10


 どうしてもあきらめきれない。


 この味覚は、ほかでは得がたい。気持ちが収まらない。手持ちのスマートフォンで、缶の印刷面と自販機を撮影していた。

 SNSに投稿しようとしてやめた。


 こんなに美味いのだ。評判になって買い占められるのは避けたい。

 他人に知らせて注目を集めようものなら、それこそ自分のぶんが無くなってしまう。


 試作品の可能性も考えた。商品の在庫が少なくて、一本買うたびに、この表示が出るように設定してあるのかもしれない。


 そうだとしたら。


 焦りで思考が焼けつきそうだった。二度と手に入らないなんて、考えたくもない。

 回収ボックスに飲み終えた缶を入れ、自動販売機に背を向ける。魅惑の光が、背後から差して進行方向に影を伸ばす。


 後ろ髪を引かれる。本当に美味かった。またこよう。絶対に。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る