕も同郷のやつなんていなくってね。」


ん?なんて?

「あ、名前もわからないやつにそんなこと言われても困るよね。僕の名前はルイス、

ルイス・シーラッハ。よろしく」


あ、あれ?なんか押し売りされた気がする


「ルイスさん!よ、よろしく。ぼ、僕はベルって言います」

「ベル君か!どうぞよろしく!」


あ、あれ

ベル君もなんか打ち解けてる…

まぁ知り合いもいないしここは大人しく受け入れるべきか


そう考えていると汽車はトンネルを抜けた

そこには青い草原がみえ、奥にはハゲた山が見え、その向こうから煙が濛々と立ち上っていた



少し不思議な景色だな


この時、彼は無意識にそう考えていた

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