第15話 『夏目』

霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?




著者:ピラフドリア




第15話

『夏目』





 黒淵さんに教えてもらった住所を頼りに、私達は呪いのダンベルの持ち主であった夏目という人物の自宅に向かっていた。




「ここで降りるんでしたっけ、それとも次でしたっけ?」




 リエがソワソワしながら不安そうに聞いてくる。




「そうね。…………次の次の駅で乗り換えよ」




 私は行き先を駅員に伝え、行き方をメモした手帳を確認してから、リエに答える。




「そうでしたか!」




 リエは私に取り憑き、屋敷から出てから、初めての遠出だ。ワクワクと不安の両方があるのだろう。ずっと落ち着かない様子だ。




 それに比べて楓ちゃんは電車に揺られる中、立ちながら熟睡している。




 車内は空いているため座ることを勧めたのだが、これも筋トレの一つだと言って無理にでも座ろうとしなかった。

 部活とバイトで疲れているはずだから、少しでも身体を休ませれば良いのに……。




「タカヒロさん、ミーちゃん、おやつ食べますか?」




 リエが私の隣に置かれたバックを開けて、中にいる猫の顔を出す。




「うお、眩し……おい突然開けるなよ」




「すみません、……食べますか?」




「今要らん。それよりこういうところで開けるなよ。見つかったら追い出されるぞ」




 私はバックの中から頭の飛び出ている黒猫を撫でる。




「大丈夫よ、今は私たちしかいないから」




 喫茶店を出たのが一時過ぎ、あれからずっと電車を乗り継いで二時間をかけて、ここまで来た。

 電車の外から見える景色は山と畑だけの自然溢れる場所だ。




 こんなところにダンベルの持ち主の家があるらしい。




 しばらくの間電車に揺られ、ついに目的の駅に辿り着いた。




「ここが夏目の住んでいた村ね」




 辺り一面緑一色の結和村(けつわむら)。川が近くを流れており、その川を登っていくとダムがある。




「駅の近くには意外と店があるんですね。メモメモ……」




 初めての遠出に興奮しているリエは、見慣れない風景を細かくメモして記録している。




「クンクンクン、この匂いは……」




 駅から出ると楓ちゃんは顔を突き出して、何かの匂いを嗅ぐ。

 そして吸い寄せられるように駅の向かい側にある店へと走っていく。




「ちょっと、楓ちゃん!!」




 さっきまで寝ていた人とは思えない元気な動きだ。元気なのは良いが、走りながら振り回しているバックの中には黒猫がいることを忘れないでほしい。




「リエ、メモ終わった? 楓ちゃん行っちゃったから行くよ」




「はい! 大丈夫です。行きましょう!」




 メモ帳を閉じたリエと共に店の前で店員から何かを貰った楓ちゃんの元へ向かう。




「何買ったの?」




「串焼きです!」




 振り返ると、楓ちゃんの口には五本も咥えられていた。




「はいこれ、どうぞ」




 二本の串焼きが入った袋を楓ちゃんは私に渡す。




「あ、ありがとう……」




 長い間、電車に揺られていたため、食べる気にはなれないが……とりあえず受け取っておく。




「それじゃあ、行きましょっか!」




 店で買い物をするために地面に置いていたバッグを楓ちゃんが持ち上げて肩にかける。




「そうね。早くしないと日が暮れちゃうしね」




 進もうと前を目線を動かしていると、楓ちゃんの後ろ姿が一瞬視界に入る。

 その時、バックのほんの少し空いた隙間から、助けを求める黒猫の目が見えた。







 駅から五分ほど川沿いを進んで、書かれている住所の家を目指していた。




「苦しいなら苦しいって言ってくださいよ〜、師匠〜」




