第4話

 なんということでしょう。

 王宮に到着して、カイン騎士団長から真っ先に案内された場所は玉座の間でした。

 当然メビルス王国の陛下もすぐに来られまして……。

 顔を見る前に、真っ先に膝を立てて頭を下げる体勢をしないと。


「キーファウス王太子殿下。恩人を連れて参りました」

「ん。二人とも顔をあげたまえ」


 国王陛下ではなかったようですね。

 あぁなるほど。確かに椅子には座られていません。

 王太子と言っていたので次期国王陛下になられるお方に違いはありませんが。


 顔をあげてどのようなお方かしっかりと見てみます。


 二度目の、なんということでしょう!!


 彫刻で丁寧に整えられたような美しいお顔。

 群青色の髪は毛先まで綺麗に整えられています。

 低身長の私よりも顔一つ分ほど高そうで、非の打ちどころがないとはこういうことを言うのだという見本のような外見です。

 髪色と同じ群青色の瞳がとてもキラキラと輝いています。

 

 おそらくメビルス王国の女性のほとんどが、キーファウス殿下に魅了されていることでしょう。

 私のような一般人では全く釣り合うことなどありませんし、あり得ませんが、目の保養だけはしっかりとさせてもらわないと!


「お初にお目にかかります。ヴィレーナと申します」

「キーファウスだ。カインが恩人と言うくらいだから、相当なことをしたのであろう」


「とんでもございません。私――」

「彼女は俺の命を救ってくださいました」


 キーファウス殿下の目つきが変わりました。

 信じられないような表情を浮かべています。


「我が国一番の腕前をもつカインを助けた……ということか。ヴィレーナ殿だったな。そなたもモンスター退治をされるのか?」

「いえ、今回は偶然が重なって結果的に助けていたというのが正しいかと思います」

「やけに謙虚だな。カインの命を助けたことが事実であれば大変名誉であるが」


 そうなのですよ。

 神様がやってくださったことなので、神様のことを讃えていただきたいのです。

 このまま私が名誉なことだとなってしまえば、神様の手柄を奪ってしまうようなものですからバチがあたりそう。


「どうか、偶然助けたことはお気になさらず。名誉といえば、こうして王宮へ案内され、王太子殿下とお話できるだけでも十分なことでしょう」

「あまりカインのことは過小評価しないでほしい。彼は今まで王都に出現したモンスターを一人でも倒してきた男だ。国にとっても大変貴重な人物であり、私の数少ない親友でもある。改めて礼を言いたい。ありがとう。そして報酬はしっかりと与えたいのだ」


 ここまで言われてしまっては素直に受け入れるしかありません。

 神様、手柄を横取りしてしまいごめんなさい。


「大変失礼いたしました。しかし、あまりこのようなことに慣れていないもので……」


 頼まれたことをしっかりと遂行するのが当たりまえ。

 それにプラスして相手の望むことをやっておくのが当たりまえ。

 ありがとうなんて言葉を言われたのは、第三の人生が始まってからのようなものです。


 ふと、神様が言っていたことを思い出しました。

 私に幸せになってほしいと言っていましたし、こうなることも予測しての転移だったのでしょう。

 神様の好意に甘え、今回だけは私がカイン騎士団長を助けたということにさせていただきます。

 今度神様にお会いすることがあれば、精一杯のお礼を言わせてもらいますからね。


「ヴィレーナ殿はなにか望むものはあるかね?」

「……うーん。スープ……、お肉、魚……。あ、このあたりは海がないので魚は難しいですよね。米……パン……うぅん……」


 報酬と言われれば、思いつくのは晩餐の残りです。

 報酬面だけで考えると、最初の人生で毎日残業し続けていたころが一番稼げていたなぁと思います。

 最も、お金を使う時間がまったくなかったため、貯蓄したまま過労死してしまいましたが……。


「なぜ食事のメニューを並べているのだ?」

「報酬と言えば王様たちが食べ終えた残り物をいただくものでしょう?」

「ん? ヴィレーナ殿はなにを言っているのだ?」

「え? 違うのですか?」

「食事を望むのならば報酬とは別に用意させる。むろん、余りものではなくヴィレーナ殿専用のものだ」


 ブブルル王国での聖女時代よりも報酬が良すぎます。


「なぜ困っている? 俺を助けてくれたんだ。遠慮なくキーファウス王太子殿下に望みを言って構わないんだぞ」

「そういわれましても……。あ!」

「なにかあったか?」

「入浴させてもらえたら、大変ありがたいですっ!!」


 さすがに無茶なお願いをしてしまったかなと心配になります。

 キーファウス殿下とカイン騎士団長が揃って首を傾げてしまいました。


「遠慮深いのだな。お礼に関してはこちらから勝手に用意させてもらおう。今日のところは王宮にてゆっくり休み朝を迎えるが良い。むろん、食事も風呂も与えよう。専属の付き人を手配しなければな」

「ありがとうございます!」

「明日、あらためて報酬を渡す。楽しみにしててくれたまえ。少しここで待ってくれたまえ」


 ひとまず、明日までの食事と宿は確保できたようです。

 ありがとうございます神様。


 しかし、すぐに事態は急変!

 キーファウス殿下が玉座の間から退室しようとしたとき、大慌てでこの部屋に入ってきた男が顔色を真っ青にしています。 


「はぁ、はぁ……! 王太子殿下! 大変です!! 王都の南方約十キロ先にモンスター誕生の兆候する光を観測!!」

「このタイミングでか……」


 このままではかなりまずいことになりそうです。

 陽の光がない夜に聖なる力を発動すると、著しく体調を崩してしまいますが、なりふり構っていられないですね。


 モンスターの誕生だけは阻止しなければ!

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