竜と愛

竜が火を吹けば人は簡単に吹き飛ばされ

灰とかす。

天馬は空を駆け縦横無尽に人を貫き

空は矢の雨が降り注ぐ。

数十人分の巨大詠唱の下に、妖精王や魔神が

暴れもう…誰にもいや、人はおろか神でさえも

止められない…兵器いやそれも違う。

玩具と玩具のぶつかり合い。

小さな子供の癇癪。

人とはどうしてこんなにも

愚かしく恐ろしいのか化け物からすれば貴方達

人間の方がずっと無慈悲で凄惨で怖いわ。

燃え盛る城下町を赤子を抱えて走る女性。

綺羅びやかで美しいドレスの裾を破り捨てて

ヒールの付いた純白の靴もどこかへ履き捨てた

???「オルクスーーー!!…オルクスーー!!」

兵士が入り乱れ略奪と殺戮が行われる中

名を叫ぶ聖女の姿があった。

兵士「居たぞ!捕らえろー!!!」

???「っ?!」

兵士は続々と集まり聖女と呼ばれる女性を

追いかける。

走る、走る、捕まらないよう

死にものぐるいで走る

息が上がる、胸が痛くなる、喉が乾く

涙が止まらないっ。けれど足は止められない。

止めたらこの子も私も死んでしまう。

???「キャッ!」

足元が疎かになり転んでしまう。

???「っ!フォルテ!」

腕の中にある赤子は無事なようだ。

???「良かった…。」

白騎士「奥様!!」

???「ああ…リリス…あ、わ、私。」

反対側の路地からリリスが来た。

白く美しい鎧は血で汚れきっている。

新しくついた血から乾いた

黒い血までべっとりつけて。

リリス「良いんです奥様っ…、」

  「良くぞ…ご無事で。」

リリスは震えた声で優しく聖女の頭を撫でる。

兵士「聖女を逃がすな!!白騎士は殺せー!」

リリス「奥様は下がって!!」

リリスは兵士達に斬りかかる。

神聖魔法を駆使して敵を蹴散らしてゆくが…

余りにも数が多く劣勢だ。

???「…あ…あぁ……。」

震えて座りみただ赤子を抱きかかえることしか

できない。俯くと自然と赤子の顔が見える。

???「…あ。」

赤子は必死に泣いていた必死にずっと

喉が枯れてしまいそうなほどに泣いていた。

そうか、この子はまだ生きたいんだ…

生きていたいから生きようと足掻いてる。

???「フォルテお母さん頑張るからね。」

   「だから…ね?もう大丈夫だよ。」

赤子の頬を指でぷにぷにと突く。

フォルテ「キャッキャ。」

???「フフフ…いい子。」

聖女は瓦礫に赤子を隠し

バイオリンを持って兵士達の元へ向かう。

その足取りは先の怯え逃げるものではなく。

確かに一歩一歩を踏みしめて真っ直ぐに進む。

もう彼女に迷いなどない。

聖女が歌う。

それは子守唄の様に安らかで穏やかな歌声。

戦場には似つかわしくないものだ。

リリス「っ!?やめてフェストル!」

リリスを取り押さえ蛮行を

働こうとしていた兵士達は

一斉に聖女の方を向き捕えようとする…が。

一節手に持つバイオリンで旋律を奏でれば

兵士はたちまちに首を抑え苦しみ始める。

兵士「いきっがぐ、ぐる……」

  「じ…だ……ず……。」

首を何かに圧迫されたかのように血潮を上げて

倒れ伏す人々。

リリス「…だ…めです。…奥様!その力は!!」

 「それを使えば貴方諸共壊れてしまうっ!」

聖女「リリス…私の従者にして私の妹分。」

ニアの頬を血塗られた両手で包み込み

優しく聖母の様に見つめる。

リリス「……フェスト…ル、姉…さ、んっ。」

  「嫌で…す。もうやめてください!!」

聖女「リリス聞いて?あそこを曲がった先の」

  「3つ目の瓦礫に私の子を隠しました。」

  「あの子と一緒に先に離れに避難して」

  「ください。」

ニア「嫌です!フェストル姉さんも一緒に!」

聖女「…ごめんね。」

ニア「っ…………、っ……ぅ…。」

ニアは首を縦に小さく振る。

聖女「ありがとうリリスどうか無事で。」

兵士は蟻の兵隊のように次々と絶えず現れる。

兵士「いたぞー!捕らえろ!」

聖女は歌い曲を奏でる。

防御結界を貼り誰も触れられぬ不可侵領域を

精製する。

かたや、近づいたものは窒息し、かたや空から

特攻すれば天馬諸共魔撃により撃ち落とされ。

