第29話 魔王タチャVS勇者達
ハルデに煽られ、魔王タチャはブチギレた。
浮遊していた体がさらに上昇させ、物凄い勢いで襲い掛かってくる。
アイリスの説明では、上級の『風属性魔法』を施し自分の体を浮かしているようだ。
「食らうがいい――《悪魔の爪》ッ!」
「フン、上等――《
マーボは臆することなく前進しユニークスキルを発動した。
肉体が肥大化され、戦斧を掲げて防いだ。
魔王タチャの攻撃力:695だが《悪魔の爪》スキル効果で+100補正される。
合計して795の圧倒する攻撃力を放っていた。
だが先の戦闘でマーボはレベル9となっており、《肉体構築強化(ビルドアップ)》効果で防御力が+450補正でバフ効果を得ている。
さらに技能スキル《忍耐力Lv.10》を習得しており、その効力で+100と補正されつつ装備の効果で+250の付与補正が追加された状態だ。
辛うじてだが一桁台のレベルでも、アビリティ上なんとか防ぎ切ることができる範囲だった。
「うぐぬぅ! しょぼいレベルの癖に流石は勇者ッ! 思いの外、やるではないか、ええ!?」
「貴様もなぁ、魔王ッ! だが次は俺の攻撃ターンだ、覚悟しろ!」
「フン、勘違いするなよ。こんなのはまだ小手調べの序の口だ――《闇の波動》ッ!」
魔王タチャの全身から闇の瘴気が溢れだし、マーボを包み込んだ。
「な、なんじゃ、こりゃ!?」
「ククク、これで貴様の攻撃力と防御力が-90減少した。さらに吾輩の《攻撃力半減》と《傲慢》スキルが発動することで、吾輩への攻撃は半減されヒットする確率も大幅に減少したぞ!」
魔王タチャが豪語する中、マーボは「そんなもので俺の筋肉が遅れを取るものか!」と果敢に戦斧を振るうも思いっきり空ぶっている。
そして密かに《悪魔爪》効果で敏捷力-100減少されたこともあり、先程のような動きに勢いとキレがなくなっていた。
バフとデバフの効果を巧みに扱う、これが魔王タチャの戦い方のようね。
上級魔法も使えるようだけど、きっとソロが故に詠唱時のタイムロスと自身のユニークスキルがMPを消費するタイプだから控えているんだわ。
「クソッ! あ、当たらん!」
「さぁ死ねぇい、勇者よ!」
不味いわ。
このままではマーボが殺られてしまう。
ぶっちゃけどうでもいい男だけど、セブンローズっていう魔王とかなんか強そうなのもいるようだし、まだ頑張ってもらわないと困るわ。
「ハルデ様、スキルでマーボ様の援護を! コウキ様は罠の設置を試みてください!」
「えっ、ミコちゃん? わ、わかったよ――《
「……た、確かにやばそうだ――《
私の指示に、ハルデとコウキは戸惑いながらもユニークスキルを発動させた。
が、
「あれ? なんでマーボは強化されねぇんだ? ああ、さてはテメェ、俺のこと信頼してねーな! コラァ!」
「じゃかましい! チャラ男が、貴様とて俺のこと信頼してないだろうがぁぁぁ!!!」
ちょい、何これ?
私と香帆以外、誰もアビリティの上昇が見られないんだけど……。
ハルデの《
要するに、どの勇者も互いを信頼してないって証拠ね。
無論、マーボだけじゃない。
偽りの腰巾着男トック、陽キャ嫌いのコウキも同じってわけだ。
「クソォッ! マーボとコウキはまだわかるとして、トックゥ! まさかテメェも俺のこと信頼してねぇとはなぁ! ああ!?」
「ちがうよ、ハルデくん! これは魔王の罠だぁ! 信じてくれよぉ(お互い様だろーがボケが! 誰がテメェなんぞ信頼すっか! 身の程を知れよ糞野郎ッ!)!」
「……今更、何言ってんだ? 僕は最初からお前のような奴が大嫌いだと言っているだろ? トラップ設置完了」
コウキが設置した罠が発動する。
魔王の真下に魔法陣が出現し、そこから複数の鎖が出現して体を縛り拘束した。
「フン! この程度の鎖なぞ造作もない!」
絹糸の如くあっさりと鎖を引き千切る、魔王タチャ。
レベル差もあるがコウキの即席トラップは効力が低いという弱点がある。
したがって正面での戦闘向きではないようだ。
けど、おかげで少しは時間を稼げたわ。
【聖光を宿し鮮烈の輝きを解き放て――《
私は予め詠唱していた光属性魔法を魔王に向けて放った。
「ぬぐぅ! め、目がぁ……」
「――《タイマー》!」
石畳の床に剣を突き刺し、スキル効果を連動させる。
四バカ勇者の頭部に半透明のダイアルが浮上し、40秒の時間を奪った。
「香帆ッ!」
「あいよぉ!」
香帆は既にマーボの背後に回っている。
その姿は
彼女は両手で掲げた大鎌の『クレセントサイズ』の曲刃から反対側の部分をマーボに向けて振り下ろす。
そしてマーボは風船の如く吹き飛ばされ、石積の壁に激しく衝突する。
いくら大柄なマッチョだろうと、香帆はアビリティが5倍も上昇した状態なので当然だろう。
けどおかげで魔王タチャから引き離すことに成功したわ。
てかマーボ、死んでないわよね?
「クソォッ、アサシンだと!? なんだ貴様はいつから居た!?」
魔王タチャはすぐに視界を取り戻したようで、香帆に向けて叫んでいる。
レベル1の魔法だから効力が解けやすいのは仕方ないわ。
ちなみに彼女はマントのフードを被り鼻と口をマスクで覆っているから、魔王に素顔はバレてないようね。
香帆は残像を描きながら圧倒する速さでその場から離れると、いつの間にか私の背後に立っていた。
こんな芸当ができるのも、ハルデのスキル効果が継続されているからね。
奴もレベル9だから持続効果は7分30秒と長くなっている筈だわ。
「そして《タイマー》効果は残り35秒。それだけあれば余裕ね――」
私は片腕を頭上に掲げると《アイテムボックス》の魔法陣が出現する。
瞬時に『勇者ミオ』の姿となった。
ちなみに《
「なんだ貴様は!? 吾輩のツボである、スタイル抜群の知的眼鏡美少女だとばかり思ってたのに実は男だとぉ!? 吾輩を騙したなぁぁぁ、コンチクショウゥゥゥゥ!!!」
何故かやたら悔しがる、魔王タチャ。
あんたのツボなんて知ったこっちゃないわ。
まぁ、こいつにどう思われようと関係ないわね。
「――僕は勇者ミオ! 魔王タチャ、お前に怨みはないが覚悟しろ!」
まずはこいつをブッ斃して、私が現実世界に戻るための第一歩よ!
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