第26話

 私の中にある魔力を意識して身体全体を包むようにし、まずは防御体勢にはいります。

 するとようやくドラゴンが私の存在に気がついたようで、大型トラックよりも大きそうな腕で攻めてきました。


 ……こわい。

 でもやらなきゃ。


 私は身体の中にある魔力のほぼ全てをかけて両手に集中しました。

 魔法の中でも一番斬れ味のありそうな超級と呼ばれる魔法を放ちます。


『ゴッドマジックカッター!!』


 どうやって小さな手のひらから巨大な鋭いナイフのようなものが放出されたのかはわかりません。

 飛行機より大きそうなドラゴンにも匹敵するような閃光したナイフは、すさまじいスピードでドラゴンの身体に突っ込みます。

 そして、あっという間にドラゴンは真っ二つになってしまい……?


「え、えええ!? あ。……もう良いの。魔法止まってーーーーーー!!!!」

 肝心なことを忘れていました。

 魔法の止め方を覚えていません。

 あっという間にドラゴンを真っ二つにした閃光型ナイフはそのまままっすぐ進んでいき、道中の地面は真っ二つに切り刻まれています。

 そしてさきほどドラゴンが破壊した山に突っ込んでいき……。


 ――ガギィィィィィイイイイイイン!!!!


「あ……あわわわわ……」


 山が真っ二つに割れたと思ったら、ようやく魔法が消えました。

 山とともに。


 さっきよりも激しい揺れが地面を襲います。

 規格外だと思っていたドラゴンブレスよりも、明らかに私が全力で放った超級魔法のほうが規格外だったということに、今回はさすがに気がつきました。


「神様の言うことをもっと信じるべきだった……」


 後悔してももう遅いです。

 これだけ自然を破壊してしまったのですから、いったいどれだけ働けば弁償できるのでしょうか……。


 おっと、ひとまず真っ二つになったとはいえ、ドラゴンはあらゆる素材として国王級以上と言っていましたからね。

 これだけで弁償できるかどうかは怪しいですが、すぐにマジックボックスという空属性魔法で収納しておきましょう。

 少し怖がりながらも、すでに微動だにしないドラゴンに触れながら収納します。


「はぁ……。本格的に働かないと……」


 任務は果たせましたが、今度は弁償する任務のことを考えて大きくため息をはくのでした。



 ♢【Side】♢


 メビルス王国王宮にて。

 ヴィレーナが転移魔法で消えてからしばらくして、メビルス王国に小さな地震のあと間もなく、大きな地震が襲う。

 この辺りの地域は地震は滅多におきることはないため、その衝撃に誰もが恐怖を覚えた。


 王宮に残っていた国王とキーファウスは王宮で一番高い建物から外の様子を見ていた。

 もちろん、ブブルル王国方面に視線を向けて。


「この世の終わりか!?」

「父上! モンスターの衝撃ではないかと!」

「バカな。こことブブルル王国は五百キロ以上は離れているのにか!」

「なんというバケモノなのだ……。上級モンスターとは」

「いくらヴィレーナ殿でも、こんな揺れを起こすような頭のおかしいモンスターに勝てるわけがなかろう……」


 国王たちは明らかに上級モンスターの仕業だと確信していた。

 どれだけ規格外な存在なのか、遠くから身をもって体験し、異常事態に対して言葉が荒れていた。


「ヴィ……ヴィレーナーーーー!!」


 キーファウスはすぐに王宮を飛び出そうとしたが、すぐに国王に阻止される。


「残念だが、おまえが行ったところで足手まといだ。国のナンバーワンとナンバーツーのカイン騎士団長とチュリップがブブルル王国へ向かってはおるが、やはり無理だ……。このような大きな揺れを起こすようなバケモノ相手には……」

「だからと言ってこのままただ待っているわけにはいきません!」

「おまえは次期国王になる身分になることを忘れるでない。奇跡が起きた場合、メビルス王国を背負うのはキーファウス、おまえの役目だ」


 魔法の衝撃地からはるか遠くの大地が揺れるほどの魔法は、今まで経験したことがない。

 だが、二人は勘違いをしていたのである。

 小さな揺れは上級モンスターが起こし、二回目のバケモノと言っていた揺れに関してはヴィレーナが起こしたものであることを知るわけもなかった。


 キーファウスはそれでも、大きな揺れを起こしたバケモノ退治に向かって馬車に乗ったのである。

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