第2話
「気がついたかね?」
「うぅ……。あれ? ここは……」
「神界じゃよ」
分厚い白い雲のような床が広々と続く不思議な空間。
これでここへ来たのは二度目です。
私の正面で声をかけてくださっているのが神様です。
白髪と白い髭を生やし、見た目は元気なおじいさんですが、もう七十億歳なのだとか。
おっと、それよりも今の現状を整理しなければですね。
とはいえ、二度目なので状況は概ね理解できました。
「私、また死んでしまったのですね」
「いや、そうではない。ワシが神級魔法(しんきゅうまほう)を使ってこちらに強制転移させた。過労死寸前のキミを袋叩きにしているバカな人間を見ていたら、気がきでなかったのでな。本来は神界ルールとしてやってはいけないことではあるが、まぁキミ相手ならいいじゃろ」
「助けてくださりありがとうございます」
どうやら死んだわけではないようです。
神様の助けがなければ確実に死んでいたでしょう。
生きたまま神界に来てしまったようですが、良いのでしょうか。
「気にすることはない。あの国に送り込んだワシのミスじゃし」
私の考えていることはお見通しのようです。
さすが神様。変なことは考えないようにして、喋ることも全部正直に話さなきゃ。
「キミをあの地に転生させたのは間違いじゃった。本当にすまぬことをした……」
「え、えぇぇぇえええ!?」
そう言いながら神様は私に対して深々と頭を下げてきました。
世界で一番偉い人でしょう!?
人? 神様? まぁ細かいことは気にしません。
ともかく、こんなに丁寧に謝罪されてしまうなんてこっちが恐縮してしまいます。
「顔を上げてください。私は神様に人生の再チャンスを与えてくださったのですよ。謝ることなどありませんよ」
「下界の様子を確認してから送り込むべきじゃった。まさかあのような愚かな者たちが集まる国だとは想定外じゃったからの……」
「いえ、楽しいこともいくつかはありましたし」
「本当にキミは器が広いのう……。もっと怒っても良いところだというのに」
「とんでもありません。今の国王陛下になる前までは本当に楽しく生きることができましたから」
「……あの毎日が、か?」
神様は目を大きく開きながら驚いているようです。
他の人にはどうかはわかりませんが、私は二度も人生を与えられたため、生きていられるだけでも幸せだと思っています。
たとえ毎日の勤務が大変でも、いつか楽しいことが待っている。
そんなことを考えていたら、神様はまた私の心の中を見透かしたようで、『うんうん』と言いながら和かに笑みを浮かべました。
「達観しとるのう。こんなに素晴らしい子に対してあの国の人間どもはなんちゅう扱いを……」
「ところで、私はこのあとどうなるのでしょうか?」
「すまないが、ブブルル王国のあった世界に戻ってもらうことになる。君はまだ死んでいない。生きたまま別の世界へ転移させることはできない決まりでな」
神様の世界にもルールがあるのでしょう。
二度目の人生を歩んだ異世界です。
まだやれなかったことを色々とできるチャンスを与えられたのでむしろありがたいです。
「ただし、隣の国メビルス王国へ転移させよう」
「ゴルザーフ陛下から聞いたことがあります。お金を稼ぐためにメビルス王国は貴重なのだと」
「……実際に転移して、君の目で確かめると良いじゃろう。おっと、忘れるところだった」
そう言って、神様は私の頭の上あたりに手をかざしてきました。
そして不思議な金色の光が放たれ、私の身体中になにかが入っていくようです。
「これはワシからの罪滅ぼしといったお詫びじゃ。今度こそキミは簡単に死ぬようなことはないじゃろう」
「聖女の力をあげてくださったのですか?」
「……まぁ、これも神界ルールでな。ワシの口からはなにも言えぬ。まぁ、キミならすぐに気がつくじゃろう」
たぶんですが、二度も聖なる力を与えてくださったのでしょう。
これで、毎日聖なる力を発動しても疲労が全くないとかチートになったのでしょうか。
すでに今の時点で身体がとんでもなく軽くなっているような感覚すらあります。
「わぁ~。ありがとうございます!! 今度こそしっかりと聖女活動を遂行できるようにしたいと思います」
「あまりこちらの事情は気にせんでもよい。キミには今度こそ幸せになってもらいたい」
「幸せに……?」
転生させていただいてるのだし、転生した結果が出ること、つまり周りが幸せになっての幸せですね。
きっと、神様もそう願って言ってくださったのでしょう。
よーし。
メビルス王国ではまず誰かに貢献して幸せになってもらいましょう。
楽しみになってきました。
「また神界に呼ぶことがあるかもしれぬが、そのときは事前にキミの心の中に話しかけよう」
「はいっ! ありがとうございます!!」
「では、良い生活を送れるようにな」
神様が再び私の頭の上に手を添えると、再び意識を失いました。
今度は過労死のような感覚ではなく、睡魔が襲ってくるような感覚で、これから転移するのでしょう。
目を覚ましたときは、メビルス王国のどこかにいるのかな。
二度目の転移は、安心して意識を預けました。
これから私は、三度目の新たな人生を歩みます。
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