第45話 被害
レミリア達はフロイドの情報を基に辺境伯の所へと急いだ。辺境伯から王都へ救援要請の連絡があったらしいのだ。それ以外の領は救援を求める時間もなく壊滅していた。
魔物の森の向こう側にいくつもの煙が上がっているのが見える。目指す辺境領からもいくつもの黒煙が上がっていた。レミリアは不安で心臓の鼓動が早まっていくのがわかった。
「爆音が聞こえる!」
アレンが叫んだ。まだ戦っている最中ということだ。
(生きている人がいる!)
「リューク」
レミリアが飛竜の首に触れながら真剣な声で話しかける。
「私達を下ろしたら大暴れしてらっしゃい。愚かな魔物達に格の違いを見せてやるのよ」
「ヴォー!」
飛竜はいつものように嬉しそうに答えた。そうして一層スピードを上げて黒煙の方へ飛んでいった。
「飛竜だ!!! 飛竜だぞ!!!!」
「大賢者様が助けに来て下さった!!!」
すぐに城壁の監視塔にいた見張りがレミリア達に気が付いた。飛竜から飛び降りた3人はすぐに加勢に向かう。
「辺境伯は!?」
「治療中です!」
「フロイド任せた!」
「任されました!」
素早いやり取りで見張りの1人がフロイドを連れて城へ走っていった。レミリアとアレンは二手に別れて手当たり次第に見える魔物達に攻撃をする。辺境伯の兵士達もそれぞれに付き添って現状を教えてくれた。
「周辺の領から民が集まっています。兵士達も一緒だったので戦えるもので円を描くように城を取り囲んでいます」
魔物に追い立てられるかのように他の領民達も辺境伯の城に集まっていた。
上空では2頭の飛竜が逃げ惑う巨大な怪鳥を鋭い爪で捕らえ、首に噛みついていた。
「ああ……助かった……」
側にいた兵士が涙ぐんでいた。
「頑張りましょう! 一気に片付けるわよ!!!」
「ハイ!」
魔物達は飛竜を見てパニックになっていた。右往左往している所を全員で一斉攻撃する。
「逃がすなリューク!!!」
王都の方向へ逃げようとする魔物は素早く飛竜の牙がその足止めをした。それがわかった魔物達は急いで森へと逃げ帰る。それを誘導するようにアレンの飛竜が追い立てた。
こうして日暮前に城の周りには生きた魔物はいなくなった。飛竜達はひと運動したとばかりにわざわざ魔物の森へ狩りへ向かい、魔物を貪り食っていた。どうやらその辺りにたくさん転がっている死肉は食べないらしい。
「ガハハ! 縁は作っておくべきですなぁ!」
顔面にまだ魔物の爪痕が残っている辺境伯が豪快に笑った。厳つい顔がさらにその厳つさを増していた。
「全く! だから前線に出るのは勘弁してくれと言ったじゃないですか!」
辺境伯の弟が安心した顔をして歳の離れた兄を叱っている。そしてレミリア達に深く感謝の言葉を述べた後、また城壁へと向かった。
「彼も肩に穴があいていたのですが……」
フロイドは苦笑した。
「辺境伯様には例の防御魔法で周囲を取り囲む件、ご了承いただきました」
「ご了承もなにも! 有難い話だ!」
これで今辺境領にいる人々が魔物に食べられる可能性は減った。辺境伯は家臣を集めてその後の食糧調達や治安維持の方法を話し合い始めたので、レミリアは手の回ってなさそうな避難民達の治療にまわることにした。
城内にある広間には思ったよりも多くの避難民で溢れていた。
「グレン!?」
レミリアは驚いた。死んだと思っていたグレンが目の前で死にかけの老人の手を握っていたのだ。
彼は声の方へ顔を上げ大きく目を見開いたが、そのまま深くお辞儀をし老人の方に向き直った。
間も無くその人は息を引き取った。側にいた人々がさめざめと泣いている。
「失礼致しました……父の親友で、長年領地を守ってくれていた者でして……」
「いえ、不用意に声をかけてごめんなさい」
「治癒魔法はかけていただいたのですが……寿命だったようです」
諦めるように言葉を絞り出していた。
「……貴方は治療を受けたの?」
グレンの顔は真横に向かって大きな切り裂き傷があった。左耳も半分に割れて、左目も潰れている。何より、腕が片方なかった。
「はい。大丈夫です」
レミリアはそっとグレンの耳に触れ、裂けていた耳だけくっつけた。
「レミリア様~~~!!!」
大声を上げてやって来たのはグレンの兄だった。そのまままた土下座スタイルになる。
「どうか! どうか今はこの愚弟をお見逃しください! 弟は自らの身を盾にして領民達をここまで守ってきたのです! どうか今だけは!」
「貴方! 私をなんだと思っているのですか! いいから自分の仕事をしなさい!」
グレンの兄もボロボロだった。大きな傷がないからだろう。まだ治療魔法もうけていないようだったので、その場に座らせて体を治す。
「貴方達、私から具体的な仕返しがないから不安ですか?」
「いえ! 決してそのようなことは……」
国外追放の冤罪を仕立てられたのだ。それなりにデカい仕返しをしようと……この国を潰してやろうと思った。国がなければ彼等が依存する権力は存在しなくなる。それを自分の手で奪ってやるのだと。
なのにグレンはもう、その権力とは関係ないところにいた。国どころか
「はぁぁぁぁ」
大きなため息を吐いたレミリアをグレンもグレンの兄も緊張した面持ちでみていた。
「一発痛い目見てもらうわ」
そういってグレンの目の前に立った。
グレンは真面目な顔をして歯を食いしばっていた。だが、衝撃が来たのは顔面ではなく股の下だった。
「~~~~~ッ!!!」
声にならない悲鳴をあげて床に倒れ込んだ。
レミリアは渾身の力を込めてグレンの股間を蹴り上げたのだ。
周囲の男性達が青ざめている。
「さぁ! これでしばらく私にビビらなくていいでしょ!!!」
(あーあ。復讐ってなかなかうまくいかないものね……)
レミリアにはこれ以上、グレンから奪うものはないように思えたのだ。
(国外追放してくれてなかったら、私はアレン達に会えなかったし)
今はそう納得するほかない。
「言っとくけど、また舐めた真似したその時はこんなんじゃ済まないわよ」
グレンもその兄も、コクコクと急いで頭を縦に振っていた。
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