第74話

 道の駅の直売所に桜音おとちゃんと来ていた。野菜が無くなったから、電話がかかってきて、追加で持ってきた。夏になり、観光客も増えて、よく売れている。


栗栖くるす農園さんの野菜はいつも好評なんだよ。持ってきてくれて、助かるよ」


 いつもレジを打ってるおばちゃんがニコニコしながら話しかけてきた。ちょうどお昼だからお客も少なめのようだった。


「そう言ってもらえると、嬉しいです」


 桜音ちゃんはきれいに見えるかな?と丁寧に並べていってくれてる。いつも新しい仕事をする時は大丈夫かな?と慎重でドキドキしてるのが表情に出ていて、とても愛おしくなってしまう。


「その子、なんだい?初めてみたけど……もしかして!?」


 ニヤリとおばちゃんが笑った。


「彼女かい!?」


「そうです」


 即答した僕にアッハハッ!やっぱり!と笑うおばちゃん。桜音ちゃんはというとペコッとおばちゃんに会釈して上げた顔は……とても赤い。え!?いまだに照れるの!?……彼女呼びはいつ慣れるんだろうか?


「ずいぶん若いけど?」


「高校三年なので……」


 控えめに桜音ちゃんは言った。おばちゃんは目を丸くする。そしてガッツポーズ!?


千陽ちはるくん!逃したらだめだからね!頑張りなさいよ!」


 僕が応援されてしまった。そんな反応なのか?もっと驚かれて、非常識とか思われるかと思った。それが顔に出ていたらしく、おばちゃんがなぜか桜音ちゃんの方に向かって言う。


「千陽くんはね……とっても良い子でさ、去年、吉田さんが熱中症で畑で具合い悪くなったのをみつけて病院連れてってくれたり、雪の日に車のタイヤがはまっていたのを掘り起こして、一緒に後ろから押してくれたりさ、三井さんとこの子が雨降ってて傘が無いときに自分のを貸してくれたりさ……それにさ……」


「おばちゃん!いいから!」


 僕は慌てて止めた。これは良い子というよりもお人好しすぎる話……。


 桜音ちゃんはクスクス笑った。


「わかります。私もそうやって助けてもらったんです。千陽さんの良さ、わかります」


「わかるかい!?」


 そうおばちゃんは嬉しそうに桜音ちゃんに言う。僕はさっさと帰ろうと手早く野菜を並べた。恥ずかしすぎる!これ以上からかわれる前に帰ろう!


 桜音ちゃんは興味津々で他の人が作ってる野菜を見ている。白ナス、米ナス、水ナス……茄子コーナーを回って、次はカボチャコーナー。


「これ、面白い形のカボチャですね!?ひょうたんみたい」

 

「それはバターナッツかぼちゃっていって、カボチャのポタージュにすると美味しいよ。一個買っていく?作るよ。そこのコリンキーっていうかぼちゃはしゃきっとしたサラダになるよ」


「栗栖農園では作ってないんですか?」


「うちの主力はネギとなすとキュウリとトマトとかなんだー。かぼちゃは普通のえびすかぼちゃとか栗かぼちゃとかかな。けっこう作る人によっては特色あるかもね。葉物とか、イモ類とか……後、新太の家は魚や干物を出してる」


 ポタージュ作ってみようかとバターナッツかぼちゃを買う。桜音ちゃんはすごく楽しみです!とワクワクしている。カボチャ1つにここまで喜んでくれるとは……。

 

 帰り道、車に乗りながら、海まで続く農道のじゃり道に青田が左右前後に広がる景色を見る。海の波のようにユラユラ風に揺れる。餌を取りに来た白鷺か白い点々となって模様のように見える。遠くに松林と海。


 田んぼの中の線路に青い電車が走ってゆく。草原の中を走っているように見える。


 景色を眺めて、静かだった桜音ちゃんが急に口を開く。


「そういえば……トマトの脇芽、順調に育ってます。あんなにトマトの生命力が強いなんて知らなくって、びっくりです」


「そっかー。収穫できるといいね。実がなってきたら網をしておかないとカラスが食べるから、注意だね。いらない防鳥ネットが家にあるから持ってくといいよ」


 ハイ……と言って、またしばらく間があり、桜音ちゃんは何か言いたいことがあるようで、思い切ったように、運転する僕の方をパッと見た。なんだろう?予想つかない。


「あのっ……千陽さん、さっき、彼女かって聞かれて、すぐに答えてくれて嬉しかったです!私、子供っぽいし、まだまだ彼女に相応しくないかもしれないって思ってて……でも……」


 赤信号。車を安全に停める。


「僕は桜音ちゃんのことは子どもって思ってないよ」


 え?と黒い目が揺れる。僕は青信号に早くなれ!と思った。目を見ていたら我慢してる気持ちが溢れそうで怖かった。


「……花火大会一緒に行く?」


 ごまかした。僕はスッと違う話題に変えた。ちょうど青信号。視線を前に戻す。


「千陽さんと行きたいです!ほんとは去年も一緒に見たいなって思っていたんです」


 いちいち可愛いことを言うなぁと思いつつも僕は余裕ある大人ぶって、顔色を変えずに、じゃあ、今年は一緒に見よう。


 ……と、言う。うまく顔に出さずに言うことができた気がする。



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