「言えるかー!! そんな余裕もなかったわ!! グルングルン回しやがって、目が回ったわ!!」




 そう言って文句を言いながら黒猫は私の頭の上で座る。




「だからと言って、私の頭の上にいるのはやめてくれませんか」




「この身体はなぁ、俺じゃなくてミーちゃんのものなんだ。宝物を扱うように大切に運べよ! 分かったな、楓」




 私の話を聞こうとしないタカヒロさん。私は頭から下ろして目の前で抱っこするとフリフリして揺らしてやる。




「おい、や、やめよー! また酔う、酔うから!!」




「私の頭も宝物なのよ! この髪にどれだけ時間をかけて手入れしてると思ってるのよ!!」




「分かったわ分かったから、揺らすなーー!!」




 私が黒猫を揺らして仕返している中、私の隣では二本の串焼きをリエは食べる。




「リエちゃん、よく食べるねー!」




「楓さん。あなたほどではないですよ……。それにこれも思い出になりますから。メモですメモ!!」








 しばらく経って、私の両肩にリエと黒猫がのしかかった。




「気持ち悪い……」




「なんで無理して食べるのよ」




 旅の思い出だと言いながら、私の分の串焼きまで食べていたリエだが、電車の疲れと慣れない歩きながらということもあり、気分を悪くしてしまったようだ。




「これも思いでぇぇげぇええええぇぇぇぇぇええ」




「うわ、危ない!!」




 やばいものを噴き出すリエから服を汚されないように、私は華麗に回避する。




「おい、あまり動くな。揺れるだろ」




「どうしてそんなに呑気なのよ!」




 黒猫はリエとは反対側の肩にへばりついている。




「って、それよりリエ、大丈夫?」




「だ、大丈夫……です」




 大丈夫じゃなさそうな顔をしているが。




 と、そうやって事件が起こる中、先に進んでいた楓ちゃんが立ち止まって振り返った。




「着きましたよ。レイさん」




 両肩に幽霊と猫を乗せた私が楓ちゃんのいる先を見る。すると、たどり着いた。

 ここが呪いのダンベルの最初の持ち主であった人物の家。




 木造の古びた二階建ての家。庭には木にくくりつけたブランコが設置されている。




「ここが夏目の家ね」







 入り口にはインターホンのようなものはなく。木造の看板に表札が付けられている。

 ポストは雑草に埋もれており、使われている形跡はない。




 私は玄関まで行き、扉を叩いて呼びかける。




「すみません、夏目さんいますか?」




 しかし、返事はない。




「確か黒淵さんは夏目さんはもう亡くなってるって言ってましたよね。もしかして誰もいないんじゃないですか?」




「家族の誰かが住んでないかなって期待してたんだけどね。話は聞けそうにないのかな」




 肩に乗っているリエとそんな話をしていると、庭の方を見ていた楓ちゃんが叫んだ。




「みんな来てーー!! 凄いものがありましたよ!!」




 私達は楓ちゃんの元へと向かうと、楓ちゃんは庭の奥を指差した。




「あれです」




 そこには雑草に埋もれて、所々が錆びているが、庭一面に広がる筋トレ道具の数々が置かれていた。




「まるでSA○UKEの挑戦者ね……」




 実際に某テレビ番組で挑戦者が自作していたものまで設置されている。




 楓ちゃんは雑草の中をかき分けて進むと、一番近くにあった傾斜角が五十度の壁を軽々と登った。




「これワクワクしちゃいますね」




「ワクワクしてるのはあなただけよ。早く降りなさい、落ちたら危ないから」




「はーい!」




 壁からジャンプして降りた楓ちゃんを連れて、再び玄関へと向かう。再びノックして呼びかけても返事はなかったため、扉を思い切って開けてみたら、鍵はかかっておらず扉が開いた。




