1-02 帰宅
パーティーも終盤に差し掛かった頃。
ミサから帰宅するという話を聞き、俺は彼女と二人地下駐車場に準備されていた
車両に乗り込む。
「あなたが運転するんじゃないの?」
「いえ、違います」
運転席ではなく、彼女と同じく後部座席へと乗り込んだ俺に対し彼女は
疑問を口にする。
すると俺は徐に腰から端末を取り出し後部座席に設置された有線に繋げる。
「トクサ、準備はいいか」
『問題なし』
俺の問いかけに透明化したイヤホンから声が発せられる。
「それは?」
「バイザー。所謂補助AIです」
「へぇー」
AIと聞き興味が出たのか、彼女は俺の手元にあるバイザーの端末を
まじまじと見つめる。
「トクサ、エンジンを掛けろ」
その声に応じ自動で車両のエンジンが起動する。
「凄い……」
その様子にポロリとミサが口を滑らす。
が、すぐにハッとした表情になり視線を逸らす。
「このまま指定された屋敷に向かいますが構いませんか?」
「ええ」
「では――――」
っと俺は自身のバイザーである『トクサ』に指示を出し車両を発進させる。
そうして車は地下駐車場を出て車道へ移動し、しばらくして高速へと
差し掛かる。
ミサはというとその間ずっと、チラチラと自動で操作されるハンドルに
視線を向けていた。
「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど」
「はい?」
唐突に始まる会話。
彼女は窓枠に手を置きつつこちらに鋭い視線を向ける。
「今この車を運転しているのって、そのAIがしてるの?」
「そうですが」
「どうして車に備え付けられている自動運転を使わないの?」
「それは単純にこちらの方が安全だからです」
「――――? どういうこと?」
その問いに俺は一瞬、答えるべきかを逡巡する。
が、見せてしまっている以上隠し事は出来ないと判断し回答する。
「このAI、バイザーシステムというものなんですが、これは警護官に対する
補助機能が搭載されています」
「補助機能?」
「はい。例えば任務中でのサイバー対策や周辺状況の確認、通信のサポートなど」
「その中に運転機能も含まれているの?」
「そういうことです」
「まさか。そんな凄いAIの話なんて聞いたことがないわ」
「当然です。これは特警局の中でも一部の者しか使用できない国家機密の
一種ですから」
「――――!」
ミサはその答えに驚き、瞠目する。
「――――噂には聞いていたけれど、まさか実在していたとはね……」
と、彼女はシートベルトをしながらこちらへと身体を傾ける。
「そういえばさっき、トクサって言ってなかったかしら?
もしかしてそれがこのAIの名前? あなたが付けたの?」
「…………そうですが」
「へぇ」
再び彼女の視線がバイザーに注がれる。
「ねぇ、私もバイザーに話しかけてもいいかしら?」
「え?」
予想外の提案にこちらの反応が送れる。
「なに、ダメなの?」
「あ、いえ。少々お待ちを」
俺はバイザーの音声出力の設定を操作し、スピーカーへと変更する。
そして――――
「聞こえていたかトクサ」
『はい。初めまして久世ミサ様。わたくし諏訪透次専属バイザー、トクサです」
「わっ!」
トクサの挨拶にミサは初々しい声を上げる。
今の時代、話の成立するAIなどそう珍しくはないはずなのだが、
彼女はまるでおもちゃを見つめる子供ようなキラキラとした目を光らせる。
「あの――――バイザーシステムってどういう理屈なんですか?」
『まず特警局本部にあるマザーコンピューターにより、対象警護官の思想を
トレース。そこから所有者に合わせた最善の補助プログラムが組み込まれ、
分離AIとして形成されるのがバイザーシステムです』
「(…………)」
ミサの容赦のない質問に、トクサは何の躊躇もなく返答する。
「……おい、それって一警護対象者に伝えてもいいものなのかよ」
『既に存在が知られた以上は致し方ないと判断しました』
「――――マジか」
まぁ、とはいえトクサおかげ少しはミサへの接し方の糸口が見えた気もするし、
良しとするか。
そうして質問大会もそこそこに、
俺たちは無事に久世ミサの住む屋敷へと到着した。
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