第16話



「という考えに基づき、貴方には開発初期のテスターという形で強制的に、私が作ったVRゲームに参加してもらったのだよ。」


カテジナがしたり顔で頷く。


徳島としては、厄介事に巻き込まれた感が強いので、口調はやや強

目に疑問に思ったことを問いただす。


「俺はスマートフォンでゲームをしていただけなのに、VRゲームに参加させることができるか?」


カテジナは、徳島の口調には言及せず答える。


「また貴方には後輩や部下達の愛読書からの知識で引っ張りだしてもらうので、申し訳ないが、転生者特典というもので、私にはあるスキル、貴方に合わせるとある技能が与えられていてね。」


カテジナはニヤリと笑ってさらに言葉を続ける。


「詳しくは言えないけど、ある条件を満たすと、他人や自分を仮想空間に入れることができるのさ。もちろん、それ以外にもできることがあるが、開示できるのはこれぐらいかな。」


返ってきた言葉だけでは、疑問は解消されてはいないので、徳島としては不満はあるが、囚われている現状ではどうしようもない。


カテジナの機嫌を損ねて、一生このままというわけにもいかないので、不満ではあるが、大人しく話を聞くことにする。


「私としては、貴方には仮想空間への参加以外に、危害を加えることはしたくない。」


徳島は一つ気になっていることを尋ねる。


「このゲーム内では、怪我や死亡状態になった時、現実の身体や精神にはどんな影響がでるのか聞きたい。他にも、ゲーム内では鎮痛剤や一時的に筋力を増加させる薬なんかもあるはずだ。薬物中毒とかの心配もある。」



「仮想空間内の怪我、死亡、薬物中毒などの状態は、現実の身体や精神には影響が出ないようにしているよ。これは貴方にだけではなく、今後、参加予定の人たちにも適用していていく。」


「さっきも言ったけど、私の最終的な目的は人を幸せにするためだからね。ゲーム内では幸せでも、現実では薬物中毒なんて、本人やその家族にとっては幸せにはならないだろう。」


「では、もう一つ質問を、なぜ俺が選ばれた?俺は貴方が作ったというスマートフォンのゲーム内で、そんなに勝率は良くないはずだ。」


「確かに、貴方のゲーム内勝率は63.5%だね。」


「高々63.5%の勝率しかないのに俺が選ばれた理由が知りたい。」


カテジナは徳島の疑問を聞いてさらに笑いを深める。


「私が貴方を選んだ理由はね。貴方のゲームスタイルだよ。貴方もFPSゲームをやっていると分かるだろう。最初はびくびくして怯えているプレイヤーでも、慣れていけば、皆、ゲーム内では死ぬことを恐れなくなる。貴方も何回もマッチングしただろう。全く装備を着けない愚か者と!」


カテジナは言葉と共に目の前にある机を叩く。


「ゲームとしては、他人を殺したり、出し抜いてアイテムを奪い、自分の物とする内容だ。ゲーム内の資金を稼ぐために、相手に奪われないよう何も装備を持っていかず、初期装備のナイフだけで戦闘に参加するのも一つの手段だろうね。」


カテジナは一旦、言葉を区切り、仮想空間の艦長室の天井を見上げる。


「ゲーム内とはいえ、自分の命を軽んじる奴は、どんな状況でも他人を助けないんだよ。貴方も知っていると思うけど、私が作ったゲームは、同じチームであれば、負傷した仲間を助けることができる。他にも、ゲーム内で死亡した場合、基本装備のナイフ以外の装備はロストするが、チームの仲間が、回収して持って帰った装備はロストせずに返却される。」


カテジナはそこで、ため息を一つついて言葉を続ける。


「だけど、命を軽んじる人間は助けない、回収しない。チームの仲間がやられたのを見たら尻尾を巻いて逃げる。そんな奴らはスマートフォンのゲームだけで十分だ。仮想空間内では逃げない、見捨てないという人間はどんな武器やアイテムよりも貴重だよ。」


カテジナは徳島を見つめてニヤリと笑う。



「その点、貴方は合格だよ。ゲーム内で内の仮初めの命って分かっているのに、負けると分かっていても、貴方は仲間を見捨てない。だから勝率は高くない。」


「しかし、貴方はただ甘いだけではない。貴重なアイテムが出やすいため、強力なNPCが守っていて、他のチームも周辺から集まりやすい。貧弱な装備を着けて、激戦区にタイミングも合わせず、一人で勝手に突っ込んだ輩が、助けろと喚くのは無視して、他の仲間を守り生還させたのを見た時は、私は感動したよ。」


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