平成之半妖物語ノ創作怪談纏語

アワイン

1章

『さみしんぼの柘植矢さん』


 俺がある友人から聞いた話だ。

 昔、ある村に柘植矢つげやさんっていうじいさんが田んぼをしていた。性格せいかくが悪くてさびしんぼで自己中じこちゅう柘植矢つげやさんは近所の人たちからもきらわれているし、近所にも嫌がらせをするからあんまりかかわりたくない人らしい。けど、その柘植矢つげやさんの田んぼに悪戯いたずらに中へとはいった子供たちがいた。

 子供をしかるのはいいさ。田んぼの侵入しんにゅうなんて、許可きょかなくちゃしちゃ駄目だめなんだからさ。けど、その柘植矢つげやさんは子供たちをしかるために、かまおのをもっておそいかかってきたんだ。

 子供たちはげて、親にき付いた。ここまではやりすぎだろと、子供たちの親が柘植矢つげやさんにおこりに言ったんだ。その柘植矢つげやさんは知らんぷり。なんど怒っても無視むしを決め込んで「わしは悪くない」の一点張いってんばりだ。

 かんかんに怒った親はなにをいって聞かないじいさんを無視むしした。

 そこからその子供たちを注意ちゅういしたんだ。子供たちにもう田んぼにはいらない。近づかないようにとな。こわおもいをした子供たちは、当然とうぜんもう田んぼに近付ちかづかないと決めた。


 けど、そんなある日。その子供たちとは無関係な子供が柘植矢つげやさんの田んぼの近くで行方不明になったんだ。


 最初はみんなさがした。不審者に連れられたとおもっていた。けど、次、次へと子供が行方不明になっていく。しかも、それが柘植矢つげやさんの田んぼの近くだ。もうここまでくると柘植矢つげやさんがあやしくなる。

 彼をたずねると、柘植矢つげやさんは「知らん」の一点張いってんばりでぎゃくギレして怒りはじめたんだ。あやしいとおもい込んだ一人ひとりは、ほかの人に柘植矢つげやさんの相手あいてまかせて、柘植矢つげやさんの家にはいり込んだんだ。

 和室わしつる部屋。ここまでは普通ふつうだった。しかし、ある部屋にはいる前におかしなにおいがしてきたんだ。

 その人がを開けると、ゆかよこたわり、かべへとはりつけにされている行方不明の子供たちがいる。全員のくびには切られたあとがあり、子供の全員が息絶いきたえていた。

 その人は理解りかいして悲鳴をあげた。その悲鳴を聞いて人々ひとびと柘植矢つげやさんの家に上がり込んで、惨状さんじょうの当たりにした。行方不明の子供が死んでいるのだ。柘植矢つげやさんの家にいるのに、本人ほんにんはそれを見て「わしは知らん。わしは悪くない」の一点張いってんばり。

 そのあとそく逮捕たいほ現場げんば検証けんしょう事情じじょう聴取ちょうしゅをしたんだが、動機どうきがまるでもってわからない。「わしは悪くない。わしは知らん」と何度なんどつづけている。


 いやいや、ボケているわけじゃないさ。完璧かんぺきクリアな人さ。


 だけど、動機どうき推察すいさつできる。

 最初に柘植矢つげやさんのじいさんはさびしんぼっていただろ?

 あのじいさんはわかころ何度なんど離婚りこんしているんだよ。ちいさい子供もいたらしいけど、まああんな性格せいかくじゃあ離婚りこんして母親ははおやのもとに親権しんけんいくよな。昔に親も病気びょうきくなったらしいから、一人ひとりさびしくなってくるったんだろう。

 だから、かまってもらうために近所の人に迷惑めいわくをかけたりした。だけど、子供たちをおそったほうがもっとかまってもらえるとあじをしめて、子供たちをおそっていったんだろう。最悪さいあくなかまってちゃんだ。



