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「何ですか、それ」
引き戸を開け、目の前のカウンターに座っていた店長が突き出したそれを見て、僕は少し面食らいながらそう尋ねた。
「何って見たらわかるでしょ。猫だよ猫」
店長は僕の鼻先でぶら下げていた猫を膝の上に乗せる。その猫はつい先程までそうしていたようで、何の違和感もなくそこに収まった。
「猫はわかります。どうしたのかって聞いてるんですよ」
「今朝来た依頼で二日間預かることになったんだ。青森で親戚の葬式なんだって」
店長はカウンターの上に猫を立たせた。猫はじっと僕の目を見つめているが、近付こうとはしてこない。やがてふっと目を逸らすと、猫は店長の膝にぴょんと飛び降りた。先程と同じように丸くなる。
「僕がいない時はリッ君の部屋に入れとくからね」
「何でですか。荒木さんに任せればいいじゃないですか」
「だって動物って雅美ちゃんのこと苦手じゃん」
店長が立ち上がると、猫はびっくりしたように顔を上げ、ひらりと床に着地した。
「あと、ごめんだけど雅美ちゃんが来るまで店番しといてくれない?僕他にやることあるからさ」
店の裏へ去ってゆく店長の後を、それが当然のことであるかのように猫がついて行った。僕は小さなため息をつくと、カウンターに座って文庫本を開いた。あの猫いつも学校の近くの家の塀の上にいるやつだ、たぶん。
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