装備の新・新調計画
老職員の助言をもらったユウは昼から貧民の工房街へと向かった。1度宿の部屋で休んだ後、持っている武器全部をひっさげて歩いている。
いくらか考えた末、ユウはまず武器工房『金槌と金床』に足を運んだ。冒険者の道に面した年季の入った石造りの平屋である。奥の作業場からは金属を叩く音を聞きながら中に入った。採光の窓が小さいため薄暗い。
入口付近の簡素な棚へとユウは近づいた。手入れされた
「やっぱり重いなぁ」
「随分と久しぶりじゃないか」
声をかけられたユウは顔を上げた。すぐ近くに親方のサミュエルが立っている。
「前は剣だったが今度は
「はい。またこっちに戻ろうかと思っているんです」
「それじゃ今持ってる剣はどうするんだ?」
「今使っているこの
「下取りか。どちらも見せてくれないか」
親方に手を差し出されたユウは持ってきた
「どちらもだいぶ使い込んでいるな。ただ、丁寧に手入れはしてあるように思える。剣の方はもしかして、春にここで買ったやつか?」
「そうです。
「で、選んだのがそれか。普通は逆なんだけどな。まぁいい。ともかく、この2つを買い取ってほしいというのなら、銀貨1枚と銅貨8枚になるぞ。それでいいか?」
「構いません。この
「銅貨80枚だ。下取りの分を差し引くと銅貨52枚になるな」
「銀貨2枚と銅貨12枚で支払います」
取り引きが成立するとユウは代金を支払った。そうして重みを感じる
武器工房を出たユウは気持ちも新たに次の工房へと向かう。冒険者の道に面した少し汚れた石造りの平屋に入った。防具工房『岩蜥蜴の皮』である。この工房も採光の窓が小さいため薄暗い。作業場と棚がほぼ一体で手入れのなされた盾が壁に立てかけられ、鎧がその手前に陳列してある。
ユウが中に入ると、すぐに色あせた角刈りの金髪の四角い顔をした男が顔を向けてきた。同じく不機嫌そうな表情をした親方のパーシヴァルである。
「あんたは確か前にも来たことがあったな」
「前は盾を買いました。
「ああ、そうだったな。思い出した。それで、今回は何の用だ?」
椅子から立ち上がったパーシヴァルがぽっこりと突き出た腹を抱えながらユウの元へやって来た。
のそのそと近づいてくる防具工房の親方にユウが用件を告げる。
「鎧を買い換えに来たんです。今着ている
「下取りして新しいのがほしいんだな。買い取ってほしいのはそこの台に置いてくれ。それと、採寸させてくれ。今のあんたの体にあった鎧を持ってくるのに必要なんだ」
「いいですよ。計ってください」
首肯したユウはパーシヴァルに全身を計られた。採寸が終わって親方が奥へと向かっている間に着ている鎧を取り外して指定された台に置いていく。その間に鎧一式を持ってきたパーシヴァルに声をかけられた。脛当てを外しながら話を聞く。
「持ってきたこいつを身に付けてくれ。とりあえず上から被るだけでいい」
「鎧の調整ってすぐに終わるものなんですか?」
「体と鎧のズレが小さいならな。大きいと何日もかかることがある。ただ、物には限度があるが。あんたの場合、ちょうど良さそうなのがあったから時間はかからないと思う」
「よし、これでできた。そこでちょっと動いてみるといい。どうだ?」
「おお? 結構動けますね。もっと体がつっかえると思っていましたけど」
「騎士様が着込む鎧だってうまく調整すれば動きやすくなるんだ。そいつだったらどうとにでもなるよ」
「これ良いですね。もっと早く買い換えたら良かったな」
「そう言ってもらえたら嬉しいよ。代金は銀貨30枚だ。が、今度はこれを見なきゃな」
笑顔のパーシヴァルば台の上に置かれた
「大切に使ってたんだな。なかなかの状態だ。これだったら全部で銀貨2枚でいいぞ」
「でしたら、代金は銀貨28枚ですね。はい、どうぞ」
「ありがとう。いい取り引きができたよ」
