第9話 6つ数えてざまぁみろ!

「相手は1人だ! 囲んで殺せ!」

 

 サモヘドが唾を飛ばしながら指示を出すと、慌てて剣だけを持ち出した半裸の冒険者2人と護衛の兵士達が俺を囲んで剣を向けた。

 

 さてと......今から俺は冒険者だけを相手にするから、攻撃するなり逃げるなり好きにしてくれ。

 

 ただ、相手し終わった時に居るようなら容赦はしない。

 

「冒険王だろうが俺達2人を相手して生きて帰れると思ってんのかよ」

「知ってるんだぜ? お前のギフトは戦闘系じゃ無いハズレだってな!」

 

 金と銀色の騒がしい髪色の2人がニヤニヤと余裕の表情で剣を構えた。

 

 俺は思わず銀髪の言葉に頷いてしまう。

 

 ハズレもハズレ大外れのギフトさ! 戦いに役立つことも無いしね。

 

 けどよ。

 

 それでなんでテメェ等より弱いって事になるんだよ。

 

「はぁ? 強いギフトを持ってる奴が強いのは常識なんだよ!」

 

 あっそう。


「テメェ等! 一斉に襲いか」

 

 金髪の冒険者が膝から崩れ落ちた。

 

 目を見開いて崩れ落ちる金髪の瞳には拳を振り抜いた俺の姿が映っていた。

 

「はぁ?」

 

 呆然とする銀髪の後ろから声をかける。

 

 あまりさ、自慢するようなことじゃ無いんだけどよ。

 

 俺は強いよ。

 

「クソが! デタラメすぎんだろ」

 

 銀髪の冒険者が後ろに飛び跳ねて俺から距離を取る。

 

 その拍子に兵士たちが槍を一斉に突き出してくるが、既にその場に俺は居ない。

 

 未だに地に足を着けれていない銀髪へ追撃に移る。

 

「調子に乗るんじゃねぇ!」

 

 空中で岩の塊が生成され勢い良く射出された。

 

 なるほど『岩塊』のギフトか。

 

 圧倒的質量を即座に生成し、敵を圧殺する戦闘ギフトの中でも上位の強さを誇る『当たり』だ。

 

 それを殴り壊す。

 

「へ?」

 

 生成が甘すぎる。

 

 密度が低いせいで強度も質量も足りない。

 

 ウチのマオも同じギフトだけど......うん、比べると怒られそうだな。

 

「ふっふざけるな! テメェの持つ聖剣なら分かる! なんで拳で岩を砕けるんだよ!」

 

 銀髪の想定を大きく超えたのだろう。

 

 着地をするという意識が消え、尻もちをついて唖然と俺を見上げて居た。

 

 銀髪がギャーギャーと騒ぐが、答えなんて一つしかないだろう。

 

 お前は戦闘の最中に武器が無くなったらどうするんだ?。

 

 ギフトがあれば良いだろうが......俺のはハズレでな。

 

 それなら最後に頼れるのは体だけだろうよ。

 

「は? だからって拳で岩を壊せるわけが」

 

 鍛えなきゃ死ぬだけだった。

 

 それだけだ。

 

 拳を握り銀髪の顔を目掛けて振り抜く。

 

「ひぃ!」

 

 恐怖に歪む銀髪、苦し紛れに作られた岩の盾も、剣も全てが俺の拳の障害足りえない。

 

 全て諸共に砕き顔を捉え。

 

「......」

 

 顔の横スレスレの地面を砕いた。

 

 銀髪は白目を剥いて意識を手放して居た。

 

 その場を支配する静寂、俺が地面から拳を引く抜くと兵士たちが後退るのが分かった。

 

 それで決めたか?。

 

 逃げるか。

 

 潰されるかを。

 

「ひっ勝てるわけがないだろ!」

 

 武器が次々と地面に落ちる。

 

 誰が最初に逃げたのかは既に分からないが、一つだけ分かるのは。

 

 さぁコレで残るは俺とアンタだけだな。

 

 伽藍の城に居るのはサモヘドと俺という事だけだ。

 

 ほら抵抗してみろよ。

 

 最後ぐらいは根性を見せてみろよ!。

 

「平民如きがこの私にっ! 舐めるな!」

 

 階段を駆け降り、手に持った剣を振り抜く。

 

 目は血走り、呼吸が荒すぎて満足に息を吸えているのかも怪しい。

 

 だが、それでも俺を見据えて殺そうとする意思が見える。

 

 根性はあるようだ。

 

「死ね! 『冒険王』!」

 