かたや、極大魔法兵器を使えばそれは撃ち返され

かたや、竜が火を吹き飲み込めば。

胃は破裂し万物を溶かす胃液ですら彼女に

指一本触れられない。

聖女とは、不可侵であり決して触れられぬ存在

慈悲を与えこそすれどたかが人族ごときが

交じ会うことは、無いのである。

一つの…例外を除いて。

敵は湯水のごとく消えていった。

このまま彼女が勝利の女神となり勝つと

味方兵士の誰もが思えた。

そこに一人の騎士が現れた。

フェストル「……!オルクス!!」

聖女は浮遊し騎士に駆け寄る。

フェストル「会いたかったっ……」

     「無事で本当に良かったわ。」

涙を流し無事を確かめる。

フェストル「オルクスこんなに…」

     「ボロボロになって」

    「…待っててすぐに治療するから。」

フェストルは曲を奏で癒す。

癒やしている間誰も攻撃しなかった。

それは騎士を恐れてかそれとも聖女を恐れたか

それともその騎士と一人が仲間だったことに

対する絶望か。

フェストル「もう大丈夫よオルクス。」

「さぁ、あの子が待ってるここを片付けて早く」「あの子の元へ帰りま…………ぁ……………」

フェストルが後ろを向いたその瞬間。

フェストル「……………、っ…ぇ?」

フェストルの腹には騎士の槍によって

貫かれていた。

血がボタボタと滴り落ちて

真っ白な純白のドレスは

真っ赤に染まる。

一つの例外それは聖女の愛し人それこそが

絶対なる力を持つ聖女唯一の弱点。

フェストル「がっ!ゴホッ!…」

     「ゴホッ!……ぁ…」

     「……ぇ……、ォル…ㇰ…ス…。」

オルクス「………………………。」

騎士は槍を聖女から抜き取った。

フェストル「……オル…ㇰ…ス。」

フェストルは騎士の甲冑にそっと口吻をする。

オルクス「……フェストル?…わたし…は何を」

フェストル「もう、…いい…の…良いのよ。」

オルクス「フェストル?…!?貴方っ血が…!」

フェストル「…オルクス…お願い聞いて。」

オルクスは悟るこの傷では

もう彼女は助からぬ事を

オルクス「っ…はい、何なりとお申し付けを。」

フェストル「…あの…こを…」

     「…よ…ろ…、…く……ねぇ…。」

その言葉を最後にフェストルはこときれた。

黒い鎧に全身を包んだ騎士は…

遠く空を見上げ仰ぐ。

ああ…こんなにも世界は鉛色だっただろうか。

黒騎士の鎧にヒビが入るそれはどんどん全体に

広がってゆき鎧が砕かれた。

鎧の中から出てきたものは

全身が黒い鱗に

覆われた『人間のフリをした者は』

一歩、一歩歩く度に異形へと変貌してゆく。

そして…それは黒き竜となり空を飛ぶ。

あれは死そのものだ。

下界にいた人族を見下ろし

気づき恐怖の声をあげ逃げようとするものらから

順番に一斉に蹂躙する。

蒼き炎は永遠に燃え続け。

蒼き鉤爪は永遠の傷を負わせ。

蒼き体躯はその全てを持ってして

何もかも破壊し尽くした。

残った者は何もなく。

残った物は瓦礫すら残らず。

死の香りと焼け

それでもなお燃え続ける大地のみ。

生物の気配がしない焼ける音だけがする。

耳鳴りのように子守唄が

頭の中では流れているのに

ああ…この歌声は…

ダレ…の…声……だ…ろうか?

それでも止まらず次の破壊対象を求め彷徨う

見たら死ぬとされる竜を、人は死竜と名付けた。

それから数年がたったある日の事だった。

一人のエルフの少年が花畑で一人遊んでいる

一人なのに少年は歌を歌ったり踊ったりと

忙しなく動き回りなにやら楽しそうだ。

そこに死が舞い降りる。

大きく風を起こし花は大きく揺れ大地を震わす。

少年は驚き大きな目をパチクリとさせその場に

立ち尽くす。

ゆっくりゆっくりと死竜は近づく。

もう少年との距離は目と鼻の先だ。

少年に竜の牙が迫る。

???「…綺麗なお目め〜お水みたい!。」

牙が…止まる何故かは分からないだが本能が

止めねばと言っている。

???「ワハハ!カッコいいー!」

   「大きい!すごい!すごい!」

(貴方とっても素敵なドラゴンさんね)

(…麗水の様に綺麗で)

(澄んだ目をしているのね。)

