7.どうしてこうなった?

 「―――いやおかしいでしょ!!!!!!」


意味不明理解不能な会話の流れを打破すべく全力でツッコむ結衣。しかし意味不明なことに変わりはなかった。


「提央祭ってアレですよね!? 昨日公園で怖い人たちが殴り合ってたヤツですよね!?」


「そうです」


菅原が相槌を打つ。


「それでなんで私が優勝になるんですか!? おかしいですよ絶対! 優勝とかそれ以前に私は出場自体してないです! どこの世界に参加してない人が優勝する祭りがあるんですか!?」


「それは間違いです。貴女は昨日の提央祭に参加しております」


「なんでだよっ! 本人が出てないって言ってんだから出てるわけないでしょ!?」


菅原をビシッと指さして指摘する結衣。菅原は腕を組んで冷静さを崩さない。



「……北条さん。貴女は引っ越してきたばかりだから知らないかもしれませんが、提央祭参加の条件は2つしかありません。この条件を満たしていれば参加できます。

……いや参加という言い方は少々誤りですね。正しくは参加ですね。赤子だろうと老人だろうと条件さえ満たせば強制的に参加者になります」


「……!?」


「その2つの条件というのは、1つ目は提央町に住む人間であること。2つ目は指定された日時に指定された場所に来ること。

これだけです」


「……!!」


ということは、この町に住むことになって、昨日提央祭の現場にいた結衣も?


「……もうおわかりですよね? 貴女も条件を満たしているので提央祭参加者なんです」


「い……いやでも……! 私は参加してるつもりなんて……」


「でもじゃないですこれが絶対的なルールなんです例外は一切認められません。貴女が参加してるつもりなかったとか我々の知ったことじゃありません。

提央祭のこと知らなかったとかたまたま通りがかっただけとかそんな言い訳も通用しません。昨日の16時に馬頭公園に来たという事実だけがすべてなんです」


「……っ、私が参加者だってことはわかりましたけどなんで私が優勝なんですか? 普通に考えて一番強い人が優勝ですよね? だったらこの人が優勝なんじゃないんですか? 他の参加者を全員倒すほどの圧倒的強さでしたよ?」


結衣は流星をチラッと見て言う。優勝は流星のはずだと結衣は主張した。

流星も菅原もきょとんとした顔で結衣を見る。



「へ? 昨日のこと覚えてないんですか? その南場さんを貴女が一撃で倒したではありませんか」


「えっ!?」



菅原にそう言われ結衣は昨日のことを思い出す。思い出したくないけど仕方なく思い出す。


昨日、結衣は……頭に血が上って極度のマジ切れしてて、よく覚えていないが、確かにこの男を一発KOした。


「……い、いや、あれは……いきなりキスされて頭が真っ白になってカッとなってというか……それに、倒したといっても……そ、その……きゅ、急所に当ててしまっただけじゃないですか……反則ですし卑怯じゃないですか……どう考えてもノーカンですよノーカン……!」



顔を少し赤らめて言う結衣。あんなので優勝なんていいのか? いやいいわけない。


いくらこの男が悪いといっても、男の大事なところを蹴ったりしたのはさすがにやりすぎだったのでは……そう思った結衣はハッとする。



「あ、あのっ! 昨日はすみませんでした!」


「は?」


流星の方を向き、頭を90°以上下げて謝った。悪いのは流星なんだから正直納得はできないが一応謝った方が絶対にいいと判断した。

あとで報復されてもおかしくないことをしてしまったのだから。最悪殺される。



「……? 何がすみませんなんだ?」


全力謝罪する結衣を見て流星は何のことだかわからないといった様子で首をかしげた。


「だ、だって昨日……!」


頭下げるだけじゃ足りないかと思った結衣はさらに頭を下げる。

流星はハッと笑った。


「ああ、もしかしてチン○蹴ったことか? あれは油断したオレが悪いんだよ。どんなやり方だろうとやられる方がすべて悪いんだ」


優勝まであと一歩のところでまさかの女の子に敗北などという最大級の屈辱を受けた流星だったが、本人は特に気にしてない。結衣を恨むつもりなんてさらさらない。



「そういうことです。頭を上げてください北条さん。優勝者なんだから堂々としてください」


「……そんな、優勝者なんて……」


おずおずと頭を上げる結衣。菅原はクスッと笑った。


「いいですか北条さん。提央祭はスポーツじゃなくて戦争なんです。武器の使用も反則もなんでもありなんです。殺しさえしなければ何をしてもOKの自由の祭典。集団でリンチとか不意打ちなんて当たり前。卑怯なことなど何もない。南場さんの言う通りやられた方が悪いんですよ」


結衣は納得できないが、この4月の提央祭で優勝したという公式記録がもうすでにバッチリ残されている。どんなことがあろうとこの記録は絶対に覆らない。


流星と結衣どちらの方が強いかというと120%流星の方が強い。スポーツテストとかで能力を調べたところで結衣が勝ってる項目など1つもない。戦闘力でいえば恐竜とダンゴムシくらいの差はある。