 だが許さんけどな。

 

 剣を手の甲で受け流して顔面へ拳を直撃させる。

 

 手加減はしているが、それでも冒険者でも無いサモヘドには重く命に関わると錯覚しそうな一撃だろう。

 

 勢いよく吹き飛んだサモヘド。

 

「痛い痛い痛いィイイイイイイ!」

 

 だろうね。

 

 まぁ悶絶するサモヘドは置いておいて、さっき殴った時に違和感を覚えた。

 

 妙に音が響くというか......おそらく下に空洞があるのだろう。

 

 何故、地下室があるか。

 

 そんな事は考える必要もない。

 

 先程殴って皹の入った地面を殴りつけた。

 

「なっ何をしてるんだ!」

 

 起きたのかちょうど良い。こっちに来い、来なければ殴る。

 

 サモヘドは恥辱に塗れたように顔を赤くするが、殴られた恐怖が拭えないのだろう大人しく近寄ってきた。

 

 適当に金髪から剥ぎ取った衣服で縛り上げて抵抗できないようにする。

 

 その際にまた暴れたが気にせずに担ぎ上げ。

 

 念の為に銀髪を邪魔にならないように投げ飛ばしておき......皹が広がった地面を踏み抜いた。

 

 悲鳴をあげて落ちるサモヘドの面倒を見ながら薄暗い地面へと着地すると、啜り泣く女性達の声。

 

 そして、瓦礫に巻き込まれて気を失った男と泣き崩れたロディの姿だった。

 

「おっドンピシャだな」


 /////////

「まさか最悪な想定ほどよく当たるもんだな、本当に」

 

 どっどうしてレオスさんがここに?。

 

「少し野暮用があってね......ほら、ここから出すから少し離れてて」

 

 瓦礫に巻き込まれたバルバロイを雑に投げ捨てるとレオスさんが鉄格子に手をかけて。

 

「ふん!」

 

 一息で鉄格子をこじ開けちゃった......さすがレオスさんだ!。

 

「すまないなロディ、こうなる前にケリをつけたかったんだが間に合わなかった」

 

 え? どういう事なんだろう。

 

 レオスさんが何処か気まずそうに視線を泳がすなんて何があったんだろう。

 

 それにそこで縛られてる人は......。

 

「ぶっちゃけると、ロディの不遇は大体コイツのせいだな」

 

 レオスさんが男の人を目の前に突き出して、色々な事を話してくれた。

 

 『蒼き血の雫』はサモヘドの息がかかったギルドで、田舎から王都へ来た新人冒険者をターゲットに気に入った女の子を攫うための手助けをして居たみたい。

 

 執拗なまでに虐めて心を折り、田舎へ帰る道で攫う。

 

 ......もしあの時にミリシアちゃんに誘われなかったら、もし断っていたら。

 

 もしもを考えて背筋が凍った。

 

 さらにはバルバロイが持って居た錠剤は人の尊厳を奪うような酷い薬だったみたい。

 

「それを聞いてロディ、キミはどうしたい?」

 

 ボクは......許せないと思う。

 

 今までの事を思い出せば手が震えるほどの怒りが込み上げてくる。

 

「昔さ、知り合いの魔工師が言ってたんだけど」

 

 レオスさんがサモヘドの拘束を強めながら呟くように言った。

 

「怒りを感じた時は6つ数えると冷静になれるらしいね......やってみるかい?」

 

 ボクは頷く。

 

 あの時みたいに後悔したくないから。

 

 1。

 

 ねぇレオスさん。

 

 2。

 

「なんだい?」

 

 3。

 

 ボクは獅子宮殿のメンバーで居てもいいのかな?。

 

 4。

 

「それを決めるのはキミだよ、ロディ」

 

 5。

 

「ただ、俺も含めてキミが居てくれると嬉しいけどね」

 

 6。

 

 うん! ボク決めたよ。

 

 微笑むボクと頷くレオスさん。

 

 小さく息を吐いて。

 

 許せるわけないだろ! バカ!。

 

 全力で脚を振り上げて男の人の急所を潰した。

 

 サモヘドが泡を吹いて倒れたけれどボクの怒りは収まらなかった。

 

 お前のせいでどれだけ苦労したと思ってるんだよ!。

 

 あの男共はエロい目でボクを見るし! 女達は嫉妬が滲んでるのを隠しもしないし!。

 

 そもそも今考えれば、理不尽すぎるだろ!。

 

 痛みからか震えているサモヘドへ向かってボクは言い放つ。

 

 ざまぁみろ!。

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