…ああ、この子は、いや…

このお方は…間違いない…

間違えようもない…

竜の意識がハッキリしてくる。

竜の蒼き角も爪も蒼き灰になり消え

黒き巨大な体躯も人形の大きさになってゆき。

少年を青年は優しく壊れ物を扱うように

そっと抱きしめる。

少年はキョトンとしてわけがわからない様子。

すると…少年「あっ!リリスだー!」

      「リリス〜変な人来たー!」

      「竜になって〜ばーんて!」

リリス「…そうなんだ。」

   「坊ちゃまを離して。」

死竜から少年を引きはがす。

???「…この子は」

リリス「…姉さんの…忘れ形見です。」

???「フェストル…様は…。」

リリス「…。」

彼にとっては沈黙が答えだ。

???「救え…なかったっ…」

   「私は!今まで………なんの為に…」

   「っ生きて来たんだ……、ぁ、。」

 「……っ……あっ…あぁ…ああああぁっっ!」 

青年は地面に拳を叩きつける

何度も何度も血が出ても

お構いなしに爪が食い込もうとも

何度も何度も何度も何度も。

彼女の笑顔を思い浮かべて強く責める。

少年が竜だった青年の手を

その小さな子供体温の両手で包み込む。

少年「痛い痛いなの?痛い痛いならね」

「よしよしして〜痛い痛いの飛んでけ〜すると」

「治るんだよ〜!」

(あら怪我したの?こう言うときはね)

(呪文を唱えるのよ行くよ?)

死竜(…フェストル…。)

 「行くよー!痛い痛いの飛んでけ〜!」

「?まだ泣いてる?痛い飛んでかなかった?」

死竜「っ!…リリス様…。」

 「……どうか…この子を…フェストルの子を」

  「よろしくお願い致します。」

リリス「…ええ、団長。」

死竜「痛いの飛んで行きましたよ。」

 「ありがとうございます………フォルテ様。」

フォルテ「?うん!良かったー!」

死竜は、とぼとぼと屋敷から遠ざかる。

フォルテ「…待って!」

    「まだ!痛い痛いある!」

死竜「え?」

フォルテ「やだ!ここ…痛そう…やだっ!」

フォルテは自分の胸をトントンと叩く。

リリス「フォルテ、止めなさい。」

フォルテ「嫌だーー!!うえぇーん!」

死竜の足に縋りつき離れようとしない。

リリス「…はぁ…分かりました。」

死竜「…良いのですか…こんな…私を。」

リリス「私は…姉さんと姉さんの子を」

   「信じる。」

  「フォルテが貴方を信じたのなら。」

  「姉さんを守れなかった私も…。」

  「口出しする権利は、ないから。」

死竜の声を遮り話すリリス。

 (それが…あの方を守れなかった罰)

 (ならば受け入れましょう。)

フォルテ「ねぇねぇお兄ちゃんなんて言うの?」

オルクス「…私はオルクス…と申します。」

屋敷へと帰る3人を白く小さなカスミの花は

優しい風に揺られながら見守っていた。


フェストル

フォルテの母親

語源フランス語で指揮者の

シェフドルケストルから抜き取った名に。

アミュージア公国の王妃にして聖女

アミュージアに住む全ての妖精、精霊の加護と

音楽の神ミューズ達からの寵愛持ち

自身もノーブルエルフという

不老長寿でありほぼ不死の種族

ただし最愛の者からの攻撃だけは、全ての加護

寵愛をも帳消しにし彼女を唯一傷つけられる

方法。

オルクス

ドルドア帝国の竜脈と竜の血から千年に一度

生まれる先祖帰り。

ドルドア帝国の民にはほぼ竜の血が混ざった

混血だが先祖帰りしたものは大いなる力と

竜形態に変化できる。

人工的に作り出された竜の力をさらに強めた

竜人よりも遥かに凌駕する。

ドルドアの特殊戦闘部隊長補佐であったが

訳あってアミュージアに命の恩人である上司と

潜入調査へそこで運命的な出会いを果たすが

彼女は、振り向くはなかった。

自分の命の恩人と結ばれるのならば…

この二人を友として兄弟として永久に守ろうと

誓った。

だが…毒殺により長年守ってくれた恩人は

眼の前で死に、アミュージアに来てから

誰よりも優しくて接してくれた彼女も

誰も、彼もを救えなかった。

救うどころか…止めを刺すのは…いつも

自身の手だったのだから。

狂った優しい青年は破壊の限りを尽くして

暴れて泣いて鳴いて…その果てに

二人が命を賭けて守り抜いた最愛の元へと

辿り着き今度こそ誓う…今度こそ守り抜くと…


フォルテ

アミュージア唯一の生き残り

母の形見であるハルモニアで

いつも演奏をしている。

目元は母親似で髪色は父親似だ。

優しくて真っ直ぐで、音楽が一番好きな少年

母と同じくノーブルエルフ


※ハルモニア 

白いバイオリン

ハルモニアは、聖女の血を引く

清らかな心の持ち主にしか扱えない物

ドルドアの竜人に対抗する唯一の

アミュージア最強の武器であった。

元は荒れた大地を再生させる

癒やしの演奏具である。


リリス

フェストルに上級貴族に飼われるところを

救われたそれ以来フェストルとは、友人の様な

姉妹のような、主従関係だった。

永遠に生きるノーブルエルフである

フォルテとより長く一緒に居られるように

吸血鬼となり自身も不老長寿となった。

オルクスがフェストルを殺したことを

知ってはいるが彼の精神に悪影響を及ぼし

フォルテに危険がおよぶと危険なので

真実を話していない。

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