第2話 試練の洗礼

 予想通りに長い穴を抜けた先は高台になっており、周囲には鬱蒼とした樹海が広がっていた。


 上を見上げると遥か上空に、先程の部屋と同様の天井が見えた。


「まるでゲームの中にでも入った気分だ」


 そんな感想を抱きながらも慎重に今いる高台から降りる事にした。


 降りた先の森の中は薄暗いせいで視界も悪く、足を立ち入れるには勇気が必要だ。

 そこでふと自分の手元に武器となる様なモノがない事に気が付いた。

 先程のアナウンスでもココの事をダンジョンだと言っていたことを思い出し、ダンジョンという事は何かしらゲームの様なモンスターが出る可能性を考慮しなければならないわけで、周囲に武器になりそうなモノが無いか見渡してみた。


 案の定そんな都合よくは見つからず、手ごろな長さの枝と石ころしか見つからなかった。

 無いよりはマシなので、見つけた枝を手に持ち、石ころを何個かポケットに入れて森に入る事にした。


 森の中に一歩踏み入れた途端、全身に途轍もない悪寒が走り、鳥肌が立った。

 

「……な、んなんだ」


 訳が分からない。

 全身が拒否反応を示している。この先には行くなと。

 汗が吹き出し、身体が思う様に動かず、呼吸が浅くなる。

 今すぐ引き返すべきだと本能が叫んでいる様だ。それでも引き返す事は出来ない。何より逃げる場所がない。

 どうやら俺はこの場所に来てしまった時点で詰んでいたらしい事に今になって気が付いた。


 それでも進むしかない為、気力を振り絞りもう一歩、足を踏み入れた瞬間。


 視界が暗転した。





 「ガハッ!?」


 気がつくと森の中にいた。


「何があったっ!?」


 混乱がピークに達し、訳も分からず叫んでいた。


 周囲を見渡しても、明らかに自分がさっきまで居た場所の近くではない。

 

「もしかして…、死んだってことか?」


 自分の今置かれている状況からはそう推察する事しか出来なかった。

 この現象は明らかに自分のステータスにあった魔女の烙印の効果としか思えない。そうすると俺はあの瞬間あの一瞬で何者かに殺された事になる。


 そんなの対処不可じゃないか。

 自分では認識出来ない様な瞬間に襲いかかって来る様な奴にどう対処すれば良いというのだ。

 こっちには未だ手に持つ棒切れと石ころしか無いというのに…。

 唯一の救いは死んだとしても自分の荷物が無くならないということが分かったくらいだ。


 それでも考えるしかない。どうにか現状を打破する方法を。

 ただ、こんな場所に長居していたのが良くなかった。目覚めた時にはその場から離れて動き回るべきだったのだ。



 それに気が付いたのは偶然だった。


 ふと視線を上げた時、目の前にはそいつがいた。何の音も立たず、何の気配もなく、気が付けばもうどうしようもない程に近くにいた。


 グワァァァァァアアアッ!!!


 まるで巨大な熊の様な見た目をしたそいつは、俺がその存在に気がついたと分かるやいなや雄叫びを上げて襲いかかって来た。


 俺は何とか避けようとするものの避けきれず、左腕を噛みちぎられた。


 「ああぁぁああああっ!!!!」


 アドレナリンが出ている為か痛みを感じない。

 化け物の方を見てみればソイツは美味そうに先程噛みちぎった俺の腕を一口で喰っていた。


 クソックソックソッ!!!


 俺はがむしゃらに走って逃げた。

 だが俺の足で逃げ切れる筈もなく。後から追いかけて来た化け物に容易く追い付かれて押し倒された。


 ソイツは俺を押し出すやいなや俺の頭を噛み砕いた。


 辺りに脳髄を撒き散らしながら俺は2回目の死を迎えた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る