しかし、提央祭は結果がすべてであり、ステータスの数字で優劣が決まることなどない。誰が強いかではなく、誰が勝ったかだ。勝ったのは結衣。その事実だけがすべてだ。



「今まで数々の修羅場をくぐり抜けてきた最強の不良南場さんでも可愛い女の子の魅力には勝てなかった。それだけのことです」


菅原は淡々と結衣の勝因流星の敗因を分析した。流星も納得したように頷く。


「そうだな。さすがのオレも結衣の可愛さとおっぱいの破壊力を目の当たりにしてつい油断しちまった。反省しねーとな」


「なっ……!? ちょっと! その言い方じゃまるで私がその男を誘惑したみたいじゃないですか! やめてくださいよ気持ち悪い!!」


結衣は声を荒げすぎて息切れした。膝に手を当ててゼェゼェと荒い呼吸をする。



「……で? 優勝したら何かあるんですか……?」


「それに関しては説明するより学校に行ってみればわかると思います。一緒に行きましょう」


菅原は話を終えスタスタと歩き出す。


「……へ? 一緒に行くって……なんで?」


「何言ってんだよ。オレたち同じ学校だろうが。早く行こうぜ」


流星もそう言ってスタスタと歩き出す。2人の背中を見た結衣はハッとした。


今さらだがよく見たら2人とも提央高校の制服着ている。間違いなく2人と同じ学校だ。


結衣はがっくりとうなだれる。この町に高校は1つしかないので同じ高校生なら必然的に同じ学校になるのだが、結衣はそれをすっかり忘れていた。


「おいどうした。早く行くぞ」


流星は意気消沈している結衣の腕を掴みズルズルと引っ張って行った。




―――




 そして提央高校に到着。3人は校門をくぐる。

校門をくぐった瞬間、学校がざわつき始めて結衣は不審に思った。


校舎にいる生徒たちが一斉に結衣を見て騒ぎ出す。



「あっ! おい見ろあの子だ! あの女の子が今月の提央祭の優勝者だ!」


「えーっ!? あの子が!?」


「あの南場さんを倒したらしいぜ!!」


「マジかよあんなに華奢で可愛い子が……?」


「しかも瞬殺だったらしい……恐ろしいな……」


「お~い王様~!」


「ちょっと待てよ女の子なのに王様って呼ぶのはおかしくないか?」


「じゃあ女王様?」


「女王様ってのもちょっと違う気がする!すごく可愛らしい子だし」


「よし、じゃあお姫様だな!」


「おぉ、いいねぇお姫様!」



生徒たち全員結衣に注目し、あーだこーだ話している。



……?

???

お姫様?お姫様とは一体何のことだ。

何が何やら全くわからない結衣。理解しようと頑張ってみるが、生徒たちは理解するのを待ってはくれなかった。


校舎にいた全校生徒が、みんなで一斉に結衣に向かってくる。

みんなこっちに来る。なぜだ。



―――ドドドドドド


「「「お姫様~っ!」」」


「ええええええ!?」


生徒みんな結衣の周りに集まってきて、いつの間にか囲まれてしまった。



 くり返すがお姫様とは何のことだ。

結衣は平凡な家庭に生まれた一般人。お姫様でもお嬢様でもない。彼女の人生に特別なことなど何もない。

しかし周りの人たちは皆お姫様と呼ぶ。


何言ってるんだこの人たちは。結衣はお姫様じゃない。人違いだろう。

結衣は人違いだと思ったが、これだけの大人数がみんな揃って人違いなどするだろうか。もう意味がわからない。



「お姫様っ!!」


「お姫様~!!」


「素敵ですお姫様!!」


「ああっ、麗しいお姫様……!!」


「我々にできることならなんでもします!なんなりとお申しつけくださいませ!!」


「お姫様の望みなんでも叶えます!!お気軽にご命令ください!!」



…………?

???

なんだこれは。結衣はフリーズした。宇宙空間を彷徨ってるような気分になった。


一般人の結衣にとってあまりにも異常な光景。結衣の頭では何もかも理解できない。まるで別の世界。

いつの間にか異世界に迷い込んでしまったのでは?と疑ったが、周りの人たちの着ている制服、周りの景色は、間違いなく現実世界だった。



「くくく、びっくりしたか? 提央祭で優勝するとこの町の王になれるんだ」


茫然と立ち尽くす結衣を見て流星はおかしそうに笑う。



「改めてちゃんと説明しましょう。提央祭は毎月行われるなんでもありの格闘祭。最後まで立っていられた者が優勝。今回の優勝者は北条結衣さん貴女です。

優勝すれば次の提央祭が開催されるまでの1ヶ月間王になれます。でも女性が優勝するのは初めてなので王じゃなく姫ということにしましょう。

姫の命令は絶対です。提央町の住民なら誰であろうと姫に逆らうことはできません。姫は何をしても許されます。この町は姫がルールです。

さあ今日から1ヶ月間、この提央町は貴女のものですよ北条結衣さん。煮るなり焼くなりどうぞご自由にしちゃってください」



菅原が長々と丁寧に説明したが今の結衣にそれを聞いてる余裕はない。


「お荷物お持ちしますね」


「肩をお揉みしましょうか?」


バッグを持たれ、肩を揉まれ、指1本動かすこともできずされるがままだった。



流星が近づいてくる。


「おらどけお前ら! 姫の通行の邪魔だ!」


結衣を囲む生徒たちを遠ざけて、昇降口までの道を作る。そして流星は結衣の正面で跪いた。



「そういうわけで、結衣が姫だ。オレは姫を守る騎士になる。よろしくな結衣」



流星は微笑む。言いたいことはありすぎるが、結衣はもうツッコむ気力もなかった。



―――北条結衣16歳。高校1年生。家庭の事情でこの提央町に引っ越してきたのだが、転校2日目にしてなぜかこの町のお姫様になってしまった。


どうしてこうなった?

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