第4話 初心者ダンジョン
予定の時間にキッチリ合わせて正門に来たロディにコレから行く場所の説明を行いながら歩く。
今回行くダンジョンは王都正門のすぐ横に現れ、数多くの冒険者に管理されている通称『初心者ダンジョン』だ。
「名前だけは聞いたことあります! 最初に王都で確認された最古のダンジョンですよね!」
そう、大昔からあるダンジョンで数多くの冒険者達が此処を通過点にする。
階層も浅くて湧くモンスターもシンプルで強くは無い。
だから『初心者ダンジョン』。
その分、経験を積むのと安価な魔石を手に入れる以外に来る理由は無いけどね。
「でっでも、初めてなので緊張します」
その気持ちは大事だよ。
慣れが危険を近づけるからね。
「はい!」
話しながら歩いていると洞窟の入り口が見えてきた。
洞窟にしか見えない初心者ダンジョンが見えてくると立ち止まる。
それとダンジョンへ入る前にやっておいた方が良い事がある。
「やる事ですか?」
そう、少し面倒だけどね。
ダンジョンの入り口の横に薄く光る水晶を指差す。
「コレは......魔工具ですか?」
そう、コレに情報を打ち込めばギルド本部に打ち込んだ情報が転送される仕組みさ。
ギルドで管理されているダンジョンへ入る時には少し面倒でもやった方がいい。
「そうなんですか? みんな自由に出入りしてると思ってました」
やらない方が楽だし、時間も節約できるから気持ちは分かるよ。
俺も最初はやってなかったしね。うちのメンバーでもやらない奴はいるし。
けど、コレをしておけば万が一にダンジョン内で孤立した時に、死んでなければギルドから救援が来るよ。
もし高位のダンジョンだったら俺たち獅子宮殿も救助に向かう場合もあるから覚えておいてね。
「なんか想像より、しっかりしててビックリしました!」
素直でよろしい。
どうにも面倒くさがられるだよな、まぁ若い子達に押し付けても仕方がないから強くは言わないけどね。
さぁまずは水晶に触ってみて。
「はい!」
恐る恐る触るロディ、その指先が触れるとロディの目の前に小さな女の子が現れた。
『データ照合、はじめましてロディ様』
「えっ! あっはい! よろしくお願いします!」
彼女はサリア、よく分からないけど妖精みたいなもんだと思っておけば大丈夫なはず。
『コレはレオス様もお久しぶりでございます。本日はロディ様とご一緒に潜られますか?』
あぁ、ロディは登録は初めてだから最初から教えてくれ。
『承りました、それではロディ様。私へ手をかざして下さい』
「はっはい......コレで大丈夫ですか?」
『14時43分、獅子宮殿所属ロディ様の登録を確認しました。救援の時刻は本時刻より5日で設定いたしますか?』
「はい! 大丈夫です!」
『救助日数設定完了、コレを過ぎればギルドが救援へ向かいます。ダンジョンから出た際はもう一度私を呼ぶかギルドへ報告してください』
そうそう、ついでに場合によっては短くしたり長くできるからそれは追々覚えて行こうか。
『それでは登録は以上です、「いのちをだいじに」でよろしくお願いします』
それだけを言うとサリアは姿を消した。
「消えちゃいました......そう言えばレオスさん、14時43分って言ってましたけどどういう意味なんですか?」
あれは制作者独自の時間設定らしいね。
俺らが鐘の回数で時間を把握するのと一緒って考えれば良いよ。
「へぇやっぱり魔工師の人たちは凄いんですね! 独自の時間を作るなんて!」
本当になぁ......まぁ今はそんな事よりダンジョンに集中しようか。
「はい!」
ダンジョンの入り口へ入ると薄暗い場所に仄かに光る魔法陣が描かれていた。
コレを踏むとダンジョンへ転移するから気を引き締めてね。
「あのレオンさん!」
うん、どうかした?。
「よろしくお願いします!」
あぁ任せてくれ。
/////////
レオスさんと一緒にダンジョン内を歩く。
初めて入ったダンジョンは想像以上に綺麗で整然とされた場所だった。
壁には分かりやすいように光の魔工具が所々かけられていて足元も明るい。
「ダンジョン内の構造が変わる変革期以外は、こうして後続が探索しやすいように整えるのも上位ランクの冒険者の役割でもある」
でも初めて発見されたダンジョンとか変革期直後はどうするんですか?。
「そういう時は光の魔工具を大量に持ち運んで攻略するか、教会の光魔法使える人に同行を頼むかだね」
