第四章 Re.枝垂れ桜の庭で

死に戻り

塔子は困惑した。



今日が何日かは分からないが、五つ紋の羽織袴を着ている紅丸が我が家に向かっているのは出逢いの日に違いない。この後私は攫われる。



(まず白いワンピースをやめよう)


塔子は紺色のワンピースのワンピースに着替える。


(白いワンピースが花嫁みたいで、テンションが上がったって紅丸が言ってた。なにが変わるかは分からないけど)


着替えている最中にドアのベルが鳴る。急いで着替えをすませ、階段を早足で駆け降りる。急いで玄関の鍵を回す。引き戸を開くと、見知った紅丸がいた。


頬は艶やかで、栗色の瞳が輝いている。最後に見たこけた頬で悲しげな目をした紅丸とは違う。この紅丸は吹雪に仲間を殺されてはいない。天真爛漫で人懐っこい笑顔が懐かしい。思わず目頭が熱くなる。


引き戸と同じくらいの位置の頭をさげ、背を折り曲げて、紅丸は塔子の顔を覗きこんできた。


「思ったよりちっこいなあ。こんな子供を借金のカタに貰うんはちょっと気が引けるんやけど」


泣かないように塔子は気合いを入れる。


「まだ、生理も来てない子供ですけど。何かご用事がありますか」


「そうなん?紫苑のやつ、話と違うやんけ。お嬢ちゃんが塔子ちゃんよな?」


紅丸はバツが悪そうに頭をかいた。


「はい!私が塔子です。これから出掛けるので通してもらっていいですか」


「さよか。ちょっと手違いがあったみたいやし。まあ、たんと食べてはよ大きくなってや、いつか迎えに来るさかい」


紅丸はあっさりと帰っていった。


(やっぱり子作りが出来なかったら、興味がないんじゃん)


少し悲しく思いながらも、塔子は紅丸の背中を見送る。14歳に戻る前の塔子を誰よりも沢山愛してくれた大好きな紅丸の背中だ。追いかけて抱きつきたい衝動を抑える。


紅丸を愛しているから、今世は紅丸に近づかないと決心をしている。


(紅丸は雨汰ときっと楽しく過ごすはずだ。私さえいなければ雲ヶ畑の天狗が皆殺しにされることはない)


塔子は10年近く前の記憶の糸を辿りながら、これからどうすべきか考えていた。紅丸が迎えにきたということは、吹雪とは既に出逢っている。あの庭で。


(本当ならマンションに拉致された私を吹雪が迎えに来るんだっけ)


しかし紅丸はマンションに塔子を連れ去る事なく帰っていったため、今塔子は自由だった。


(多分窓口に招待券があるはず…前回は無駄にしてしまったけど)


塔子は歌舞練場へと向かう。懐かしさに涙が出そうになりながら、チケットを受け取り、お茶席に進む。とらや

の薯蕷饅頭を食べてお薄をいただいてから、中庭へ降りた。


枝垂れ桜は見事だった。


「また会えたね」


そこには優しく微笑みかけてくる吹雪がいた。

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