「ホラー映画みたいな展開ですね! 師匠!」




「俺の反対側には本物の幽霊がいるから、そう言われても怖くもなんともないけどな……」




 玄関に入り、もう一度呼びかけるがやはり返事はない。だが、ここで引き返したら依頼を解決できない。

 呪いの正体を知るためにも、私達は家の中を探索することにした。




 家の中もかなり汚れており、雨漏りしているのか腐っているところもある。玄関にある下駄箱の上にスリッパが置いてあるため、それを手に取ってみると、




「きゃ!?」




 中から虫が顔を出してきて、私はスリッパを投げ捨てた。




「……靴のまま入りましょうか」




 靴を履いたまま、家の中に入る。誰もいないが靴で入ってしまったことを謝りながら中に入る。




 玄関のすぐそばには吹き抜けの階段があり、二階に行くことができる。しかし、まず最初は一階から探索していく。




 未だに体調が完璧ではないリエには、玄関で休んでもらい、私と楓ちゃん、黒猫の二人と一匹(プラス一人)で奥へと向かう。




 階段の隣にある廊下を進むと、洗面所と浴槽。その向かいにトイレがあった。

 廊下は一人が通れる程度の広さのため、私を先頭に順番に進んでいく。




 私がトイレの前を通った時、風が吹いて木製の扉が動く。トイレの扉は廊下側に開くタイプだったらしく、丁度その前を通っていた私は扉に激突した。




「痛……」




「大丈夫か? レイ」




「ダイジョウブ…………」




 楓ちゃんに抱っこされる黒猫に心配されながらも、廊下を塞ぐ扉を押して先へ進む。

 トイレと洗面所を通り越して、先に進むとキッチンとリビングがあった。




 キッチンとリビングが繋がっており、広く感じる。部屋の中央にはテーブルがあり、キッチンの反対側にはテレビが置かれている。




 部屋に入った私達は、それぞれで部屋の中を探索する。




「外は運動道具いっぱいありましたけど、中は普通ですね」




「外にあれだけあれば十分でしょ……」




 楓ちゃんの言う通り、部屋の中には筋トレ道具ひとつ置いてない。

 本当にここで呪いのダンベルを解くことができるのだろうか。




 そんな不安を感じていると、誰も近づいていないのに突然、テレビがついた。




「誰かつけたの?」




「俺は触ってないぞ」




 最初の画面は真っ暗だった。しかし、入力切り替えがされて、誰も触っていないのにビデオが始まり映像が流れた。




「なんか流れ出しました」




 テレビの映像は広いスタジオと、タンクトップを来た外人が並んでいる。

 そして画面外から黒人の男性が現れた。




「ハロー、俺はスパナポッポ隊長だ。これから一緒にエクササイズだ」




 スパナポッポが現れると単調な音楽が流れ始める。




「ではまずは…………」




 とスパナポッポの顔をズームしたところでビデオが止まり、画面が荒れ始める。

 色がおかしくなったり歪んだり、スパナポッポの顔が変化していき、白い肌の女性に姿が変化した。




「何が起きてるの……」




「レイさん、師匠、下がってください!!」




 画面に女性が現れると、楓ちゃんが慌てて警戒する。




「どうやら現れたみたいです」




「現れたってまさか、このテレビに映っているのが……」




「はい、夏目さん本人です」




 テレビに映る夏目の顔。夏目がニヤリと笑うと、窓の外が突然暗くなる。雲が出てくると雨が降り始める。




「マズイですね。体調が悪かったとはいえ、リエちゃんに気付かれずにこれだけの力を隠せてたってことは。この幽霊、かなり強いですよ」




「強いってあの怪人の幽霊よりも」




「当たり前です」




 テレビが消えて夏目の姿が見えなくなる。すると、それと同時に廊下につながる扉がゆっくりと閉まり始める。




「二人ともこの部屋から逃げますよ。夏目さんは僕たちを閉じ込める気みたいです!」




 楓ちゃんはそう叫び、扉の方へと向かう。私と黒猫も急いで扉へと向かう。




「レイさん、廊下へ。師匠急いで!!」




 私は無事に部屋から出た。しかし、もう扉が閉まってしまう。

 私と次についた楓ちゃんは黒猫の到着を待つが、このままでは黒猫が着く前に扉が閉まってしまう。




 すると、楓ちゃんは黒猫の方へと走り、黒猫を抱き抱えると、




