第14話

「話はチュリップと息子キーファウスから聞いた。此度は感謝しても足りぬほどのことをしてくれた。本当にありがとう」


 玉座の間にて、国王陛下が深々と頭を下げてきました。

 毎度やりすぎです。

 跪かれなかっただけマシですが、国で一番偉い人がするべき態度ではないでしょう……。


「もったいなきお言葉。ですが、陛下を救えたのはたまたまですので、お気になさらないでください」

「そうはいかぬよ。どうやら私だけでなく騎士団長カインの命も救ってくれたようだし。王宮の者を二人も救ってくれたのだ。しっかりと礼は言いたい」


 チュリップの怪我を治したことに関しては、騎士団長とチュリップに口止めしておきました。

 ギガヒールを使えることだけはバレないようにしたいからです。


 国王陛下は二度も頭を下げてきます。

 今回に関してはむしろ、私としてはチュリップを褒めて欲しいです。

 彼女のおかげで魔法を覚えることができたのですから。

 そのことをハッキリと陛下に伝えました。


「ふむ……。ではチュリップにも礼をあとで伝えておこう。それにしても噂で聞くヴィレーナ殿とは大違いだ」

「噂ですか?」

「ブブルル王国の王は言っておった。強欲で給金をあげろとうるさいとな」


 実のところ、ゴルザーフ陛下に給金を上げてほしいと言った覚えはあります。

 いくら衣食住が整っているとはいえ、十万円ほどの価値である金貨一枚だけで一年を過ごすのはかなり厳しかったのです。

 女の子は色々と出費がかかりますからね。

 おそらくゴルザーフ陛下はそのことを言ったのでしょう。

 私が強欲と思われても仕方がありません。


「返す言葉もございません」

「なにを言っている? 強欲な女であれば、周囲の者たちに評価などしない。私に対し、ヴィレーナ殿にではなくチュリップのことを褒めて欲しいと言った時点で、キミはそのような人ではないだろう」


 なんという優しいことを言ってくれるのでしょうか。

 ここの王宮の人たちはみんな優しすぎます。


「先にヴィレーナ殿がこちらに来てくれていたとは驚きだった。キミの力を借りたいと交渉に行っていたのだよ。まだブブルル王国とは正式な契約はしていなかったのだが」

「その件はキーファウス殿下から聞きました。私はもうブブルル王国の人間ではありませんので、契約はしなくても良いかと」

「なんと!?」

「むしろ、すでにおいしい食事とふかふかのベッド、さらに気持ちいいお風呂まで使わせていただいています。これだけで十分ですので、毎日聖なる力の結界はこの国に展開しますよ」

「ば、ばかな! 一日につき王金貨百枚で取引だと言われていたのだぞ。交渉の末、一月王金貨二千枚での契約を提示してきたのだが……」

「そんなに必要ありません。むしろ、そのお金で今の素敵な王都を守ってください。私もこの国で楽しく過ごしていきたいですし」


「天使かキミは?」


 天使ではありませんが、転生しています……なんて言えませんね。

 笑ってごまかしました。


「光属性魔法が使え、聖女として結界も作れる。そのうえ謙虚で欲もない。キミには幸せになって欲しいと心から思う」


 横にいるチュリップは、『全属性使えるんですよ~』と言いたそうな表情をしていましたが、絶対にやめてください!

 光属性魔法だけでもレアだということが分かったため、これ以上おおごとになってほしくはありません。


「ありがとうございます。すでに王宮で楽しく過ごせていて幸せですよ」

「そうだ! なんなら息子キーファウスをもらってくれぬか!?」

「はい!?」


 話はすでにおおごとになっていました……。


「キーファウスはな、私の後継者としていずれ国王の座についてもらう。だが、未だに王妃になる者を決めていないのだよ。ヴィレーナ殿なら申し分ないであろう」

「ななななななにを言っているのですか。私など貴族でもありませんし、ただの聖女(元会社員)ですよ」

「キーファウスは地位などよりも共に幸せになれるような相手を探している。だが、あやつの周りには王妃目当てだったり金目的の者ばかりが近づいてきてな」

「色々と大変なんですね」

「むろん、キーファウスだけでなく、ヴィレーナ殿の気持ちを尊重したい。だから、まずは息子とお近づきという形で関わってくれないだろうか? そのうえでキミが気に入ってくれたら婚約してくれれば良い」


 普通は逆でしょう……。

 私が決める権限などありませんでしょうに。

 でも、キーファウス殿下とは短い付き合いではありますが、そのお人柄、優しさは魅力的だと思っていました。

 少し、彼のことを意識して向き合ってみようかなと思います。


「では、お友達からということでも良いのですか?」

「友達……か。むしろキーファウスは喜ぶだろう。そうしてくれたまえ」

「ありがとうございます」

「おっと、忘れるところだった。宰相よ、例のものを」


 このデジャヴ的なものは嫌な予感がします。

 ほら、宰相がまた重そうな巾着袋を……。


「私の命を救ってくれたのだ。ヴィレーナ殿は謙虚で遠慮深いそうだが、これくらいは受け取ってくれたまえ。受け取ってくれないと、国王としての面目が立たぬ」

「は、はぁ……ではありがたく頂戴します」

「中には王金貨が十枚入っている」


 一億円相当ですか!?

 受け取っても使い道に困りますが断ることもできません。

 せめて、国王陛下やキーファウス様やカイン騎士団長、そしてチュリップが喜んでくれそうな使い方を考えようと思います。


 宰相から受け取ったタイミングで、玉座の間のドアがバタンと音を立てて開きます。

 そこに立っているのは、信じられないといった表情を浮かべながら冷や汗をかいている女性です。

 そのまま私を素通りし、陛下の真前まで近づきました。


「へ……陛下……!? 生きておられたのですね……!」

「うむ。彼女に危ないところを助けられたのだよ」

「ぬ!?」


 私より少し年上くらいの女性で、魔女ですとアピールしているかのような黒のシルクハットをかぶっています。

 なぜか私のほうを振り向き、ジロリと睨んできました。

 え、え? 陛下を助けてはいけなかったのでしょうか。

 陛下からの視界では、今私が睨まれていることは気が付かないでしょう。


 これはもしかして異世界あるあるの修羅場ですかね。

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