初めて知る情報を一つも聞き逃さないように頭に刻み込んでいると、レオスさんが足を止めた。
目の前の壁が盛り上がり人型の小人が出てくる。
ゴブリン。
醜い形相と歪んだ鉤鼻が特徴のモンスターだ。
「ここら辺に出るにはゴブリンとコボルトだけだね。注意すべきなのはゴブリンは数、コボルトは速さかな」
そう言いながらレオスさんは手に持った剣でゴブリン達を倒していく。
ゴブリン達の攻撃を受けて、弾き、斬る。
ボクでも分かるように見えやすい速度でわざわざ倒し方の実演をしてくれている......その一挙手一投足が全てが美しさを覚えるほどに洗礼されている。
それにレオスさんの持つ剣は『冒険王』を象徴する聖剣じゃなくて鍛冶屋さんでも売ってるような数打ち物。
下手するとボクの方が良い剣を使ってるかもしれない。
「それじゃあ、少しづつ魔石を回収してこうか。まずは力上昇の魔道具無しの上限を把握しようか」
その言葉にレオスさんに見惚れていたボクは慌てて魔石を拾っていく。
その間にも近寄ってくるゴブリン達を倒していた。
やっぱり綺麗な戦い方。
いつかボクもあんな風になれるのかな?。
「どうだ? まだ余裕そうか?」
えっ? あっはい、まだ全然行けそうです!。
「ふむ、なら少し進みながら色々回収していこうか」
先に進むレオスさんの後ろへ続く。
そのついでにとレオスさんはモンスターを倒し、魔石をボクが背負っているバックパックに詰め込む。
そろそろ限界に近いとレオスさんに報告すると立ち止まり。
「じゃぁ次はコレを持ってみて」
手渡されたのはレオスさんの使ってた剣だ、それを手に取る。
「どう? 重いとかあるか?」
ううん、軽く感じるよ?。
「それじゃあ、コレを持ってみて」
次に手渡されたのは煌びやかな装飾がされた鞘に入った短剣。
それを手に取るとズシリと重く感じた。
「それは聖剣の片割れでね。護身用に重宝してるんだ」
それを聞いた瞬間に手の中にある短剣が今背負っているバックパック以上に重く感じる。
今手汗大丈夫かな? 落としちゃったらどうしよう。
思考が高速で後ろ向きに回り始めた。
「なるほどね、ロディはコレを『荷物』とは思えなかったのか」
ひょいとレオスさんに回収された短剣。
それと同時に体が軽くなって深呼吸した。
「まだ詳しい事は分からないけど、ロディのギフト『荷物持ち』が反応するのはロディ自身が『荷物』と認識したモノだけみたいだね」
だから剣には適応されて、短剣には適応されなかった。
「実は鞘だけ派手だけど中は普通の短剣なんだ」
気にした事が無かった。
漠然と荷物を運ぶだけの能力だと思ってたから......。
「今はまだ良いけど、将来的には怪我人を『荷物』の範囲に入れられるように特訓してみようか」
レオスさんが何かを考えるように腕を組んで独り言を呟く。
「素の力だとミリシア2人分か、コレだけでも十分だが魔道具とコレからの成長で底上げは可能か」
多分、声に出てる事は気付いてない。
確認の為の独り言なんだろけど、時々聞こえるボクを褒めてくれているような言葉に照れて顔がニヤけてそうなる。
顔をムニムニ揉みほぐしてどうにかバレないようにしていると、レオスさんが頷いて。
「それじゃあこの先のセーフルームで休憩したら帰還の魔工具を使って帰ろうか」
セーフルームって朝に教わった奴だ! 確か魔物が湧かない特別な部屋の事だよね!。
「そう、よく覚えてたね。セーフルームは教会の結界魔法で魔物は入れないように出来てるんだ」
もしかしてセーフルーム作るのも冒険者の仕事なんですか!。
「正確には教会との共同作業だけどね」
なんて事の無いように話すレオスさんにボクは今日何度目か分からない驚きに包まれていた。
冒険者は色んな魔物と戦って色んなダンジョンを攻略するだけだと思ってから......。
ボクもいつかは誰かの為になれるのかな?。
「当たり前だろ? なんなら今の段階で荷物持ちとして満点だしな」
不意にかけられたその言葉にボクは。
「わぁ! どうした! なんか気に触ること言ったか?」
ダメだなぁボク。
レオスさんに少し褒められただけで泣くようになってる。
『戦えないくせに仲間とでも思ってんのかよ』
『はぁ? ポーションが欲しいって......何もしてねぇクセに贅沢言うんじゃねぇよ』
ボクは少しずつ進めてるのかな?。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます