第37話 ゲーム開始

 りりりりりんと、小さな女の子の声が一斉に響いた。戦闘開始までお待ちくださいという例のメッセージを受信する。


「じゃ、役割を振られたら、僕らの中で打ち明け合おう。そして、ジミィを勝たせる」


 順々に顔を見回す。誰もが力強く頷いてくれた。時計が進んでいく。息苦しいほどの沈黙の中、僕は探っていた。

 この共闘は――はっきりいって、賭だ。


 いつどこで、誰が裏切るか分からない。けれど、僕にはこの方法しかない。それに、考えがあった。いざと言うときは、考えが……。

 りりりりりんっと再び着信がなった。僕は自分の携帯を片手で操作し着信を止めた。両目は、ジミィに花蓮、そして都さんを観察することに使った。三日前の戦闘でジミィが使った顔色の変化を見るためである。


 ジミィが僕と同じようにこの手を使う可能性も考えたが、使った時点でジミィの共闘の意志に疑念があるということが分かるはずだ。

 しかし結局、彼はいたって普通に自分の画面を確認していた。しかし、表情はまったく変化しなかった。花蓮もだ。


 ただ都さんだけが、安堵のような表情を見せた。目の光が和らぎ、口角が少し持ち上がったような気がしたのだ。

 その表情から、僕は思考を働かせる。昨日、彼女は悪魔のチームだった。そして、雛乃に殺された。もしも再び悪魔だったとして、安堵の表情を果たして浮かべるだろうか? 役割的にも、人間であるほうがその表情を浮かべる事に納得できるような気がした。

 僕はポケットから黒い携帯電話を取り出して、自分あてのメッセージを確認した。


『今日の青鴉さんのチームは~でるるるるるるっ、じゃーん! 人間チーム\(^o^)/ クリア目指して頑張ってね?』

「僕は人間だ」


 すぐに皆に告げる。言いだしっぺから言わなければ、信頼など最初から得られるはずもないのである。


「俺は悪魔だ」

「……人間」


 意外なことに、ジミィと花蓮が僕の告白に続いてくれた。二人が打ち明けたからだろう、都もホッとした様子で、「わたくしは人間ですわ」と言った。


「ジミィは悪魔か……」

「ああ。そんでもって、ここに人間が三人だ。永遠音と雛乃、どちらかが悪魔でとちらかが人間ということになるな。……ついでに確認しておこうか。この場に、退魔師はいるか?」


 全員が首をふった。


「ふん。じゃあ、永遠音と雛乃どちらかが悪魔で、どちらかが退魔師ということになるな」

「うーん……」


 雛乃に、永遠音。

 どちらも取り組み難い相手である。その二人が両陣営のどちらかに属しているという状況は、あまり好ましいモノとは思えなかった。


「……どうすればいいでしょうか?」


 都さんが呟く。ジミィが、「とりあえず俺に殺されればいいんじゃないか? そうすれば、クリア確定だろ」と身もふたもないことをさらりと言った。


「いや、まて」


 その思考に、僕はストップをかける。

 不安に思ったのは、雛乃のことだった。確かに、今ここにいる三人がジミィの手にかかったとしたら、普通ならばその時点で悪魔二人人間一人の状態になり、悪魔の勝ちだろう。ただし、雛乃には前科が存在するのだ。


「……みるくが、どういう行動にでるか分からない」

「ん? ああ、あいつのこの間の行動か。しかし、さすがに懲りただろう」

「……分からない。あいつには、悪魔がとりついているから」


 あっとジミィが息を飲んだ。「非現実すぎて、その要素を忘れていたぞ」と呟く。


「……それなら、殺せばいい」


 断言したのは、花蓮だった。


「……みるくは殺す。悪魔同士で傷をつけちゃあいけないから、人間のみんなであの子を殺す。とにかく殺す。意地でも殺す。それで、……解決」

「そうだな。それで……あ」


 ジミィが黒い携帯電話をポケットから取り出した。そして、手元で操作する。


「ああ、みるくは人間だ。永遠音が悪魔と映っている」


 しばらくして、そう呟いた。


「あ。そうでしたわ。悪魔同士なら、誰が悪魔か分かるんでしたわ」

「人間なら、やっぱりみんなで殺そう。そして、俺と永遠音が生き残って、そうしたら俺はゲームクリアだ」


 僕達は誰ともなく頷いた。

 最後のゲームが、始まろうとしていた――。

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