 柘植矢つげやさんは犯罪はんざいをしたのに、反省はんせいの意もない。死罪しざい決定けっていだ。柘植矢つげやさんによってくなった子達たち丁重ていちょうとむらわれた。柘植矢つげやさんの田んぼも更地さらちになって家がたった。柘植矢つげやさんの家もなくなって跡形あとかたもない。これにておしまいとなると、過去かこきたただの猟奇的りょうきてき殺人さつじん事件じけんになる。


 だけど、これにはつづきがあるんだよ。


 村はある程度ていど開発が進んで、町となった。けど、所々にはまだ田んぼがわずかにのこっている。柘植矢つげやさんの田んぼは更地さらちにはなったけど……ほかの人の農家のうかの田んぼもあるわけだ。

 ある日小学生がその近くの田んぼをとおると、かまった帽子ぼうしのじいさんが田んぼの中に立っていたと言う。子どもはそのじいさんにこえをかけたそうだ。

 

「おじいさん。そこはあぶないですよ!」って。


 善意ぜんいこえかけだった。ただの善意ぜんいこえかけだ。


 そのこえ反応はんのうしてじいさんは小学生を見たんだ。じっと見つめつづける。ずっと見つめつづける。小学生はそのじいさんがおかしいと気づいたんだろう。ろうとしたとき、そのじいさんが目の前にいたらしい。かまり上げて小学生を見つめていたんだと。


「わしは悪くない」と言ってそのかまりおろした。


 その日、小学生が行方不明になった。

 次の週、また小学生か行方不明になった。

 またまた次の週、集団しゅうだん下校げこうしていた小学生……中学生も行方不明になった。

 彼らに捜索そうさくとどけされているものの、その子供たちは一向いっこうに見つかっていない。行方不明になった子供たちの親はどうしたこっちゃとあわてるさ。そうしたら、昔からいる人が「柘植矢つげやさんの仕業しわざだ」と言いはじめたんだ。

 その人は昔 柘植矢つげやさんにおそわれて注意ちゅういけた子供の一人ひとりだった。まあ、柘植矢つげやさんのは、猟奇的りょうきてき殺人さつじん事件じけんとしてまちに知れわたっている。

 みなはまさかとおもったさ。その人が言うには。


柘植矢つげやさんはきっと自分じぶんの死が納得なっとくいかないのだろう。だから、ああして自分じぶんさびしくないように子をころして仲間なかまとしてり込んでいるのだろう」と。


 みんなはうそだとおもったさ。

 

 けど、話を聞いたある好奇心旺盛こうきしんおうせいな中学生が、柘植矢つげやさんをカメラにおさめようとよるに田んぼに近づいたらしい。すると、田んぼのん中にいる帽子ぼうしかぶったじいさんを見つける。

 間違まちがいない。柘植矢つげやさんだ。そうおもったんだろ。

 こえひそめて、物影ものかげかくれて柘植矢つげやさんの姿すがたを中学生はカメラでとらえようとしたとき。

 背後はいごに「おにーちゃん」とこえがかかる。なんだと、かえったとき、ランドセルを背負せおった小学生がいた。くびにはぱっくりとひらいた傷口きずぐちちながら、空虚くうきょひとみでその中学生を見つめていた。

 中学生が悲鳴をあげて、カメラをとす。げようとしたときだれかにあしつかまれてたおれた。中学生がそれを見ると、おなじようにくびにぱっくりとひらいた傷口きずぐちった小学生だった。

 げようにもものすごい力でのがれられない。中学生はおおきなかげにおおわれて、目の前を見上げる。そこにはかまり上げて、わら柘植矢つげやさんがいた。


「わしは悪くない」

 


 その中学生は奇跡的きせきてきたすかって、病院びょういんはこばれて一命いちめいめたけど、もう田んぼに近付ちかづきたくないと言っていたそうだ。このけんがあってから、ある地域ちいきでは子供を田んぼに近づけさせないらしい。



『さみしんぼの柘植矢つげやさん』

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