彼女と彼のはじまり
憧れや畏れ。
ヒーローや魔法少女、妖怪や悪魔。
あんな風になれたらと思う人達の願いを叶えるため、か。
「どうやって創ったのか、というのは、今説明した通りか…」
「そうだね、詳しいことは説明しても多分理解できないと思うから省いたけど、単純に今この世界にあるあらゆる技術と物質を使って創ったと理解してくれればいいよ」
「わかった、それでそれを創って願いを叶えて、それでどうするつもりなんだ?」
「ん?ああ、
「…ならその大目的っていうのは?」
「世界平和」
「…なんて?」
「世界平和」
「世界平和?」
「うん、大雑把に言うとそうなるよ」
聞き間違えじゃなかったようだ。
世界平和の手段として人を作り変える
「悪いが、どういう理屈で繋がっているのか教えてくれないか?」
「
「ああ、想像することはできるんだが、コルトの考えは実際に本人から聞いた方がいいと思ってな」
「そうだね…秋は平和っていうのはどんなものだと捉えてる?」
「…一概にこれが平和だ、と言えないな。人によって価値観は違う。育つ環境が違えば、それだけ違う平和の意味が生まれるからだ」
「…うん、それじゃ秋の価値観での平和っていうのはどんなものだい?」
「理不尽に大切なものを奪われることがなく、子供達が将来の夢を笑って語り、その未来を迎えることができる世の中だ」
「………」
少し呆けたような顔をしたコルトを見たのははじめてだ。
自分で言っててなんだが、ふわっとしすぎてるとは思う。
それがどんな形なのか、ということが説明できていない。
「具体的にどういうものか、という表現はできなくてすまん」
「いや、良いと思うよ。うん、わかりやすい」
「そうか、なら良かったよ」
置いてあった飲み物に口をつけて一息つくと、コルトが話し始める。
「僕はね、この世界に存在するいろんな技術や知識や力を手に入れるためにあらゆるところを転々としてきたんだ。科学、魔法、宇宙、異世界、あらゆるものがこの世界に在るよね。どうしてなんだろう?」
その言葉には答えず、コルトの言葉の続きを聞いていく。
「昔のこの世界にはここまでいろんなものは存在していなかった。科学技術も今ほどじゃなかったし、魔法なんてものも物語の中だけのものだった。宇宙人や異世界だってそうだった。でも、今は現実に存在している」
それが今の当たり前のことだ。
「そのおかげで発展したものもたくさんあるのは確かだね。そして、それに比例するように理不尽の規模が桁違いのものになった。それまでも地震や病気みたいなものはあったけどさ」
無言でその言葉の続きを聞き続ける。
「物語の中の存在が現実に存在することになった。それは起きてしまった以上不可逆のものだよ。その中で僕は思ってしまったんだ。ヒーロー、魔法少女、宇宙人、異世界からの来訪者…どうしてこんなにジャンル違いが共存しているんだ?ってね」
…なんて?
「違いすぎる存在が同じ世界に存在する。それは無理があるはずなんだ。それでも、現実として存在している。さらにそれぞれの力や技術で協力しあうこともできている。元々は違う世界や次元から来ている存在なはずなのに。平行世界という考え方もあるかもしれないけど、いくらなんでも集まりすぎている。」
…。
「ここから先は僕の妄想でしかないのだけれど、あらゆる力や技術や知識が集まっているこの世界は神とでも呼ぶべき存在が意図して作った箱庭のようなものなんじゃないだろうか?もしかしたら実験場のようなものなのかもしれない」
「…なにが言いたいんだ?」
コルトの話がぶっ飛びはじめた気がしたので、結論を聞きたくなってしまった。
「僕はね、このあらゆるものが存在する世界で平和を作りたいんだ」
「…すまない、聞いておいて悪いが、流れがわからない」
「うん、そういう神とでも呼ぶべき存在がいるのだとしても、僕達の生きるこの世界はここだ。その存在がいたとして、なにがしたいのかはわからないけれど、理不尽に泣く人達がいるのは確かだし、僕はそれが嫌なんだよ」
「でもね、力や知識や技術がないと想いだけじゃなにもできない。だから、僕はどんな手段を使ってでもこの世界に秩序を創る」
「今が無秩序だとは言わないよ?それでも足りないものが多すぎるのは間違いない。それにこれまでにできたもののおかげで、起きている問題もたくさんある。簡単なことじゃないし、荒唐無稽な夢物語でしかないのかもしれない。僕にも足りないものはまだまだたくさんあるし、その準備段階で躓いているのが現状だ」
「それでもね、それが諦める理由にはならないんだ。悪と呼ばれるようなことを僕自身してきたし、これからも続けるよ」
「いろんな人達が犠牲になるのも間違いないし、その中には僕の仲間もいるんだろうね。でも、たとえどんな犠牲を払ってでも僕はやる」
「誰もやろうとしないから」
確かに荒唐無稽な夢物語なのかもしれない。
それでも、その言葉には納得させるだけの理屈と確かな意思がある。
人によっては屁理屈のように聞こえるのかもしれないが、共感できるものがそこにはあった。
「…なんで俺にそんなこと話すんだ?」
「話してて気が合うかなって思ってさ。ねえ、秋、僕の仲間になってよ」
「…いろいろアフターケアしてくれるのは、そのためか?」
「いや、それとこれは別の話だよ。僕の創ったものでこれまでの秋の人生奪っちゃったからね。自己満足だけど、このくらいは最低限やっておかないと後味が悪いからさ」
「
「なら良かったよ、後味が悪いっていうのも今更なんだけどね。少しでも軽くしようっていう自己満足だし」
「まあ、いろいろやってきたようだしな」
「まあね、それでどうかな?」
特に気負う様子もなく、ただ軽く誘うような声はさっきとのギャップがありすぎた。
誘いを受けた場合、今後どうなるのかというのも聞いておくべきなのかもしれない。
けれど、
俺が飲むと決めて、それを受け入れた。
そしてコルトは
だからこそ、手を差し出して俺はその言葉を紡ぐ。
「そうだな…よろしく頼む」
「…!うん、こちらこそ!これからよろしく!」
差し出した手にコルトも応え、握手をした。
手の大きさがだいぶ違うことにこうして握手してみると気づいてしまう。
変わってしまった俺がこれからどうなるのか。
このときの俺はわかっていなかったというのもあるんだろう。
それでも、俺は何度繰り返すことになったとしても同じ決断をするだろう。
このときに嬉しそうに笑っていたコルトの顔はいつまでも俺の中に残ることになった。
これがいつかの未来でそう呼ばれることになる俺とコルトのはじまりの朝だった。
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