霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?

ピラフドリア

第1話 『霊能力者』

霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?




著者:ピラフドリア




第1話

『霊能力者』





「はぁぁ〜」




 やつれたサラリーマンはフラフラと階段を登りきり、ビルの三階へたどり着く。

 一番奥にある扉には、ボールペンで『霊に関する相談はこちら』と書かれた紙が貼り付けられている。




 その紙の前で大きくため息を吐くと、




「すみませ〜ん、あの〜誰かいますか〜?」




 声に反応し、こちらに駆け寄ってくる足音。




「……はーい」




 扉を開くと、奥の部屋からマグカップを持った女性が顔を出した。




「あ、お客さん?」




 透き通るような白髪の髪に藍色の目。体格はヒョロッと筋肉があるようには見えない。しかし、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。




 女性に見惚れていたサラリーマンは女性の声を聞き、我に帰った。




「……あの〜霊の相談ってできます?」




 サラリーマンは恐る恐る聞くと、女性は蹲り身体を震わせる。




「だ、大丈夫ですか!?」




 サラリーマンは心配して女性の元に駆け寄る。すると女性は勢いよく立ち上がり、サラリーマンの肩をがっちりと掴む。




 そして目を輝かせて




「依頼ですか!? 依頼ですよね!!」




 サラリーマンのことを思いっきり揺らす。痩せ細っているサラリーマンの身体は、ダルマのように激しく揺れた。




「は、はぃ〜、依頼ですぅ〜〜!?」




 女性はサラリーマンから手を離すと、ガッツポーズをして、歓喜の声を上げた。




「よっしゃ〜!! 久しぶりの依頼だーーーー!!!!」




 激しく喜ぶ女性。その様子を見ながらサラリーマンは、来る場所を間違えたと理解した。






  ⭐︎⭐︎⭐︎ ⭐︎⭐︎⭐︎ ⭐︎⭐︎⭐︎






 サラリーマンを奥にある客室に案内する。簡素なテーブルと茶菓子が置かれた客室だ。

 私はお茶をテーブルに置く。




「あ、どうも…………」




 サラリーマンは一礼してお茶を受け取った。

 私はサラリーマンの座る席とは向かいにある椅子に座り、早速本題を切り出した。




「それで花田 克巳さん……霊に取り憑かれているということですが、どういったことがあるのですか……?」




 依頼人は花田 克巳(はなだ かつま)。32歳。既婚者であり、小さな娘もいる。




「……はい、半年ほど前の話なのですが…………」





 そう言うと話を始めた。





  ⭐︎⭐︎⭐︎ ⭐︎⭐︎⭐︎ ⭐︎⭐︎⭐︎





 半年前、仕事の取引である廃墟のビルに行くことになったんです。




 そのビルを撤去して新たな工場を作るということで、撤去作業の状態を見に行ったんですけど、作業員の様子がおかしくて…………。




 そこの作業員は目の下には隈があり、痩せ細っていて、覇気のない感じでした。




 作業もなかなか進んでいないようだったんです。そこで問いただしたんですよ。

 このままでは納期に間に合わないぞっと。




 そしたら昼間なのに太陽が雲に隠れて、薄暗くなったなっと思ったら、作業員の人たちが一斉に睨んできたんですよ。




 そしてブツブツと呟くんです。




「許さない……許さないって…………」





  ⭐︎⭐︎⭐︎ ⭐︎⭐︎⭐︎ ⭐︎⭐︎⭐︎






 話を聞いた私の身体は震えていた。




「あの〜、ビビってます?」




「ビビってません」




「ビビってますよね。震えてますよ」




「む、武者震いです。続けてください……」




 サラリーマンは話を続ける。




「それから工事が続くにつれて、身体が重くなったり、上司が怪我したり、体重が増えたりしてるんです。これって取り憑かれてますよね!?」





 サラリーマンはテーブルに手をつくと、身を乗り出すようにして同意を求めてきた。




 私はお茶の入ったマグカップを持って立ち上がる。そして窓のほうへ向かうと、ブラインドを指で広げて外を見た。




「はい、それは取り憑かれてますよ」




 サラリーマンは身体を震わせる。




「ど、どうしたら良いんでしょうか……」




 心配そうに訊ねてくるサラリーマン。私は彼の方を向くと、




「お任せください。私がその霊を祓って差し上げましょう」




 勢いよく振り向き、マグカップに入っているお茶をグビっと飲み干した。




「……ごほぉごほぉ」




「大丈夫ですか……?」







 私はサラリーマンに手伝ってもらい、テーブルを部屋の端に寄せる。そして真ん中に椅子を置き、そこに座ってもらった。




「……これから除霊が始まるんですね」




 サラリーマンは緊張している様子。




「力を抜いてください。こういうのはリラックスが大事ですから」




「り、リラックス……ですか」




 サラリーマンは深呼吸をしようと口を大きく開けて、息を吸う。




 私はその隙を見逃さずに、サラリーマンの首にチョップを食らわせる。大きく息を吸い込んでいたサラリーマンは、首を押さえながら咽せた。




「はぁはぁ、何するんですか」




「除霊ですよ。除霊」




「首にチョップする除霊がどこにあるんですか!?」




 私は腕を組むと、真剣な眼差しでサラリーマンの目を見る。




「良いですか。霊はあなたの身体に住み着いているんです。ここが居心地が悪い、そう思わせることで霊はどっかに行くんですよ」




「本当なんですか!? 怪しいんですけど!?」




 抵抗するサラリーマン。だが、私はロッカーからロープを取り出すと、それで縛って動きを封じる。




 そして私はサラリーマンの頬を往復ビンタした。




「うおおおおぉぉぉ!!」




「いぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」




 室内にパチンパチンと鈍い音が響き、サラリーマンのカサカサの頬は赤く腫れ上がる。




「こ、これで本当に祓えるんですか!?」




「祓えますよ! ほら、次行きますよ!」








 それから除霊は三十分と続いて、ついに除霊が終了した。




「……どうですか? 除霊を終えた感想は?」




「めっちゃ痛いです…………」




 除霊が終わる頃にはサラリーマンの頬っぺたは真っ赤になっていた。

 私は真剣な顔でサラリーマンの目を見る。




「それが除霊です。決して暴力ではありません」




「……」




「……除霊は普通の人間には感じられません。米○玄師がノンフィクションを口パクして、それをラジオで聞いてるくらい感じられません」




「例えが分かりません」




「花粉症の人がスーパーの魚コーナーで生臭さを感じるかどうかのレベルです」




「それは人によると思います」




「つまりはそういうことです。人によります」




「だったら最初からそう言ってください!!」




 サラリーマンは肩を回してみる。




「でも、久しぶりに身体を動かしたからか、なんだか軽くなった気もします」




 それを聞いた私はサラリーマンに笑顔を向ける。




「では除霊は終わったので料金は……」




 私は電卓を取り出すと、数字を打ち込んでいく。そしてそこに表示された金額をサラリーマンに見せた。




「これくらいになります」




「…………ほ、本当にこれだけなんですか」




「はい! これだけです!」




 サラリーマンは財布を取り出すとそこからお金を取り出して、私に渡した。




「今日はありがとうございました。……次があったらもう少し優しい除霊でお願いします……」




「できる限り」




 支払いを終えたサラリーマンは帰っていった。







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