第43話 国王の緊急クエスト

 ヨハイン国王のクエスト内容はこうだ。


 ギルドで囁かれていたように、『氷帝国アイスカントリー』という共和国が同盟国の『オクタール王国』を取り込み吸収しようと動いているらしい。

 当初は送られてきた使者を伝って勧誘による懐柔だったが、同盟国の国王が毅然として断るとネチネチと嫌がらせするようになったとか。

 特に最近では間者を送り込み、国民の不満を煽って内乱状態に発展させようと関与と陰謀が垣間見えているようだ。


 まるで借金の取り立て屋並みの陰湿さね。

 下手に武力で攻めてこないところがより質が悪いわ。


「目を付けられているのはオクタール王国だけではない。他の同盟国も同様の被害を受けつつある。まるで真綿で首を締めるかのように、このフォーリアを追い詰め陥落させようとする意図が見え見えだ。其方ら勇者は我が国に在籍こそしているが、最初に説明した通り、聖光国フォーリアを中心とした同盟国の支援を受けて召喚された者達である。つまり同盟国すべてを守護する役目を持っているということだ」


「つまり王様、俺らに『氷帝国』という連中と戦えってことっすか?」


 ハルデはチャライ口調でストレートに問い質した。


「ぶっちゃけ……いや正直に言えばそうだ。其方らで、あの『クサレ魔女』をブッ飛ばしてほしい」


「クサレ魔女?」


「――フレイアという魔女だ。『氷帝の魔女』と呼ばれるスカした小娘でもある。噂では其方らと同様の勇者でもあり、従者である眷属も相当な実力を秘めた猛者ばかりだと聞く」


 つまり他国の勇者ね。

 共和制の国だと聞いているから民達から選ばれた代表者ってところかしら?

 てか勇者が他国を侵略するとかってどうなの?


「けど、オイラ達だけで一国と戦えって横暴じゃないっすか?」


「そもそも俺達は魔王を斃すために召喚された勇者だろ? 人間同士の戦争となれば話は別だわい!」


「……特に僕達日本人は最も戦争を嫌う民度の高い種族です。そこに正義があるとは思えません」


 トックに続いてマーボとコウキも不満を訴えている。

 当然の反応ね、魔王軍やモンスター相手ならともかく、いくら相手が勇者だからって種族同士の争いに加担する筋合いはない。

 思いの外、まともな意見ばかりで少し見直したわ。


「俺もみんなと同じ意見っす。てか勇者関係ねーし、俺ぇレベリングあるんで他を当たってくれっすぅ」


 まるで「これからバイトあるんで」と言わんばかりに断る、チャラ系勇者ハルデ。


「うむ……ミオ殿はどう思う?」


 ヨハイン国王よ、何故私に話を振る?


「どうって……僕は陛下に勇者職を剥奪された、ただの冒険者です。本来、皆さんとこうして並ばされたこと自体不思議でなりません。いくら同盟国から多額の支援を受けて召喚された身とはいえ、そこはあくまでフォーリアと同盟国の都合。僕にはそこまでの責務がないのが正直な意見です」


 遠回しに「お前、なんか都合よくね?」と言ってやったわ。


「……うん、そうだよね。其方らからそればまさしくその通りだ。勇者に戦争、関係ないよね。何せ戦争を知らずにキミ達は召喚されたんだものね。けどさぁ考えてみてくれよぉ、フォーリアと同盟国を失ったらぁ、誰がキミ達の援助をしてくるんだぁ~い?」


 急にタメ口で諭してくる、ヨハイン国王。

 なんか無理矢理に距離間を詰めようとする馴れ馴れしい教師みたいでムカつくわ。


「あのぅ、さっきも説明した通り、僕は国の援助なくても立派に独立しているので関係ないと思いますが?」


「うん、ミオ殿はそうだね。何せ魔王を二体も斃しているんだもん。実績あるし凄くね? あとで褒美やるからな、ん?」


「はぁ、褒美は有難く頂戴致しますが……」


 なんだろう、常に上から目線で生理的にイラっとするわ。

 他の四バカ勇者達はもろ国の援助を受けて資金などやりくりしている事情からか、「まぁそう言われてしまえば……」と戸惑う様子を見せている。


「別に余は其方らにフレイアと殺し合えとは言っておらん。今の脅威が解消されればそれで良いのだ。話し合いによる交渉なら応じてやらんでもないが、掌握された他国の影響を見る限り難しいと思っておる」


