第4話 熱い意志

「飛逹くぅーん!!」

「んー?」

「いっしょにバレーしよー!」

「良いよー、しよっか」

「はぁぁぁあ!?飛逹は俺らと一緒にサッカーすんだよ!!!」

「あはは…」

 またこれだ…。私の取り合い…。未だに対処の仕方に困っている。どうしたものか。最初の方は先生も仲裁に取り組んでいたのだがもう今は放置だ。まぁ…忙しいですよねぇ…。

「ごめん、昨日はサッカーしたから今日はバレーしよっかな」

「ほぉーら、行こ!!!」

「ったくぅー!!明日…は飛逹休みだからー、明後日は絶対にサッカーだからな!!」

「うん!」

平和的解決。…疲れるなぁ…。昔とはまた子供の感じが変わってるんだな。当たり前なのかもしれないが。

「よいしょっ」

「あはっ、おじいちゃんみたい!」

「誰が年寄りだ」

「あははっ!って、あっ!!」

ボールが彼方遠くまで飛んでいった。

「大丈夫、取ってくる!」

私はボールが飛んでいったところまで走った。

「あれ、どこ行った…?」

 ややこしい所に飛んだので仕方ないが…。この学校には「自然ゾーン」というものがある。低木や花壇など、さまざまな自然が揃っている所だ。そしてボールはそこに落ちた。構造上奥のところに行くのはやや難解なのでややこしいのだ。

「…」

「?」

あれ、さっきこの子いたかな。その子は花壇をじっと、見つめて三角座りをしていた。白い帽子を被り、メガネをかけ、そして腰まである長い、綺麗な白い髪。

「あのさ、ボール、ここら辺に飛んできたはずなんだけど…知らない?」

私が話しかけるとゆっくりと顔を上げた。

「…」

そして、その子はゆっくりと右腕を上げ、右を指した。

「そっちに転がったの?」

「…」

その子は頷いた。

「ありがとー!!」

というか…この子も一緒にどうせなら遊ぶか?我ながら名案であると感じた。

「あのさ、せっかくだし一緒に遊ぼうよ!名前、教えて?」

「……」

暫く口を噤み、目線を左右に交差させた。

「しろかわ とうな」

…印象にあった、ピッタリな名前だ。

「漢字どうやって書くの!?」

「漢字?」

「えっと…あのー、難しい字!」

「…こんな…感じ…かな」

地面には白加波 冬那、そう書かれていた。

「うわ、ピッタリな名前だね!!!綺麗!!!」

「え?」

「髪も綺麗だもんね、目は真っ青で!うわぁ、初めて見たー!綺麗!」

 本当に綺麗だと思った。欧州にいた時は、比較的白髪は多かったが、こんなにも綺麗なのは初めてだ。そしてこの真っ青な目。長い年月の中で、ここまで綺麗な、常世なのは初めてである。

「変なの…」

「何で?」

「みんな…怖いっていうから」

「へー、そんなの別に気にしなくて良いと思うけどなぁ…」

「飛逹君は強いね」

「そう?ありがとう。ってあれ、名前あったっけ」

「有名人だから知ってる。みんな噂してるし…私のクラスの大半があなたのクラスに行ってるから…それくらいは。天才子役なんでしょ」

「え、俺天才子役なの?」

「え?」

「そうかなあ…もっとすごい人いっぱいいるけどなぁ…」

「天才でしょ…そりゃあ、努力はしてると思うけど」

「してない」

「そう…ふふ、なぁんか、飛逹君のイメージ、変わってきたかも」

冬那ちゃんが、初めて笑った。

「そりゃそうでしょ…みんな俺が真面目だと思ってるし。本当はゲームいっぱいしたいなぁ…やったことないんだよね」

「あ、同じ!」

冬那ちゃんはこちらに身を乗り出してきて叫んだ。思わず肩を窄めてしまう。

「あ、ごめんなさい…」

「あは、気にしないで!んで、何でゲームやらないの?」

「…目が悪いから…」

「え?」

「生まれつき視力が悪かったからさ…現状維持のために」

「へー、大変だなぁ。そうだ、同盟だ!」

「え?」

「良いじゃん!ゲームやってない同盟組もうよ!」

私がそう言うと冬那ちゃんが眉を顰めた。

「なにそれ」

「んーだから仲間?」

「仲間…?」

「そ、ゲームをやってない、っていうね」

冬那ちゃんが目を大きく開いた。

「そんなこと…言われたの初めて…」

「お近づきの印ということで…図書室でも行こっか」

「で、でも…お友達は??」

「あ、そうだ…ちょっと待ってて、行ってくる!!」

完全に忘れてた…。冬那ちゃんのインパクトが強すぎて。まぁ…私一応100歳越えのおじいちゃんだから…。最近若者言葉を使ってくるようになってしまったけれども。

「ご、ごめん!!遅くなって!!」

「大丈夫だよー!!」

「それでさぁ…ちょっとだけ怪我しちゃったから絆創膏貼ってくる!」

「だ、大丈夫!?」

「大丈夫ー!!」

そう言って私は下足室へ向かった。

「冬那ちゃん、お待たせー!」

「大丈夫…」

「行こっか」

私たちはそう言って図書室へ向かった。

「冬那ちゃんって、何か趣味無いの?」

「歌を…歌うこと、かな」

「えー!すご!俺、すっごい音痴なんだよね…」

「練習したらどうにかなるよ…」

「歌手とか駄目なの?」

「へ?」

冬那ちゃんが目を見開いた。

「あ、いや、ごめん。冬那ちゃん歌上手いんだったら歌手とかダメかなぁ…って」

「歌手…」

「別に気にしなくていいからぁ、本当に!」

「…」

冬那ちゃんが俯いて、足を止めた。どうしたのだろうか。

「冬那ちゃん?」

「飛逹君」

「なぁに?」

「もし…歌手になったら…飛逹君と一緒の土俵に立てる?」

「へ?」

「飛逹君が出てるドラマとかの主題歌とか、歌える?」

冬那ちゃんが、強い意志に燃えていることを感じた。戦場でよく見た感じになることを。

「…正直、歌手って難しいと思うけど…冬那ちゃんが頑張るなら、俺は精一杯応援する!」

冬那ちゃんが俺の手を握った。

「約束して?…私が歌手になって、飛逹君の出るドラマの主題歌を担当するまで、一緒に居て?」

「!!」

執着。そう思った。だけど…昔、俺が感じていた、最強に対する執着とは違った。そう、こっちも燃えてくる感じの執着であった。

「良いよ…一緒に居てあげる」

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