15: 不条理な世界に恨みはない

世界はよっつのカーストに分かれている

女が好きな男は バラモン

男が好きな男は クシャトリヤ

男が好きな女は ヴァイシャ

女が好きな女は シュードラ


女が好きな男は

実は女が大嫌いで

女を小莫迦にするが

女なしでは生きられない


男が好きな男は

女だけが好きな男がいいのであって

本当に女に興味がなくて

男たちが好きな女には追従するしかない

こうして男好きの男に

女は恨まれつづける


男が好きな女は

どんな男でも

箸にも棒にもかからない男でも大好きで

愛想笑いをし

女が好きな女は

興醒めするくらい嫌い

軽蔑するくらい嫌い

足蹴にするくらい嫌い


女が好きな女は

どんな男でも毛嫌いし

女が女に捨てられた理由は

本当は男が好きだから

それは

どんな理由であろうとも嫌いになるだろう


たとえばドイツ男とユダヤ女がいて

ふたりは本当に愛し合っているのか

ユダヤがドイツに服従しているだけではないか

ふたりが別の民族でも

孕んで産んだ子はドイツ民族になる

男の子だとなお嬉しい なお誇らしい


男性優位社会において

男たちが女を好きな理由と

わたしが女を好きな理由は決して同じではない

女を殴る理由がわからないし

女を莫迦にし 罵倒する理由もわからない

そうまでして

男を好きになる女の理由もわからない


わたしたちは同時にこの場所にいて

彼女たちの目線は

男たちの影を追う

わたしへの目線は逸れて 見失う

見失っては殴り殺される

踏みつけにされる


わたしは女が好きな女だが

いっぽうで ではわたしは男なのかと苦しんだ

でも男たちは一度たりとも苦しまない なにも考えない

男に生まれたことを悔んだりしない

わたしは何度も悔んだことがある 女に生まれたことを

わたしが好きな女を 男が踏みつけにし

わたしが好きな女を 男が莫迦にする

そんな男たちと一緒じゃないか

わたしは違う

わたしは

好きな女を永遠に閉じ込めたりしない

好きな女を苦しめたりしない

好きな女を殺しはしない


女を好きな女であることを

後悔したことがある

でもいまは誇りに思っている

誰に何と言われても

わたしが好きな女たちを誇りに思っている

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