直してあげるから

その日私は体調を崩して、夫を見送ったあと布団へ戻った。

仕事が始まるまでの数時間、目をつむるだけでいいから休もうと思っていた。


すると、寝室の開け放したドアの向こうに真っ黒な影がいた。


「お母さん、きたよ。入っていい?」


ドアは開いているのに、影は律儀にそう聞いた。


「いいよ。」


影は入ってくると、私の横に腰を掛けた。


風邪を引くと、いつも母は優しかった。

子どもの頃からよく体調を崩していた私は、風邪などそこまで苦ではなかった。

だから、母が優しくしてくれる風邪は嬉しいものだった。


「ねえ、一緒にお昼ご飯食べに行こうよ。ふたりで。」


母は優しい笑顔でそう言う。


「それで、ご飯食べたあとは一緒に帰ろう。」


どこへ?


疑問がわいたものの、私は深く考えられなかった。

そして母の手を取ろうとしたとき、見知らぬ声が聞こえた。


「直してあげるから、起きなさい。」


目が覚めると、私は部屋に1人だった。

ドアは開け放されたまま、影はすっかり消えていた。

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