36 ローゼン総帥と迫る影
「お前が噂の」
ローブの男はニヤリと笑いながら振り返った。
「どんな噂か知らないけど、エレンを離しなさい」
「ヒャハハ。流石リューティス王国最強の魔導師、ローゼン。マナも気迫もレベルが違うな」
「話が通じないのかしら? 誰が私の紹介しろなんて言ったのよ。エレンを離す気がないのなら……」
「どうする?」
刹那、ローゼン総帥は詠唱を唱えた。
「力技で奪わせてもらうわ――」
「……!?」
魔法を発動したローゼン総帥。
直後、地面に大量に転がっていた無数の煉瓦が宙に浮き、一瞬で集約された煉瓦は大きく分厚い2枚の版となった。
ローブの男を挟むように浮いた2枚の煉瓦版は、まるで手を合掌させるかの如く一気に引き寄せ合った。
(速ぇッ!)
間一髪の所で反応したローブの男は煉瓦版の攻撃を躱す。
衝突した2枚の煉瓦版は凄まじい衝突音を響かせた。
「危ねぇ攻撃だな。このお嬢ちゃんまで潰れるぞ」
「その心配はないわよ」
「……なッ!?」
攻撃を躱して余裕を見せたのも束の間、煉瓦版をジャンプで躱したローブの男の頭上に更に別の煉瓦が。
しかもその煉瓦は太い1本の槍のような形をしており、煉瓦の槍は他ならないローブの男目掛けて垂直に急降下する。
「ハナからこっちが本命か」
一瞬眉を顰めたローブの男だったが、彼もまた即座に詠唱を唱えた。
すると、急降下していた槍の真横から激しい炎が吹かれ、その勢いで瓦礫の槍の軌道がズレた。
槍はローブの男を捉える事なく、無情に地面へと落下。
真っ暗な辺りを昼間のように照らした豪炎が、男の不敵な笑みを更に不気味に演出させたのだった。
「熱いなぁ!」
突然の熱波を感じたエレンは驚きながらも必死に男に抵抗を試みる。
一方で、ローゼン総帥の表情は幾らか険しいものへ変化していた。
「貴方、何者かしら?」
リューティス王国一の魔導師であるローゼンと互角に渡り合うローブの男。ローゼン総帥は目の前の異質な存在の男に訝しい視線を送る。
「ヒャハハ。最強の魔導師様に興味を持って頂いてご光栄だな。俺の名は“ラグナ”。お前とは違う、無名な魔導師さ」
(やはりコイツも魔導師……)
淡々と自分の名を明かしたラグナという男。
聞いたローゼン総帥は既に次のモーションに入っていた。
――ヒュォォ。
熱波の次は冷たい風が漂う。
ローゼン総帥の周りに、どんどんと強烈な風が吹き荒れ圧縮されていく。集まった風は瞬く間に4つのサーベルのような半弧の風刃となり、かまいたちの如くラグナに向かって放たれた。
「待ったなしかい」
強烈なローゼン総帥の攻撃。
だがラグナは余裕の表情を浮かべて手をポケットに突っ込んだ。
そして、口角を上げながらローゼン総帥に訴えかける。
「ほら。下の奴も構ってやんないと」
「……!?」
次の瞬間、宙に浮いているローゼン総帥の真下から巨大な魔物――グリードが大きな口を開けてローゼン総帥に飛び掛かっていた。
グリードの丸太のような屈強な腕がローゼン総帥を捉える。
――ズガァン!
寸前の所で受け身を取ったが、凄まじいグリードの攻撃によってローゼン総帥は数十メートル先の建物の壁に叩きつけられた。
「ぐッ……!?」
「ローゼン総帥!」
凄い勢いで壁に衝突したローゼン総帥はそのまま地面にずり落ちた。
意識はあり、なんとか立ち上がったが、ダメージを受けた体が僅かにフラつく。
そこへ、グリードが更に追撃をしようと一気に距離を詰めて再び腕を振り上げた。
「野蛮ね……全く」
グリードの攻撃が届く前に詠唱を唱えたローゼン総帥。
すると、辺りに突如冷気が流れ始めた。
そして。
――パキ……パキパキ。
直後、飛び掛かっていたグリードの動きがピタリと止まった。
『ヴグアァァァァッ!?』
更にグリードは悶絶の呻き声を上げる。
パキパキと響く音と共に、グリードの巨大な体が足元から一気に氷漬けにされた。
全身が凍って大きな氷塊となったグリード。
辺り一帯がいつの間にか氷上となっていた。
「おすわり」
バキィィン。
次の瞬間、巨大な氷塊となったグリードの氷にそっとローゼン総帥が手を添えた途端、氷塊は硝子のように砕け散った。
「……!?」
氷と共に砕かれたグリードは消滅。
先程まで余裕を出していたラグナから笑みが消え、軽く溜息を吐いた。
「あれま。俺のグリード消しちゃったじゃん。しかも他の魔物まで……。やるねぇ、大魔導師ローゼン様」
「いつまでも“上から”妾に物を言うな」
「ッ!」
ローゼン総帥がそう言い放ったと同時、ラグナは凍った建物を伝って宙にいた自分の足にまで氷が伸びていた事に気付かされる。その直後、足を取ったローゼン総帥は地上へとラグナを引きずり下ろした。
「やっぱとんでもないな、ローゼン様。こりゃ一刻も早く帰らせてもらうとすッ……!」
刹那、どこからともなくラグナの目の前に“影”が現れた。
――ビシュン。
反射した銀色がラグナの鼻先を掠める。
無意識に体がその銀色を躱したが、もし反応していなかったら間違いなく“斬られていた”であろう。
「お前も厄介だなぁ」
小さく呟いたラグナの瞳はローゼン総帥ではなく、突如の目の前に現れた影――鬼の如き殺気で剣を振るう“アッシュ”の鋭い眼光を捉えていた。
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