第三話 バックハウス家 フランツ視点

「ただいま!サラ!今帰ったよ!どこにいる!?」

俺は玄関の扉を勢いよく開け家に駆け込んだ

そんな俺を玄関先で出迎えてくれたのは10年ほど前からこの家で働いてくれているマリーだった。

「旦那様おかえりなさいませ、まずはコートをお預かりしましょう」

「マリー!サラは!?サラはどこだい!?今すぐ会ってあげないと!出産は辛いっていうからね!早く俺を連れて行ってくれ」


落ち着いた声で諭してくれる年が10も下の彼女につい怒鳴ってしまう


「旦那様、まずはコートを脱いでお水でもお飲みになってからお会いになるのが良いかと思います」


メガネを掛け直しながら彼女は落ち着くように言ってくるがこれが落ち着かずになんていられるものか


「そんな悠長なことを言っていたら我が子が生まれてしまうだろう!出産の場に立ち会えなかったらどうするつもりだ!」


そんな押し問答を続けていると家の奥から白衣を着た男が騒ぎを聞きつけやってきた


「あぁ、旦那様でいらっしゃいますね。そんなに騒がずともご安心ください奥様は無事に元気な男の子をご出産なさいましたよ。今、奥様はお休みになっておられます」


そうサラが無事であることを告げてくれる


「そうか…よかった」


そう言って俺は玄関口に崩れ込む

マリーはそんな俺のコートを剥ぎ取って奥に引っ込んでいった

安堵した途端にあることが頭をよぎった。目の前にいるこの医者は俺が立ち会えなかった出産に立ち会ったていうのか!?ゆ、許せない

そんな暗い感情を沸々と目の前の白衣の優男にむけているとマリーに頭を叩かれた


「あだっ、マリー何するんだ」

「旦那様のことですからまた余計なことを考えてらしたんでしょ、そんなことより奥様に早く会いに行ってあげてください」


ちぇ、なんなんだ少し落ち着けだのさっさといけだの


「そんなことは言われなくてもわかっている」

そう言って俺は呆れた顔をしているマリーを置いて大急ぎでサラの元に走っていく


「サラ!って、寝てるって言われたんだったな」

そんな独り言を呟きながらドアを開け部屋に入ると綺麗な長い金髪を後ろで一つにまとめた妻がベッドの上で上半身を上げこちらを見ていた


「あぁ、サラ寝ていたんじゃないのかい?」

「えぇ、先ほどまでぐっすりでした。だけどあなたの大きな声が聞こえたので起きました。」


少しツンとした様子で窓の外を眺める姿はわが妻ながらうっかりすると見惚れてしまいそうだ。


「えっとそれはすまなかったね。君が無事ならいいんだ。産まれたんだね俺らの子が」

そう言うと先ほどとは打って変わって嬉しそうに振り向き


「そうなの!とってもかわいいのよ!私たちの子!今は隣の部屋でぐっすり寝てるわ。あなたも見てきて」

「あぁそうするよ」


そう答えて俺は隣の部屋に今度は恐る恐る入っていく

部屋の窓側にはベビーベッドがありすやすやと寝息を立てて赤子が寝ていた

そんなかわいい天使のような赤子を見て俺は決めた


この子のために、この国を元あった悠然な姿に戻そう今のように帝国の顔色を伺わなければ何もできないような国ではなくこれが私たちの祖国なのだとこの子がそう胸を張って生きれる国にしよう。今の俺にはそれを実行できる可能性があるんだ。


そう自分の境遇に感謝しながらこの赤子に誓った。


すると赤子は目を開け不思議そうな顔をしながら俺の方に手を伸ばしてきた

「おい!マリー!息子が目を覚ましたぞ!ど、どうすればいい?」

「全くいくら戦場に20年近く出ていようと赤子相手には形なしなんですね旦那様は」

慌ててマリーに助けを求めると皮肉を言いながらマリーが部屋に入ってきた。


「そう言うなって、それとこの子の名前を決めたぞ!ルークだ!俺がこれから作り上げていく平和を末長く守って行ってほしいそう言う意味を込めて名付けるぞ!」

「旦那様!興奮なさっているので仕方ないとは思いますが!そう言うことは奥様にまずお話しくださいませ!」


そうたしなめられ慌てて俺は妻のいる部屋に走って行った。

全くこの家じゃ赤子どころか家族全員に肩なしだな

そんなことを思いながら俺は幸せを噛み締めていた

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