「他国の影響?」


 私が聞き返すと、国王は真剣な口調に戻る。


「洗脳というべきだろうか。支配された国王達を含め皆がフレイアを支持し崇め妄信している。それ故に共和国にもかかわらず『氷帝国』は強国として知れ渡っているのだ。なんと恐ろしいカリスマ性を秘めた邪悪なる小娘よ」


 それで勇者なのに『魔女』と呼ばれているのね。


「ヨハイン陛下、つまりやり方は僕らに委ねると?」


「その通りだ、ミオ殿。さっき話した通り、同盟国とフォーリアの脅威が去ればそれで良い。フレイアに一泡吹かせるのも良し、いっそ暗殺するのも手だろう。いや是非にそうして欲しい」


 暗殺って……国王が公の場で勇者に推していい話じゃないわ。

 けどクエスト達成条件の自由度が高いのは幸いね。


 そしてヨハイン国王は、私を見据えながら「それとだ」と切り出してきた。


「――ミオ殿よ。クエストを引き受けた暁には、勇者の剥奪を取り消そう」


 なんですって?

 私が首を傾げると当時に、しれっと沈黙していたセラニアが急に前に乗り出してきた。


「陛下! このような者を再び勇者に復帰させるなど、わたくしは断固反対です! 女神アイリスとてそう言っております!」


(そうなのアイリス? あんたしばくわよ)


『はわわわ! わ、わたしがそんな恐ろしいこと言うわけないじゃないですかぁ!! 美桜さん敵に回したら、女神としてオワコンですぅぅぅ!!!』


 もう別の意味でオワコンしているじゃない。

 どうでもいいわ。


「しかしセラニア教皇。気持ちはわかるが、ミオ殿には覆せない実績がある。最近では素行を改め民からも評判も良い……それにクレアもそうするべきだと余に進言してくるのだ」


「当然です。本来、勇者達にこのような任務を与えようとする自体、本末転倒なのです。普通に兵士達にやらせれば良いではありません? ましてや今のミオ様は一般人なのです。こちらの我儘を引き受けて下さるには相応の対価を用意するのが妥当でしょ?」


 流石、クレア王女は聡明ね。まったくもってその通りだわ。

 やっぱ、彼女が国王やるべきね。


「……だって、勇者達にはユニークスキルがあるもん。下手な連中に頼むより、遥かに手っ取り早いもん」


 唇尖らせて「だもん」って言っても無駄よ、ヨハン国王。

 あんたみたいな髭親父、ちっとも萌えないわ。


「話を聞く限り、ミオには特典ありそうだけどよぉ。俺らにはなくね?」


「うむ。確かにその通りだ、勇者ハルデよ。無論、報酬金は出すつもりだが、それ以外の望みがあれば述べてみるがよい」


「ガチっすか? んじゃ国の総力を上げて、ミコちゃんとカホちゃんを探してほしーんだけどぉ! たまにギルドで出没するみたいだけど、俺ぇ全然会えなくてブルーなんすわゎ!」


 人を珍獣みたいに言わないでよね。

 あえてあんたと会うのを避けているのよ、面倒くさいから。


「だったらオイラ、暗殺スキルをコンプしたいっす! いや別に誰かを暗殺してやろうなんて思ってないっすよ……《フェイクフェイス》に応用する目的っすからね!」


 何、きょどってんのよ、トック。

 あんたまさかガチでハルデを暗殺するつもりじゃないでしょうね?


「俺はトレーニング施設を建設してほしい! 眷属だけでなく、騎士や兵士達もみっちり鍛えてやるわい!」


「……僕は現状に満足なので特には。ただしミオ君が引き受けてくれることが条件です。ここ数ヶ月で僕達がレベルアップできたのも彼が助言してくれたおかげですから」


 コウキが言うと、他の勇者と国王を含む全員が期待を込めた眼差しで見据えてきた。

 セラニアだけは顔を悔しそうに顰めている。


 まぁこの痴女教皇に一杯食わせられれば、それも有りね。

 勇者職も取り戻せるようだし……。

 

「――わかりました。僕もお引き受け致しましょう」

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