「レイさん!!」




 廊下にいる私に向けて黒猫を投げた。




「うおおおぉぉっ!?」




 無事に黒猫をキャッチしたが、扉はもう人が通れるほど開いておらず。楓ちゃんは黒猫を投げた位置で立ち止まると、




「レイさん、ミーちゃん、そして師匠。後は任せました!!」




 扉が閉まり、楓ちゃんの姿は見えなくなった。




「楓!!」




「楓ちゃん!!」




 私は扉を開けようとするが、扉は開かない。タックルをしても壊れる気配はない。

 私がどうにか入ろうと頑張る中、黒猫は冷静に座っていた。




「おい、レイ。その辺でやめろ」




「でも、中に楓ちゃんが」




「アイツはこの程度でやられる漢じゃない。それに今は楓のためにも先に進もう。俺達は任されたんだからな……」




 黒猫はそう言ってきた廊下を戻っていく。




「タカヒロさん……」




 そんな黒猫の後ろ姿を見て、




「なんかカッコよくてウザいです」




「おい!!」








 まだ探索していない二階に行くため、私達は玄関に戻る。玄関ではリエがいるはずだ。

 リエなら、夏目の倒し方も楓ちゃんの助け方も分かるはず。そんな期待をしながら玄関に戻ったが、そこには誰もいない。




「リエはどこに行ったの……」




「先に別のところを探しているか。それとも……。ま、あの子なら楓と同じで大丈夫だろ」




「そうね。リエなら大丈夫なはずよ」




 私は玄関の扉を開けようとするが、鍵が閉まっているわけでもないのに扉は開かない。




「出れない。閉じ込められてるみたいね」




「どちらにしろ。行くところは決まってるだろ」




 私と黒猫は廊下の隣にある階段を見つめる。一段一段が高く、かなり急な作りになっている階段。

 階段は窓も照明もないため、薄暗く不気味に見える。




「タカヒロさん。私に乗って……。二階に行くよ」




「ああ……」




 黒猫は下駄箱を踏み台にして、私の肩に飛び乗る。黒猫の爪が肩に食い込むが、それを我慢して階段へと向かう。




 ギシギシと音を立てながら階段を登り、二階にたどり着くと、二つの部屋があった。

 一つの部屋は扉が開いており、階段の途中からでも中が見えて何もなかった。

 だが、もう一つの部屋。




 そこは私でも分かるほど、不気味な力が溢れ出ていた。




 私と黒猫は慎重に歩き、部屋の扉の前に立つ。




「開けますよ」



「ミーちゃん、力を貸してくれ。楓達のために」




 扉を勢いよく開け、私と黒猫は臨戦体制をとる。武道などしたことがない私は、独自のポーズで構え、黒猫は深く身をしゃがみいつでもとびかかれるような姿勢になっていた。




 しかし、扉の先にはジャージを着た金髪の女性とリエがストレッチをしている姿があった。




「あ、レイさん!!」




「リエ、なんでここに……てか、その人……幽霊よね?」




「はい。この方が夏目さんで呪いのダンベルを作った本人のようです」




 ストレッチをやめた夏目は正座をして私達の方に身体を向けると、




「ごめんなさい!! 呪いをかけるつもりはなかったんです!!」




 土下座をした。






 夏目を連れて一回のリビングに戻ると、扉が開き楓ちゃんが良い汗をかいてスポーツドリンクを飲んでいた。




「レイさんと師匠………っと、その方は夏目さんですか。あのビデオ良い運動になりますね!! ありがとうございます!!」




「いえいえ、私も人がここに来るとは思ってなかったので、部屋に人が入ればビデオが再生されるようにしてて……。びっくりしてしまったみたいですよね。ごめんなさい」




 私達はリビングの中央にある椅子に座り、夏目から話を聞く。




「この椅子……ギシギシいう」




「ごめんなさい。私霊体だから椅子に座ることほとんどなくて、大丈夫そうな椅子持ってきますか?」




「良いよ良いよ。それよりも、なんで呪いのダンベルなんて作ったの?」




 私が聞くと夏目は下を向く。




「作る気はなかったんです。私、人よりも筋肉が少なくて、どれだけ運動してもなかなか結果が出なかったんです。だから他の人の筋肉が無くなれば良い、そう思いながらダンベルを使っていたらそんな呪いのダンベルになってしまったんです」




