第21話 取り巻き
「姉上が勉強ばかりするから、僕までやらされるんじゃないか! これだから皆に可愛気がないって言われるんだ!」
レミリアは腹違いの同年齢の異母弟ロニーとは馬が合わなかった。半分同じ血が流れているはずなのに、こうも違うのかと揉めるたびに思うのだった。
ゲーム内では妾の子として正妻の娘であるレミリアに虐められながらも、明るくユーモアさを失わずに育った彼だったが、この世界ではレミリアが虐めなかったからなのか、随分尊大な性格になってしまった。
勉強も魔術も義姉には絶対に敵わなかった。だが本人はそれが単純な努力の差だとは認めず環境のせいにしていた。
「母上が下級貴族出身のせいだ!」
レミリアはそんな弟を全く相手にしなかった。広い屋敷内では滅多に会うこともなく、ほとんど他人として成長した。
ロニーの言うことに反論することはただ1つ、
「いや、私は可愛いでしょ」
それだけだった。
レミリアは自分の見た目を気に入っていた。仮にもゲームのメインキャラの1人だ。キャラクターデザインにも力が入っている。悪役令嬢らしく、少々見た目はキツイが、綺麗で真っ直ぐな黒髪に大きなグレーの瞳。肌も透き通るように美しく、真っ赤な唇がなんとも魅惑的だった。
母は既に亡くなっていたが、ロニーの母よりはずっと身分の高い女性だった為、肩書重視のこの国の貴族社会では生きやすかった。
「貴女の様な方が主人の婚約者など認めたくありません!」
「あら、彼方から許可なんて貰う必要はないのよ? 勘違いなさらないで」
アルベルトの従者グレンは、出会った時からレミリアのことが好きではなかった。それまで誰よりも優秀だった彼が彼女の前では霞んでしまうからだ。
彼は下級貴族の出身だったが、勉強でも、魔術でもいつも1番だった。地頭の良さに加えてそうなるよう彼自身努力していた。だから下級貴族と言えども周囲から一目置かれており、その自覚があった彼はいつも周りを見下していた。
なのにやっと王太子の従者の立場を得たと思ったら、その婚約者は彼の上を行く存在だった。勉強も魔術も、そして身分も彼女の方が上だった。さらに言うと、婚約相手は未来の王だ。
グレンは日に日に嫉妬の炎に包まれていった。
「レミリア様は人間性に問題があります!」
「ああ、俺もそう思うよ」
だが彼には、根拠のない曖昧な人格否定くらいしか出来ることはなかった。
自分の代わりに婚約者を非難するグレンにアルベルトは満足していた。憎まれ役を買ってくれるし、何よりレミリアから言い返されるのが自分でないのは助かる。
アルベルトはグレンを親友の様に扱った。そのことがグレンの感情的な態度を助長したのだった。
騎士団長の息子カイルは惚れた女の言葉を全て鵜呑みにしていた。彼は、自分は人を見る目があると言うのが口癖だった。
「オレに言わせてもらうと、レミリア嬢ほど非道な令嬢はいない! 未来の王妃には到底ふさわしくない女性だ。オレは色んな人間を見てきた。人を見る目には自信がある」
彼の発言を間接的に聞いたレミリアは呆れる様にため息をついた。
「そんなこと自称されましてもねぇ」
その呟きに、周囲の学生はうんうんと頷いたのだった。
カイルは確かに剣術に関しては学園内に右に出る者はおらず、腕っぷしも強かった。それ故に厄介者扱いされていた。
ゲーム内でヒロインであるユリアに厳しい苦言を呈すはずのレミリアがその役目を放棄していた為、あまりにこの学園に相応しくない、品性に欠ける行いをした場合、他の令嬢や令息が注意をしていた。
「カイル……私また下品って言われちゃった……やっぱり平民だからかな……?」
目に涙を溜めて上目遣いで見つめられた彼は正義に燃え始めた。
「あの優しい彼女に暴言を吐くなど、お前らの口の方がよっぽど下品じゃないか! 卑怯者め!!!」
「紳士の風上にも置けんやつだ!」
令嬢達には大声で威嚇し、令息達に至っては時に拳まで出てくる始末だった。
「レミリア様が言わせているみたいなの……やっぱり私なんかが皆と仲がいいのが気に入らないみたい」
「なんだって!?」
レミリアは王太子の婚約者だ。彼と言えどもそう簡単に意見できる相手ではない……なんて考えは全く頭の中に存在しないのがカイルだ。
「なんて卑劣な!!! それが未来の国母がすることですか!!?」
「はあ? 自分の頭で考えられないような人と会話したくないのですが」
その言葉以降、レミリアから相手にされることはなかった。
カイルは拳を震わせていたが、
「私なんかの為にありがとう!」
そう言って無邪気に腕にしがみつくユリアをみて、彼はますます自分の行動に間違いはないと自信を持ったのだった。
「いつでもオレを頼ってくれ!」
結局、ロニーもグレンもカイルも恋に破れた。だが、彼らは未来の国を担うと言われている者達だ。順風満帆な人生が待っている。
それに、これからもユリアの側で彼女を支えようと心に誓った。卒業してしばらくは心の奥底で、実はユリアは自分のことを愛しているのではと期待していた。
だがそんな彼らもついに違和感を感じ始める。
「あれ? おかしいな? あれ? あれ?」
と気が付くのはもう間もなくの話。
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