代金を支払ったユウにパーシヴァルが笑顔で答えた。予想よりも着心地の良い新しい鎧にユウも喜ぶ。これで一層戦いやすくなった。
上機嫌で防具工房から出たユウは更に別の工房へと足を向ける。貧民街に近い所にある怪しい臭いのする石造りの平屋だ。製薬工房『泉の秘薬』である。中に入ると出入口近くの棚にいくつもの小瓶が並べられていて別の棚には中瓶が揃えられていた。
ユウが声をかけると奥の作業場から禿げた頭の頬のこけた老人がやって来る。
「お前さんか。今日はどうした?」
「
「ふむ、10回分か。鉄貨10枚じゃな」
「どうぞ。それと、先日は薬の分析をありがとうございます。おかげで助かりました」
「構わんよ。珍しいもんを目にできた上にカネもしっかりもったしの。さすがに代行役人相手に商売するとは思わなんだが」
「あはは、僕も同じですよ。奇遇ですね」
頭を掻いて笑うユウはニコラスに肩をすくめられた。代金を支払い、大瓶を手渡すとニコラスが油を注ぐのを眺める。
「そういえば、最近は薬を買わんようじゃが、
「実は先月からずっと
「なんじゃと? 代行役人の仕事をまだ続けておるのか?」
「いえ、そっちはもう終わっています。最近は長めの休みを取っているんですよ。僕、来月にはこの町を出て行く予定なんで」
「なんと。旅に出るのか」
「元々故郷から旅を続けていたんで、再開するというのが正しいですね。僕、世界のいろんな所を見て回りたいんですよ。それであっちこっちを回っているんです」
「なるほどの。見聞を広げるというのは良いことじゃ。しかしそうなると、なぜここの
「いやぁ、実はお金がなくなっちゃって稼がないといけなくなったからなんですよ」
「なんじゃそれは。それでこの町に来たのか」
大瓶に松明の油を注ぎながらニコラスが呆れた。話をしながらも目は油と大瓶から離さない。大瓶の中がいっぱいになると油を注ぐのを止める。そうして蓋を閉めた。
「よし、これで終いじゃ。入れたぞ。持っていけ」
「ありがとうございます」
「旅に出るというのなら準備はしっかりするんじゃぞ。手抜かりがあるとつまらんことで死んでしまうからな」
「はい、宿に戻ったらまた見直しますよ」
すっかり重くなった大瓶を手にしたユウは製薬工房を後にした。
次いでユウが最後に向かったのは細工工房『器用な小人』だ。何となく寂れた石造りの平屋に入ると、奥の作業場で仕事をしているやや禿げかかった小太りの親方に声をかける。
「オリヴァーさん、こんにちは」
「誰かと思ったらユウじゃないか。久しぶりだな。どうしたんだ?」
「特に用はないんですけれど、あの下敷きの売れ具合はどうかなって思って」
「あれか。実は最近よく売れてるんだよ。ほら、ちょっと前から
「おお、それはいい感じじゃないですか」
「そうなんだよ! いやぁ、やっと追い風が吹いてくれたってもんだぜ!」
新製品の好調な売れ具合にオリヴァーが嬉しそうだった。発案したユウとしても幸せな気持ちになる。
「ところで、僕なんですけれど、来月にはこの町を出ることにしたんですよ」
「ありゃ、そうなのか。残念だねぇ」
「僕もですよ。それで、羊皮紙の件はもう必要なくなりました」
「ああ、あったなぁ、そんなことも。最後に買っていくかい?」
「地図を描いたやつも削れば再利用できるんで遠慮しておきます」
「そうかい。そりゃ残念だ」
少し寂しげな表情を浮かべたオリヴァーがユウに返答した。それからもう少し雑談をしてからユウは工房を出る。
この後、五の刻の鐘が鳴る頃にユウは宿の部屋に戻った。買ってきた物を机の上に置く。これで必要な物は買い揃えることができた。干し肉などの消耗品は出発直前で良い。
裁縫道具を取り出したユウは次いで手拭いを作り始めた。
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