「そんなことで呪いってかけられるものなの?」




 私は隣でお茶を飲んでいるリエに聞く。




「そんな簡単なものではないです。でも、夏目さんの思いが強かったんでしょうね。だからこそ、ビデオにも呪いをつけられた」




「そういえば、あのビデオはなんだったの? 部屋に閉じ込めようとされたけど」




 夏目は座ったまま、テレビの方を見る。




「疲れて逃げないように、あのビデオの再生中は絶対に外に出ないって決めてたんです。それが呪いになって部屋に閉じ込められるようになりました」




「そんな理由で閉じ込められそうになったの…………。ま、理由はわかったことだし、ダンベルの呪いの解除は可能? それで困ってる人がいるのよ」




 私が聞くと夏目は頷く。




「出来ますよ。呪いにかかった人は「私はマッチョじゃなーい!!」って叫ぶだけです」




「何それ? どうしてそれで解除されるの?」




「呪いは私が人の筋肉を妬んでできたものです。なので呪いに筋肉がないってアピールすれば、呪いは解除できますよ」




 まさかの解除方法が分かった。




「じゃ、解除の仕方もわかったことだし、依頼人のためにも私達は帰りますか」




 私が立ち上がると、夏目も立ち上がり手を伸ばして私を止めた。




「その前にちょっと……」




「どうしたの?」





「例のダンベル持ってきてるんですよね」




「あ、返したほうが良いよね。ごめん、忘れてた」




 話を聞いていた楓ちゃんが、てダンベルをテーブルに置こうとする。しかし、




「返さなくて結構です。いえ、あなた達に持っていてもらいたい」




 夏目はそう言った後、テレビの方に行きビデオテープを取り出すと、それも私達に渡した。




「私にはこの呪いを消し去る力はありません。でも、この品を守る力もない。どうか、人に迷惑をかけないように保管してほしいんです」




「そういえば、なんでこのダンベルはジムにあったの? あなたが持って行った……わけじゃなさそうね」




「前に一度、家から出ていた時に空き巣に入られたんです。まぁ、私は幽霊になってたし、金目のものはなかったんだけど、そのダンベルが盗まれてしまったんです」




「ダンベルを盗むってその空き巣は何がしたかったのよ……」




 私が呆れていると夏目が真面目に答えた。




「ダンベルが目的の空き巣だったのかもしれません」




 私が首を傾げると、夏目は説明する。




「ダンベルを盗む泥棒なんていません。それに誰も住んでいない家に盗みに来る理由もない。きっと、呪いのダンベルだと分かった誰かが盗んでいったんです」




「それで心配だからダンベルとビデオを持ってってほしいと……分かった、安全なところに保管するよ」




 私が持っていても良いが、お兄様に渡せばもっと安全な場所を知っているかもしれない。




「あなたはここに残るのね」




「はい、また何かあったらここに来てください。お手伝いできることはします」




 私達は夏目と分かれて事務所に帰った。




 翌日、依頼人を呼び、呪いの解除方法を説明する。





「お、俺は…………まっ、まっ、…………」




「パイセン、頑張ってください!! 言わないと呪いが解けないですよ!!」




 なぜ、マッチョじゃないというのが嫌なのか。しかし、先輩は大きく息を吸うと、踏ん張って叫んだ。




「俺はマッチョじゃなーい!!」




 先輩が叫ぶと、先輩の身体が光、何かが消えていく。それを見て私の後ろで飛んでいたリエが解説する。




「これで呪いが解けたみたいですね」




「そうみたいね」




 私は依頼人に胸を張って伝える。




「これで呪いは解けました。もう大丈夫ですよ」




「やったーー!!!! やったぞーー!!!! 俺の筋肉達は生きられるんだ!!」




 筋トレしてるってことは、毎回死滅させて復活しているだけだが。




 二人のマッチョは抱き合う。




「よかったですね!! パイセン!!」




「ああ、良かった、良かったぞぉぉぉぉ!!」




 マッチョは筋肉が救われたことを喜び、涙を流した。




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