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「リッ君髪の毛伸びてきたね」

僕が差し出した報告書を受け取りながら店長はそう言った。入社当初肩上で切り揃えられていた僕の髪は、今では肩の上で毛先が踊るほどに伸びた。僕はその毛束を指で摘んでみる。

「切らないの?」

「切りに行く暇がないので」

「明日行ってきなよ。別に仕事は遅れても休んでもいいからさ」

店長はそう言ってくれたが、僕は内心で少し落胆していた。その気持ちは表情には出なかったはずだが、どうせこの人にはバレているだろう。僕は隠そうともごまかそうともしなかった。

「まぁ、そのままでも気にならないって言うなら明日も普通に来ればいいけど」

店長はそう言いながら報告書をめくった。声に出さなくても伝わるなんて口と喉を動かさなくて済んで便利だな、と僕は捻くれたことを考えた。

「髪が邪魔ならこれ使いなよ」

久世さんの平坦な声が聞こえたかと思ったら、カウンターの壁から腕がニュッと延びてきた。その指先で黒いヘアゴムがつままれている。僕は少々迷ったが有り難くそれを受け取る。

「切れたら次は自分で買いなよ」

久世さんは文庫本から顔を上げずにそう言った。店長から報告書も返って来たので、また自分の部屋にこもることにする。そろそろ上根さんも帰って来る頃だし、店の方はうるさくなりそうだ。

パソコンの前に座り、もらったヘアゴムで髪をまとめた。この場所は居心地がいいだなんて、そんなのまだ認めたくない。



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