モグラは蝶ではない
國崎晶
1
「おはよう瀬川君」
夕方、店の引き戸を開けると、カウンターに座っていた荒木さんが顔を上げた。僕は「おはよう」と挨拶を返す。彼女は、相変わらず単調な喋り方だと思ったことだろう。
「どこ行ってたの?」
「コーヒーがきれてたからコンビニに行ってきた」
僕は見えやすいように左手のビニール袋を軽く持ち上げた。
「あ、そうだったんだ。ごめんね気づかなくて」
僕はその言葉に荒木さんは何も悪くないという意味の返事をした。昨日まで少しだけ残っていたコーヒーを今日全て飲み干してしまったのは僕だし、何より彼女は買い出し担当ではない。実際、荒木さんは何も悪くないのだ。
「そういえば店長どこ行ったか知らない?」
「さぁ。僕が来た時にはいなかったよ」
荒木さんが「そっかー」と呟いたのを聞いて、僕は自分の部屋へと足を早めた。唯一の共通の親しい存在である店長の話題が出たら、もう話のネタ切れなんだと何となく感じていた。毎日のようにふらふら出歩く店長の行き先なんて、荒木さんだってもう気にしてないはずだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます